仕事のできる人というのは、おしなべて強い精神力の持ち主。他方で、メンタルの弱い人は、どんなに才能があっても、ここ一番の勝負所でプレッシャーに押しつぶされたり、ストレスで体調を崩したりなどで、実力を発揮することができません。あなたは、そんな残念なメンタルの持ち主になっていませんか?
スポーツ界において一流アスリートたちが、本番でのパフォーマンスの質を高めるために、メンタルトレーニングを日々積み重ねているのは周知の事実ですが、実は、メンタルを鍛えるだけでなく、逆に弱めてしまう習慣もあるようです。しかも、その習慣はついついやってしまうもので、意識的に改善を試みないと、どんどんメンタルが脆くなる一方なのだとか……。
今回は、メンタルを弱くするNG習慣とその克服方法について、五輪メダリストなどのメンタルコーチを務める飯山晄朗さんから教わります。
どんどんメンタルが弱くなるNG習慣とその克服方法4選
■1:過去の失敗を何度も思い出す
一生懸命、勉強したのに試験に合格できなかった。期待されて任された大事なプレゼンに失敗した。そうした挫折経験は誰しも持ち合わせていることでしょう。ただ、過去の失敗を何度も繰り返し思い出してしまうと、ますます自分に自信が持てず、負け犬メンタルになってしまうと飯山さんは主張します。
「目標や取り組みを実現できるかどうかは、実際にやってみないとわからないこと。やる前や、やっている最中に『どうせ自分にはできない』となるのは、単なる思い込みです。その人が本当にできないわけではありません。
それにもかかわらず、『自分にはできない』と弱腰になってしまうのは、過去の失敗経験を脳が覚え込んでしまっているせいです。
人間の脳というのは、過去の強烈な感情を伴うイメージを記憶するという性質があります。このため、失敗したときに味わった恐怖感や絶望感が強ければ強いほど、そのマイナスの感情を繰り返し思い出してしまうのです。そうしているうちに、『自分にはできない』という思い込みはますます強化されていきます。いわばマイナスのメンタルトレーニングをしているようなものです。
ただ、ご安心ください。脳の記憶は上書き保存が可能です。さきほど申し上げたように、脳は強烈な感情を記憶しますから、プラスの感情を繰り返しイメージするだけでも、『できない』という思い込みを『できる』という自信に変えていくことができます。
そのためには、まずは過去を振り返り、何かに夢中になっていたり、絶好調だったり出来事を思い返すこと。そのときのワクワクしていた感情を思い起こすのは、『自分にはできない』というマイナスの感情を上書きするのに有効です。
それから、自分は将来どうなっていたいのか考えて、その夢や目標を達成したり、楽しいことをやっていたりする自分の姿を想像するのもいいでしょう。ただぼんやり『こうなっていたらいいな』ではなく、うまくいっている自分の笑顔、家族や応援してくれる人たちの笑顔、そして何よりも『やったー』、『うれしい』『よかったー』といった、プラスの感情を強く意識するのがポイントです」(飯山さん)
過去の苦い記憶をつい思い出してしまうのは、仕方がありません。ただ、無意識の習慣を、意識的な行動によって変えていくことはできるはず。過去について思い悩みやすい人は、意識的に自分の過去や現在、未来についてポジティブなイメージを思い描くようにしましょう。
■2:否定的な口癖がある
「どうせ自分にはできない」など否定的なことがらは、思い浮かべるだけでも有害ですが、それ以上に、そうした言葉を口に出してしまうのは、より深刻なダメージをメンタルにもたらすとのこと。
「日本では昔から言霊信仰がありますが、これは単なるスピリチュアルな話ではなく、脳科学の観点でも、言葉には不思議な力があることが実証されています。
というのは、脳には入力(思い・イメージ)よりも出力(言葉・動作)を信用する性質があるのです。つまり、プラスの言葉を口に出せば、その影響を受けて脳はプラス思考になりますし、逆に、マイナスの言葉を口に出せば出すほど、脳はどんどんマイナス思考になります。
とはいえ、否定的な口癖はよくない、と頭ではわかってはいても、ついつい『でも・どうせ・だって』とか『疲れた』とか『もう嫌だ』など、口にしてしまう人もいることでしょう。
そういう人におすすめなのは、否定的な言葉の効果を打ち消す方法です。否定的な言葉を発した後、『今のはなし』と口に出し、手で目の前を払いのける動作をしましょう。
さきほど、脳には入力(思い・イメージ)よりも出力(言葉・動作)を信用する性質があるとお伝えしましたが、もう1つの性質として、脳は後の出力をより強く記憶するようにできています。つまり、脳は“終わりよければすべてよし”です。
否定的な言葉を発したら、あとからそれを打ち消すことによって、マイナスの影響を無効化できます。100回マイナス思考になったら、101回プラス思考にすればいいのです」(飯山さん)
口癖をなくすのはなかなか難しいですが、「また言っちゃった」と自己嫌悪に陥るよりも、「今のなし」で締めくくりましょう。
■3:人のせいにばかりする
営業成績が落ちたり商談に失敗したりなど物事がうまくいかないとき、「上司が無能だから」「あの取引先は頑固だから」「会社に資金力がないから」などと、自分以外の人や環境のせいばかりにしていませんか? こうした他責的な思考パターンがあると、どんどん逆境に弱くなる一方!
