曲がりなりにもクルマにまつわる物書きとなれたのは、幼い頃に憧れた’60〜’70年代の英国車たちのおかげである。中でもお気に入りは『ミニ』とMG『ミジェット』の2台。絶対的な存在の『ミニ』は迷わずガレージに収めた。一方、『ミジェット』にはライバルともいうべき、トライアンフ『スピットファイア』が存在したが、私は迷った挙げ句に『ミジェット』を選んだ。なぜか?

英国車の伝統とは一線を画す艶めかしいデザインに心を揺さぶられる

トライアンフ『スピットファイア』

4輪メーカーの〝トライアンフ〟が(2輪部門は1930年代に売却)、小型スポーツカーの〝オースチン〟『ヒーレー・スプライト』や〝MG〟『ミジェット』に対抗して開発したスポーツカー。1962年から改良を重ね、’80年まで5世代にわたって生産された。写真のモデルは’67年式のマークⅢ。中古車相場は200万~400万円。
4輪メーカーの「トライアンフ」が(2輪部門は1930年代に売却)、小型スポーツカーのオースチン『ヒーレー・スプライト』やMG『ミジェット』に対抗して開発したスポーツカー。1962年から改良を重ね、’80年まで5世代にわたって生産された。写真のモデルは’67年式のマークⅢ。中古車相場は200万~400万円。

『スピットファイア』を眺めていると、ときに可愛く、ときに素っ気ないほどのシンプルさを見せる英国流のたたずまいとは、少しばかり違って見えたからだ。特に艶めかしいほどの抑揚を見せるウエストラインは官能的ですらあり、およそ英国車の技ではないと思っていた。何よりイタリア人デザイナー、ジョヴァンニ・ミケロッティが手がけたという事実に対して、英国車への反逆的な香りすら勝手に感じていたのだ。

以来、近づくことはなかったが、年をとるほど惹かれていく自分がいた。知らず知らずのうちに、大人の女性の艶っぽさを受け入れられるようになったのだろう。幸いにも、まだ“彼女”はときどき見かける。今のうちにつきあってみたい。(文・佐藤篤司/自動車ライター)

※2019年秋号掲載時の情報です。

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MEN'S Precious編集部 
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MEN'S Precious2019年秋号より
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戸田嘉昭(パイルドライバー)