ジョン ロブ、セルジオ・ロッシ、デルヴォー、エッティンガー、ピエール マルコリーニ……。有名無名に関わらず、世界中からブランドの原石を探し出し、日本に紹介し続けてきた輸入商社「キャンディー」。その創業者であり卓越した目利き力で業界に名を馳せるのが、代表取締役会長の田島雄志氏である。そんな彼が近年運命の出合いを果たし、日本における総輸入販売元となっているのが、英国を代表するラグジュアリーブランド、コノリーだ。ここではそんな彼と、その思いを知るふたりの盟友による鼎談をお届けする
全貌を露わにしつつある、レザーブランド「コノリー」って?
田島 私とコノリーとの出合いは、英国で留学生活を送っていた、1970年代に遡ります。知人に譲ってもらったネイビーのブリストル『405』に使われていた革が「コノリーレザー」だったんです。
重松 私は小学生時代に逗子に住んでいたのですが、昭和天皇が葉山の御用邸にいらっしゃるときに乗られていたのがロールス・ロイス『ファントム』だったのです。それ以来ロールス・ロイス以外のクルマを格好いいと思えないのですが(笑)、その後そんなクルマのシートに使われているのが「コノリーレザー」であることを知りました。それがコノリーとの出合いです。
齋藤 「コノリーレザー」は、完全に男性的なクルマとイメージが重なり合っていましたからね。フランスにはそういったものはないから、さすがロンドンは男性のファッションの街だな、と思ったのが、僕の最初の印象ですね。面白いのは、エルメスの場合は乗馬用の鞍からはじまり人が扱うモノへと移行してきましたが、コノリーはずっとクルマを中心とした乗り物の中で歴史を重ねてきたブランドなんですよね。
田島 そのとおりです。「コノリーレザー」はロールス・ロイスをはじめとする自動車のほか、コンコルドのシートや国会議事堂の椅子などにレザーを供給してきましたが、1878年の創業以来、人が扱うモノはつくっていませんでした。その後、イザベル・エッティギィさんがオーナーになったことで、ライフスタイル全般をカバーするブランドへと変えていったわけです。
齋藤 3年ほど前にロンドンのお店でイザベルさんにお会いしたのですが、優しくやわらかな手触りのバッグなどもあり、だんだんファッションに近づいてきたんだなあ、と感じました。エルメスもコノリーも、もともとは馬具をルーツにしていたブランドですが、21世紀になって再び近づいてきているのかもしれませんね。
田島 イザベルさんはもともとジョゼフのオーナーだった方で、彼女のセンスや人脈を通じて進化しています。たとえば現在のコノリーはフランスのシャルべがシャツを卸す数少ないショップですし、唯一、カーシューの展開も許されている。それほどに、彼女は目利きな方なんですよ。
重松 カーシューを展開してくれたのはすごくうれしいです。最近日本では買えなくなっていましたからね。あと、ぺたんこになるバッグ(「シーバッグ」)や小銭入れも使いやすくて気に入っています。コノリーの革は、なめし方の違いだと思うのですが、ぬめり感がなんとも言えませんね。
田島 この店に入ると革のにおいがすごいでしょう?それはクロムなめし特有のもので、バッグなどとは違い、丈夫さが求められるシート用の革は、このなめし方じゃなきゃダメなんです。コノリーでもシート用の革を除くと、一部のバッグにしか使っていませんが。
重松 技術背景があるから、伝統が生まれているんですよね。コノリーもロールス・ロイスもそうですが、現代の私たちが享受しているラグジュアリーな製品やライフスタイルは、もともとはその時代ごとの貴族、日本なら公家といったトップヒエラルキーのためだけにつくられた文化なんです。それが後々になって一般化されていき、ひとつの流通に乗るわけですが。われわれが長年追い求め続けてきたのは、まさにそういった文化なんですよ
田島 そう。イギリスのものづくりとは、まさにそういった階級制度の産物だったんです。今のブランドビジネスはあまりにもマーケティング偏重ですが、私が興味を抱いているのは、そういったイギリス本来のシンプルなプロダクトや、文化なんです。今やブランドといえば何百店舗も構えるのが普通ですが、コノリーはここ(銀座店)を除けばロンドン・クリフォードストリートの1店舗しかありません。
齋藤 現代のコノリーはひとつの館(メゾン)から、ライフスタイルそのものを表現していますよね。重松さんがおっしゃるように、もともとのラグジュアリーとは、まさにこういうものだったんです。目の肥えた上流階級のニーズに応えるためにいいものをつくり、そんな彼らのライフスタイルに人々が憧れるという。コノリーのように、こういった本来のラグジュアリーやものづくりを提唱するブランドが登場したのは、とてもうれしいことですね。20世紀は大量生産、大量消費の時代でしたが、この先はもう一度、世の中が本質に目覚めるときが来ると思います。だからあまりビジネスを広げすぎないように(笑)。
田島 いやいや、大丈夫(笑)。コノリーを日本で展開するときに、周りからは「今時こんな高いブランドやるの?」なんて言われましたが、大きく手を広げるつもりはありませんから。今やネットでなんでも買える時代ですが、たとえば京都の老舗料亭のように、知る人ぞ知る本物の存在であり続けられたらうれしいです。
齋藤 だれでも受け入れるのではなく、モノに対する見識や愛情を持った人たちだけに愛されればいいんですよね。僕はコノリーを通じて、上質を知るお客さん同士がご飯を食べに行って、いろいろな話をしたり……。そんな昔ながらの社会的なコミュニティが生まれてくることに期待します。
重松 コノリーには、世の中のヒエラルキーのトップから降りてきた本物のラグジュアリーを、現代にフィットさせつつ、大切に残していってほしいですね。「フローとストック」という言葉がありますが、ストック部分の継承こそが、これからの私たちが為すべき仕事だと思います。
- TEXT :
- MEN'S Precious編集部
- BY :
- MEN'S Precious2019年秋号より
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