「物事がうまくいかないときに、自分以外の人や環境のせいばかりにする人は、いつも不平不満を口にし、否定的な脳になっているためにストレスを感じやすくなります。とりわけ逆境の場面では、とても大きなストレスを感じ、ピンチを乗り越えることができません。
ピンチを乗り越えられず挫折を味わうと、また自分以外に責任を転嫁することで、ますますストレスに弱くなり……という悪循環に陥り、何事にも諦め癖がついてしまい、やがて無気力になります。
こうした負の連鎖を断ち切るには、“わがまま”の精神を“おかげさま”に切り替える必要があるでしょう。
他人のせいにばかりする人というのは、要するに、自分のことしか考えていないわがままなんですね。悪いことがあれば、常に自分が被害者のような気がして、『あいつのせいだ』と責任転嫁して自己防衛をはかろうとする。
そんな状況から脱却するには、自分ばかりに向いた意識を外に向けて、どんな小さなことでも、“おかげさま”と感謝する習慣をもつこと。おかげさまの対象は、人でも出来事で何でもありです。
実は、脳は感謝するとエンドルフィンというプラスのホルモンを分泌し、大きなストレスを感じる逆境の場面でもプラスの感情になれます。一流のアスリートもよく感謝の言葉を口にしますが、彼らの強さの秘密も感謝力の高さにあるのかもしれません」(飯山さん)
一流のアスリートは、敗戦後のインタビューにおいて、決してコーチやチームメイトのせいにはしません。彼らのような強いメンタルを身につけるには、すぐに他人のせいにするのではなく、感謝の習慣をもちましょう。
■4:他人のネガティブな言葉に、いちいち反応してしまう
自分ではポジティブでいようと心がけていても、職場の人や家族など身近な人物から否定的な言葉をかけられて心が折れそうになってしまう人は多いのでは?
しかし、周囲の人の心ない言葉にいちいち反応するのは悪手だと、飯山さんは主張します。
「たとえば、『お前はなんてダメな奴なんだ』とか『どうせ君にはできっこない』などと否定的な言葉に対して、『そうか、私はダメな奴なのか』と深刻に悩んでしまったり、『なんてひどいことを!』などと相手に反論を試みようとしたりするのは、おすすめできません。
というのも、自分の中にためこむにせよ、相手に怒りをぶつけるにせよ、いずれにせよネガティブな感情を増幅させることにしかならないからです。
否定的なことを言われたら、まず真っ先にやるべきなのは、マイナスの感情をプラスに切り替えること。
さきほど申し上げたように、人間の脳はそのとき思ったことよりも、そのあとの行動のほうを強く記憶しますから、敢えて、にっこり笑って『さすが、部長。いいことをいいますね』、『私のためを思って素晴らしいアドバイスをありがとう』などとプラスの言葉を出力しましょう。相手に面と向かって口に出さなくても、自分の心のなかでこっそりつぶやくだけでも十分効果はあります。
とはいえ、その否定的な言葉をかけてきたのが心底嫌いな相手の場合、こうしたポジティブな出力をするのもなかなか難しいかもしれません。
その場合、無理にポジティブに振る舞うのではなく、相手を人間だと思わない、宇宙人や珍獣だと思ってしまうというのも、1つの手です。
たとえば、知らない犬にワンワン激しく吠えられたとして、『嫌われた』『非難された』などと気に病む人はいないのではないでしょうか。否定的な言葉を無効化するのに、相手を人間だと思わないのは有効な手段だといえます」(飯山さん)
ネガティブな人間からは距離をおくに越したことはありませんが、どうしても付き合わざるをえない相手もいますよね。メンタルにダメージを加えられそうになったら、表情や言葉でプラスの出力をする、もしくは、そもそも相手を人間だと思わないという奥義で身を守りましょう。
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実力はあるはずなのに本番に弱い人は、NG習慣に心当たりがあるのでは? あなたの才能を存分に発揮すべく、今日からぜひ克服方法を実践してきましょう。
公式ページ
- TEXT :
- Precious.jp編集部
- WRITING :
- 中田綾美