ランボルギーニもアストンマーティンもSUVをラインアップに加えるなか、いまだにスポーツカー一筋を貫くフェラーリ。近い将来SUVが登場するという噂は尽きないが、少なくとも現時点で最も実用性に富み、多目的な資質を備えているのが、GTC4ルッソ(12気筒モデル)及びGTC4ルッソT(V8モデル)だ。メンズプレシャスで多数のクルマを試乗するライター林 公美子氏は、GTC4ルッソTの汎用性の高さ、極上のエレガンスとハイパフォーマンス、そのすべてにラグジュアリーな価値が宿ると語る。
グリジオ・イングリッドで染めた優美なたたずまい
幸運にもフェラーリを初体験させてもらった。
これまでの接触といえば、助手席に乗せてもらったことや撮影用車両をちょこっと動かしたくらいしかなく、長時間にわたってじっくり対峙したのは今回が初めて。
初体験のお相手は『GTC4LussoT』。
V8ターボエンジンを搭載した4シーターのグランツーリスモだ。
見た目はご覧の通り、極上エレガンス。
後部にはゴルフバッグを2つ収納できる450Lのラゲッジルームがある。いい意味でイメージを裏切る実用性を備えながら、フェラーリらしい優美でダイナミックな曲線を描くシューティングブレーク・クーペだ。
街中にも自然の中にも嫌味なく溶け込む、なんともグレイスフルなこのボディカラーは、かの名画『カサブランカ』のヒロインを演じた女優、イングリッド・バーグマンの瞳の色なんだそう。フェラーリの曲線美は女体美を表すというが、瞳の色まで表現するとはなんてロマンティックなデザイナー陣だろう。
カラー名は「Grigio Ingrid(グリジオ・イングリッド)」。内装もこれまた上品なグレージュ系のレザーが張り巡らされている。
内外ともにうっとりするようなルックス(もちろんエンジンルームも美しい)、ユースフルな荷室、家族や友人、あるいは手荷物を気軽にのせられる後部座席──。
運転席だって、腰をおろす所作も優雅にこなせる、程よいシートポジションだ。よいしょっと低い位置まで腰を沈めなくてはならないスポーツカー特有の着座感とは違う。
「これはもう、贅を極めたラグジュアリーカーなんじゃないか」というのが第一印象。
実際、日常使いにもロングドライブにも適するように設計されている。
だが、ひとたびエンジンを吹かせてみると、ゾクッとした。
オーケストラで低い打楽器音を体の芯で感じ取った時のような感覚。舞台の幕開けに一気にボルテージが高まる直前のあの感じ。
初体験だから、出だしは慎重に。感触を確かめるように、じわじわとアクセルを踏み込んでいく。するとどうだろう。私の拙い足先の微細な動きでも、意思をそのままダイレクトに体現してくれる。思い描いた通り、緩やかに、シームレスに加速してくれるのだ。人馬一体感ハンパない。
スピードに乗り始めると、フェラーリ特有のエグゾースト・サウンドとともに高揚感に包まれる。BGMはいらない。
走っているだけでアトラクション。いつもの道が遊園地になる
V12エンジンを積んでいる『GTC4Lusso』が4輪駆動なのに対し、3.9リットルV8ターボエンジンの『GTC4Lusso T』は後輪駆動+4輪操舵(4WS)を採用。高性能なパワーユニットかつ軽量設計と相まって、この人馬一体感を創出する、俊敏なレスポンス性を叶えているのだという。
見た目は極上エレガンスでいて、中身はハイスペックで超パワフル。
やっぱりこれは、眉目秀麗なスポーツカーなのだ。
それでいて低燃費を実現させているから、街乗りにも対応してくれる。汎用性の高いフェラーリといえよう。
いつの世も御仁たちの羨望の先にあったブランドは、やっぱり只者じゃなかった。
ただ走っているだけで、まるでアトラクションのように胸が躍る。
いつもの通勤路だって、鬱々とした日常を忘れさせる遊園地になる。
購入コストはディズニーランドを貸し切るより高いし、隣にミッキーもいないけど、子供の頃に味わった「うっわー!!」というあの高揚感と同じ。
もし少しでも惹かれるものがあるなら、フェラーリに名前負けして「俺には関係ない」と見ぬフリをしてしまってはもったない。「○○歳までにうちのガレージにコイツを収めるには……」と、この先の人生のモチベーションにするにも良さそう。
プランをより現実的にするには、リセールバリューの相場を知っておくといいかも。
<フェラーリ GTC4ルッソT>
ボディサイズ:全長4,922×全幅1,980×全高1,383㎜
駆動方式:FR(後輪駆動)
トランスミッション:7速F1 DCT
エンジン:3,855ccV型8気筒ターボ
最高出力:449kW(610CV)/7,500rpm
最大トルク:760Nm/3,000~5,250rpm
価格:¥30,990,000〜(税込)
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- TEXT :
- 林 公美子 ライター