V8エンジンをキャビン後方に搭載した2座のミッドシップ・フェラーリは、これまで488GTBという名で呼ばれていた。昨年、大幅改良を施したカリフォルニアTがポルトフィーノと名乗るようになったが、今年は488GTBも改良を受けて、新たにF8トリブートと呼ばれる。スポーツ性能は言わずもがな。さらに快適性にも配慮したという魅惑的なモデルを、ライフスタイルジャーナリストの小川フミオ氏が解説する。

新世代のミドシップフェラーリらしさをまとう

ノーズ部分には空気を採り入れて前輪用のダウンフォースを生む「Sダクト」が採用されている。
ノーズ部分には空気を採り入れて前輪用のダウンフォースを生む「Sダクト」が採用されている。
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フェラーリのよさはなにか。ラグジュリーと、スポーツ、男に必要なふたつの世界を知り尽くしたプロダクトを手がけてきたことだ。

V8ミドシップモデルは、究極のスポーツカーだ。2019年にデビューした「フェラーリF8トリブート」は、従来の488GTBに代わる新世代のスポーツ・フェラーリである。

720CV(イタリアの馬力表示)のパワーと、軽量化ボディと、最新のシャシーコントロールシステムと、ボディの空力性能の見直しにより、488GTBに対して、加速力もコーナリングスピードも、上をいっている。

空力付加物で武装したボディスタイリングは、あきらかに488GTBの流れを汲むけれど、ヘッドライトが縦基調から橫基調になるなど、アップデートが施されている。

むしろ10月9日に日本でもお披露目された1000CVの新世代プラグインハイブリッドスポーツ、SF90ストラダーレへと連なる新世代のミドシップフェラーリという印象だ。

ジャーナリスト向けの試乗会は、2019年9月に、フェラーリ本社で行われた。フィオラノというフェラーリファンにはおなじみのテストトラックと、マラネロとその周辺の山岳路と高速道路がドライブのためのコースに選ばれた。

エンジンは3,902ccV型8気筒ターボで、530kWの最高出力と770Nmの最大トルクを発生。
エンジンは3,902ccV型8気筒ターボで、530kWの最高出力と770Nmの最大トルクを発生。

スポーツ性だけでなく快適性も向上

全長4611ミリ、全幅1979ミリ、全高1206ミリ。
全長4611ミリ、全幅1979ミリ、全高1206ミリ。

488GTBの670CV(493kW)に対して、F8トリブートの3,902ccV8ターボエンジンは、720CV(530kW)を発生する。車体は40キロ軽量化だ。

結果、静止から時速100キロまでに要する時間は、488GTBの3.0秒から2.9秒に、時速200キロまでは8.3秒から7.8秒へと、短縮されているのだ。

試乗当日は雨。あいにくの雨、だけれど、いっぽうで、F8トリブートの操縦性の許容範囲の広さを知ることが出来た。マネッティーノというドライブモードセレクターを装備していて、スポーツモードでは、後輪に押しだされるように、車体が簡単にドリフトモードに入る。

対して、雨天用のウェットモードを選ぶと、びしっと安定方向へと操縦性が変わる。アクセルペダルを多少乱暴に踏んでも、車両はほぼ挙動を乱さない。

ハンドリングの安定感はたいしたもので、ウェットモードがトルクをコントロールしているかぎり、ピレリのノーマルタイヤは濡れた路面も確実にグリップする。

それでも加減速の速さはまことに気持ちがいいレベルだ。ストレートで強く加速すると、すばやい加速性を見せるのだ。フィオラノはトリッキーなコーナーがいくつもあるコースだが、それゆえ、F8トリブートのさまざまなキャラクターが楽しめたといえる。

F8トリブートは、「スポーツ性とともに快適性も向上させ、フェラーリ初めてというひともターゲットに据えたモデル」と、マラネロでフェラーリの開発陣は言うのだった。

いよいよフェラーリがハイブリッド時代に突入するなかで、開発の総指揮をする、ミハエル・ヒューゴ・ライターズ氏は、インタビューのなかで「それでもガソリン車の未来を信じています」と語ってくれた。

未来のことを部外者が予測するのは困難だけれど、F8トリブートに乗るとエンジンの楽しさが堪能できる。いまや多少後ろめたい楽しみともいえるけれど、みごとな出来のスポーツカーだ。日本では、3328万円(10パーセントの消費税込み)で販売される。

エレガントなタンの内装もあれば、写真のようにレーシーな仕様もある。
エレガントなタンの内装もあれば、写真のようにレーシーな仕様もある。
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この記事の執筆者
自動車誌やグルメ誌の編集長経験をもつフリーランス。守備範囲はほかにもホテル、旅、プロダクト全般、インタビューなど。ライフスタイル誌やウェブメディアなどで活躍中。