日本の国宝指定ともの、さきごろ世界遺産にも認定された群馬県の富岡製糸場。日本の近代産業勃興に多大な貢献をした、この富岡製糸場が全盛期の頃に生産していた絹糸が、日本が誇る純国産種〝太平長安〞である。こN幻の絹糸が「三越伊勢丹」とトップクラスの生産者たちによって復活を遂げた! 最高級絹の品格を現代に受け継ぐ逸品に、今後注目してほしい。
日本の養蚕業が西欧列強諸国から注目される時代があった
遡ること1803年、蚕種製造で成功を収めた上垣守國が『養蚕秘録』を著した。’48年にフランス語訳が出版され、’65年にはイタリア語訳も登場したほどの名著で、日本の養蚕技術がヨーロッパを刮目させたのである。桑の植裁や繭から糸を引く繰糸の方法など、日本の高度な養蚕技術に倣ったのは、上質な絹糸は蚕の育成が大前提にあるからだ。
太平長安は、良質の蚕を掛け合わせて生まれた極上の品種。富岡製糸場が全盛期の頃に生産されていた純国産である。第二次世界大戦中には、細くて軽い、しかも丈夫な“太平長安”をパラシュートの素材に生かす計画もあったというのである。
時代の流れで、日本の上質なシルクの輸出量は減少したが、太平長安は、蚕の孵化を繰り返して温存した。そんな幻になりかけた名品種太平長安のシルク生地を、「三越伊勢丹」がよみがえらせたのである。
蚕の飼育は、天皇杯を受賞した農家に依頼し、国内有数の製糸場を経て製織。トップクラスの生産者が関わり、清涼感に富むサッカー地に絞り込んで製作。先染めした太平長安の生糸を経と緯で色を変えて織った生地は、微妙な色合いとパリッとした質感が白眉だ。また、これまで呉服にしか承認されなかった、純国産シルクの証明書を得て、初めて紳士のジャケット用生地として展開することが可能になったのである。
ファッション大国のイタリアと日本が修好通商条約を結んでから、2016年で150年。イタリア側の主たる締結理由が、良質な蚕の輸入だったことを記しておこう。
最高級シルクで適える極上のダブルブレスト
太平長安のシアサッカー地で完成した一着は、遠目からも清涼感と軽やかさ、リッチ感が伝わる一着。現代的でグラマラスなシルエットを踏襲し、存在感も抜群。
絹産業の歴史を感じさせる最高級のシルクジャケット。このたぐいまれなる着心地を、ぜひ体験してみていただきたい。
※価格はすべて税抜です。※価格はすべて2016年夏号掲載時の価格です。
- TEXT :
- 矢部克已 エグゼクティブファッションエディター
- BY :
- MEN'S Precious2016年夏号「絹」名品の華奢な艶めきよ
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- クレジット :
- 撮影/戸田嘉昭・小池紀行(パイルドライバー/静物) スタイリスト/石川英治(tablerockstudio) 文/矢部克已