自分の親世代からの相続や、将来の自分が行うであろう相続について、損をしてしまうことやトラブルを避けるためにも、早めに準備しておきたいもの。相続に関する基本的な知識はもちろん、2018年に大改正された、相続法に基づく正しい知識を備えることで、いざというときに慌てず、後悔することが減らせるはずです。

そこで本シリーズでは、今日から連続して10日間、全10回に渡り、相続・贈与・遺言のエキスパートである税理士の井口麻里子さんに、相続に関する素朴な疑問に答えていただきます。

井口 麻里子さん
税理士
(いぐち・まりこ)税理士。辻・本郷税理士法人相続部に所属。富裕層の大規模な相続から、一般家庭のミニマムな相続、さらには国際相続まであらゆるケースに精通した相続・贈与・遺言のエキスパート。近年はあらかじめ作成すれば、要らぬトラブルを避けられる遺言の啓蒙に力を入れている。
井口麻里子のブログ

第1回目は「Q.相続法改正で、遺言の書き方はどう変わったの?」です。

遺言の書き方は、相続法改正でどう変わった? 2つのメリットを確認

法改正で遺言を書く際に2つのメリットが
法改正で遺言を書く際に2つのメリットが

相続法が約40年ぶりに大改正されたのを受け、遺言の書き方をはじめ、さまざまな内容が変更されました。相続法が大改正された背景は、高齢化の進展、家族の在り方や親に対する国民意識などの変化へ対応するためです。遺言の書き方の変更により、主に次の2つのメリットが生まれました」

■メリット1:「自筆証書遺言」が簡便になった

「2018年の民法改正により、遺言の一種『自筆証書遺言』を書く際に、大変、簡便になりました。

財産目録については、ワープロで作成しても他人が書いてもOKとなりました。さらには不動産については登記簿謄本、預貯金については通帳のコピーで代替してもOKとなりました。

もともと自筆証書遺言は自分一人で手軽に書け、費用もかからないため、多くの方に好まれていましたが、遺言全文、日付及び氏名を自書する遺言であるため、手が震えるような高齢者等には大変な負担でした。

所有する不動産などを登記簿謄本通り記載する必要があり、それが複数あれば、なおさら負担が増していたのです。大改正により大変簡便になった上に、間違いも大幅に減ると思われます。

ただし、遺言書本文と財産目録との一体性を確保するため、全ページに自筆で署名し、押印することが必要です」

■メリット2:時間や記入不備、争いなど、そのほかのデメリットが軽減された

「その他、自筆証書遺言にあった、3つの大きなデメリットが軽減されました」

●デメリット1:相続発生後に家庭裁判所で検認という手続きが必要で、遺言を執行するのに時間がかかる。

●デメリット2:素人が書くため、遺言の法的要件が不備で、無効となるケースが多い。

●デメリット3:書いた時点で「父さん、ぼけていたんじゃないか?」「本当に本人が書いたのか?」という疑義が生じやすい。つまり偽造や改ざんのリスクが高く、争族の火種となりやすい。

「相続を巡る紛争を防止するため、2020年7月10日(金)から、自筆証書遺言を法務局で保管してくれる制度が始まることが決まりました。

法務局へ預けた自筆証書遺言の場合は、家庭裁判所の検認が不要となるため、スムーズな相続が可能となります。また、遺言が法形式を満たしているかチェックしてくれますし、国家機関である法務局に預けることになるので、破棄や改ざんのリスクは低減します」

■そのほかのメリット:遺言で高齢の配偶者を守ることができるようになった

高齢の配偶者が守られるメリット
高齢の配偶者が守られるメリット

井口先生によると、相続法の大改正では、遺言に関連するそのほかのメリットもあるといいます。

「夫婦の一方が所有する自宅を、その配偶者へ生前に贈与するか遺贈する場合、自宅を遺産分割の対象から外すことが可能となりました。

例えば、父母と子一人の家族で、父が自宅(2,000万円)を所有、これ以外の財産は預貯金2,000万円のみという場合です。このとき、父が遺言で『自宅を妻へ遺贈する』旨を書いておけば、父が亡くなった際には、妻と子は自宅を除く預貯金2,000万円について、遺産分割を行うこととなります。

仮に法定相続分(2分の一ずつ)で妻と子とで分けるとします。

この遺言がなかった場合は、全財産(自宅+財産)の4,000万円について2分の一するので、仮に妻が2,000万円の自宅を相続し、子が預貯金2,000万円を相続したとすると、妻は住む家を確保できても預貯金がなく、老後の資金に不安を抱えることとなります。

一方、この遺言があれば、預貯金2,000万円だけを妻と子で2分の一するため、妻は自宅と預貯金1,000万円を取得し、子は預貯金1,000万円を取得します。

これにより、妻は安住できる家と老後資金を確保できます。高齢化が進み『親の面倒は子がみるもの』というわけではなくなった昨今の社会情勢の中、自分の死後に残される他方配偶者の老後を気遣うなら、こうした遺言を検討すべきでしょう。

特に近年、急増している中高年の再婚では、こうした遺言が、後妻と前妻の子との間で有効な手段となります」


今回は、遺言や相続について、法改正でどう変化したのか?をまとめて解説しました。スムーズに相続するため、相続で損をしないためにも、覚えておきましょう。

相続について学ぶ全10回シリーズ、明日はずばり「遺言ってどうやって書くの?」という疑問にお答えしていきます!

この記事の執筆者
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WRITING :
石原亜香利
EDIT :
安念美和子、榊原淳
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