ジョン ロブ、デルヴォー、エッティンガー、ピエール マルコリーニ……。世界中からブランドの原石を発掘し、育て続けてきた輸入商社「キャンディー」。その創業者であり、英国を代表するレザーブランド、コノリーの日本での総輸入販売元を手がけるのが、代表取締役会長の田島雄志氏だ。そして、そんな英国のビジネスと紳士道を知り尽くした彼が、次世代の紳士と太鼓判を押すのが、サッカー指導者の藤田俊哉さんである。
紳士とコノリー、一流のあり方
田島 今回は私が2018年にロンドンで知り合った若い友人、藤田俊哉さんにお越しいただきました。スポーツ選手の中には成功すると流行りのブランドで身を固める方も多いのですが、本当にクラスのある人になるためには、アンダーステイトメントな装いをしたほうがいいですよ、といったことをお話ししました。これから日本を背負っていく藤田さんのような方には、コノリーのようなブランドを知っていてほしいですからね。
齋藤 僕もまったく同感ですね。近年では多くのブランドが投機の対象になったことで、長年培われた伝統や精神性が、どんどん希薄になっています。そして高くて派手ならいい、という人に向けたものづくりまで始めてしまっていますから。
藤田 僕は長年ファッションの世界とは縁遠いところにいましたが、選手として一流になるために、昔からいつも少しだけ背伸びして、「王道をゆくモノ」や「いいモノ」を知ろうとしてきました。
齋藤 私も子供の頃サッカーをやっていましたが、父からは常に「英国で発祥したフットボールとは、紳士のスポーツだ」と言われてきました。藤田さんはそんなサッカーを長年続けて、現在はヨーロッパで生活されているわけですから、まさに王道の西欧文化を吸収されているんでしょうね。普段から、こういったシックな装いをお好みなんですか?
藤田 基本的にイギリスやイタリアのサッカー選手や監督って、スーツをきちっと着るんです。
田島 監督がスーツを着てネクタイを締めているスポーツなんて、ほかにないですからね。
藤田 そういう世界にいますから、やはり洋服はきれいに着たいし、できる限り王道と言われている境地に近づきたいなと思っています。実際のところ、そうやって無理をしてでも若いときに手に入れたものって、今になってよかったな、って思うことが多いんですよね。
齋藤 それが自分らしいスタイルになっていくんだと思いますね。……で、そんな中で出合われたのがコノリーだと。
藤田 高級車のレザーというイメージが強かったので、洋服を展開していることは意外でした。田島会長にイザベルさん(現オーナーのイザベル・エッティギィさん)をご紹介いただいて、いろいろなコレクションを見せていただいたのですが、彼女にすすめられて自分ではとても選ばないような深いグリーンのニットジャケットをはおったりして。新しい自分が発見できましたね(笑)。
田島 藤田さんは現役の頃からジョン ロブの靴をはいておられたぐらいですから、いいモノがわかるんですよ。
藤田 昔からレザーが大好きなんです。大切に手入れをしながらつきあうことで、どんどん表情が変わるし自分になじみますから。僕、サッカーシューズも浮気をせずに、ひとつのモデルをずっと貫いたんですよ。
田島 モノを大切にする人は、人間も大切にするんです。
藤田 今度は僕から先輩方に伺いたいのですが、海外でビジネスをする上で求められる装いとは、どんなものですか?
齋藤 コミュニティによって違いますが、ヨーロッパはまだ階級社会にひもづくドレスコードが残っていますよね。
田島 「今日はブラックタイじゃなくていいですよ」と言われても、フォーマルにグレーは着ていかない。やはりネイビースーツなんです。
齋藤 ヨーロッパは社交の世界ですから。それがわからないと、きちっと生活していけないかもしれませんね。
藤田 僕は引退後に監督になりたいという目標を抱えてヨーロッパに渡りました。そしてオランダで3年半コーチを務めましたが、その上にトライするときに、様々な壁に直面したんです。この壁を打ち破るためにいろいろな方に会ってきましたが、そのときに大切なのがやはり第一印象。日本人を代表するとまでは思いませんが、きちんとした奴だと思われたいですからね。
齋藤 戦場はピッチだけじゃない、と。
藤田 現在はオランダを拠点にしながらヨーロッパ中を移動しているのですが、コノリーの『シーバッグ』は大活躍していますよ。軽いし、間口が大きくて荷物を入れやすいし、荷物が少ないときは畳めるからとても便利。そして何より、レザーが上質。みんな「素敵だね」と言ってくれます。これを基本にしつつ、必要なときに大きなスーツケースを持って行くのが、僕の旅のスタイルです。
齋藤 外国人と深くつきあう上では、やはりその国の歴史や文化を知ることも大切です。19世紀に創業したコノリーのような歴史のあるブランドのバッグを使うことも、それに役立つのでは?
藤田 本当ですね。「いいバッグ持ってるね」とか「いいスーツ着ているね」とか、海外の人はよく褒めてくれますから。そこから一気に話が円滑になるんです。
田島 ヨーロッパのプロサッカーが100年の歴史を持つのに対し、日本はまだ30年足らず。これからどうやって、新しい日本のサッカー文化を築いていかれるおつもりですか?
藤田 日本のサッカー文化はプロ化によって飛躍的に進化しました。しかし同時にヨーロッパも伸びていますから、なかなか追いつかない。もっと急がなくては、と思います。
齋藤 向こうの文化をどんどん日本に導入することと同時に、「日本人ならではの気質」をどうやってサッカーの中で表現するか、というのも大切ですよね。僕がエルメスで仕事をしながら、いちばん気にしていたのはそこでした。藤田さんには、世界のほかの国とは違う、日本ならではのサッカーをつくってほしいですね。それは先ほどおっしゃった「自分らしいスタイルを持つ」ことと、共通すると思うんですよ。
田島 世界で勝負する藤田さんにもっと頑張ってもらえば、その影響を受けた若い人たちも伸びていく。コノリーが、「世界の一流」を知る手助けになれば、僕もうれしいです。
- TEXT :
- MEN'S Precious編集部
- BY :
- MEN'S Precious2020年冬号より
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- 河又雅俊