エスパドリーユと聞いて、どんなものかすぐにイメージできる男性はまだまだ少ない。 靴であることを知っていたとしても、原産国や素材について説明できる者は多くないだろう。そこで、エスパドリーユの歴史から、世界中の伊達男を魅了している、その秘密を現地取材で解き明かす。

 スペイン・マヨルカ島のシューズメーカーを取材した際、「ここのもうひとつの名産」と工場オーナーが案内してくれたのが、エスパドリーユの工房だった。作業中の職人の傍らには、ジュートのロープを渦巻き状にしてつくられたソールが、うずたかく積まれていた。

 エスパドリーユのルーツはフランスとスペインの国境に横たわるピレネー山脈周辺、カタルーニャやオクシタニア、バスクなどの地域といわれる。かの地の農夫たちの履き物だったエスパドリーユは、映画などの影響でファッションアイテムとして、アメリカやヨーロッパで人気を博するようになる。

 さらにイヴ・サンローランがカスタニエールにウェッジタイプのエスパドリーユの制作を依頼して以降は、様々なメゾンやデザイナーが、夏のリラックスアイテムとして手がけるようになった。

 ソールに強度をつけるためラバーやレザーを配したりする場合もあるが、ジュート製のソールとコットンキャンバスのアッパーという基本構造は今日も大きく変わっていない。

 そして、足下に感じる麻の質感が、実際のフィッティング以上に、心理的な開放感をもたらすのだ。

右上から/レッドソールは、ここでも健在! ¥75,000(クリスチャン ルブタン ジャパン) ヌバック×クロコの型押しがリッチ。¥64,000(JIMMY CHOO) 夏へと誘うパームツリー柄の一足。¥50,000(イヴ・サンローラン〈サンローラン バイ エディ・スリマン〉) ジュートをシボ革とラバーで挟む、斬新なデザイン。¥106,000(ヴァレンティノインフォメーションデスク〈ヴァレンティノ ガラヴァーニ〉)

 緻密な取材で知られた服飾ジャーナリスト、故・山口淳氏の共著書『ヘミングウェイの流儀』の中に「バスク人御用達の縄編底靴」という章がある。

 その著書によれば、『エスパドリーユの原型は古代ローマまで遡れるが、ジュートソールにキャンバスのアッパーを合わせた現在のかたちがバスクで生まれたのは19世紀中頃だった』と記されている。それも、海辺の民だけではなく、山岳部の人々も重用した庶民の靴だった。つまり、そもそも海用ではなく、ましてやリゾート用でもなかったわけだ。

なぜ、ラグジュアリーな靴として世界中に広まったのか?

左/イヴ・モンタンの着用しているのも編み上げタイプだ。今日では女性的に感じるが、50年代のスナップではよく見かける。右/ジェラルド・マーフィーの「発見」によりリゾート靴の代名詞となったエスパドリーユ。若き日のショーン・コネリーもバスクシャツ(マリンボーダーシャツ)とともに編み上げのサンダルタイプを着用。まさに基本型ともいえるスタイルでスナップされている。

 同書にこんな一文がある。

「エスパドリーユを欧米でリゾート靴として流行させたのは、船乗り向け衣料店でマリンボーダーシャツとともにこの靴を『発見した』ジェラルド・マーフィーというのが服飾史の定説だ」

 マーフィーというのは1920年頃南仏に住んでいた米国人画家。彼がフィッツジェラルドや、ピカソ、ヘミングウェイと親しかったため、バスク発祥のこのふたつのアイテムはアーティストや作家たちの愛用品になり、やがて流行アイテムとして広まっていったのだった。

 バスク人たちの生活の知恵から生まれた庶民の靴。旅とともに人生を歩んだヘミングウェイや、ピカソたちが愛用した靴。そう、伊達男の旅にエスパドリーユが相応しいのは、そんな男たちの記憶が詰まっているからなのだ。

伊達男を目指す紳士諸君、エスパドリーユが世界で最もラグジュアリーなカジュアルシューズであることを、ご理解いただけただろうか? スペインが産んだ麻靴をバッグに忍ばせて、夏の旅に出てみてはいかがだだろう。

※価格はすべて税抜です。※価格は2016年夏号掲載時の情報です。

この記事の執筆者
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MEN'S Precious編集部 
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MEN'S Precious2016年夏号「麻」名品の猛き風格より
名品の魅力を伝える「モノ語りマガジン」を手がける編集者集団です。メンズ・ラグジュアリーのモノ・コト・知識情報、服装のHow toや選ぶべきクルマ、味わうべき美食などの情報を提供します。
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クレジット :
撮影/戸田嘉昭・小池紀行(パイルドライバー/静物) 文/菅原幸裕
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