変わらないけど新しい、不変のデザイン
911は、ポルシェの全利益の30%を稼ぎ出す、名実ともに看板モデル。カイエンやマカンなどのSUV勢が、いくら屋台骨を支える重要なモデルに成長してきたといっても、やはりポルシェの精神的な支柱を担うのは911であり、異論のある人はいないはずだ。その911も現在では8代目となり、992という開発コードで呼ばれている。
極端な表現かもしれないが、真横から見たときのフォルムや、直立気味のフロントガラス、そしてリアエンドに向かってなだらかに降りていくルーフラインなど、基本的なフォルムは初代から変わっていない。さらにガラスエリアにおいても、サイドガラスの水滴型デザイン、台形のフロントガラスやリアガラスの基本デザインも変わらない。この伝統的な設計が、唯一無二の風景、佇まいを創り出している。それでもまったく古びてみえないのは、最新型で4点式のLEDヘッドライトを装備したり、テールランプを細長くするなどして、よりシャープで未来的なディテールを要所に盛り込んでいるからだ。
自分の体の一部のように馴染む感覚
やはり初代以来の伝統である、2ドアのスポーツカーとしては前後長が短めのドアを開けて乗り込むと、そこにもやはり受け継がれてきた911そのものの風景がある。メーター類や操作系はブラッシュアップによって最新のデザインに変わっているのだが、基本的なレイアウトに大きな変更はなし。歴代の911に乗り続けてきた人が最新型に乗り換えても、5分も走れば以前と同じように操れてしまう。
しかも、911未経験者であっても、すぐに体に馴染むのがすごいところ。まるで自分の体の一部のように、感覚が一瞬にして変わるのである。今回もその感覚を、最新の911「カレラS」でも味わうことができた。
登場から半世紀にわたって基本的なドライビングポジションが変わらず、目線の高さ、シートのホールド感、フロントガラスから見える左右のフロントフェンダーの稜線が見える風景など、どれをとっても共通。そのため、走り出しから手慣れた感じで運転できる。混雑した市街地でもサイズ感が掴みやすいので、ストレスも感じない。
4WDという選択肢もあるけれど……
試乗した911は、「カレラS」というモデル。「S」のつかないカレラよりもエンジンとブレーキの性能が高められている(エンジン最高出力65PS増・最大トルク80Nm増)。3Lのフラット6エンジンは実に切れ味よく、シャープにエンジン回転が上昇していく。そしてリアエンジンならではの、後輪の強力なトラクションによって、パワーを確実に路面にたたきつけて鋭く加速する。
さすがに、この強烈な加速感は最新型特有のものだが、ドライビングフィールは相変わらずの911であって、他には味わえない感覚である。コーナリングでの安定感、後ろからグッと引っ張られるかのように効いてくるブレーキ、どれを取っても不変の運転感覚である。
一方で、911はその誕生以来、強力なトラクション性能と同時に、後ろが重いゆえの操縦性の難しさが指摘されてきた。モデルチェンジを重ねるごとに安定性は高くなり、最新型は普通に運転している限り、挙動を乱してお尻を振るようなそぶりは微塵もみせない。後日、ハンドルを握った4WDのカレラ4S(スペックはカレラSと同じ)に至っては、スポーツ走行でも4輪ががっちりと路面を掴み、素晴らしい安定ぶりだった。ちなみに、個人的には本稿で紹介している、2WDのカレラSが好ましいと感じた。理由は、鼻先の軽さ。スペックだけで優劣が付けられないのもまた、スポーツカーの、ポルシェ911の奥深さである。
こうして、なんとも楽しいスポーツ走行のひとときを過ごしたあと、もうひとつの911ならではの素顔に出会った。それは“ゆっくり走っても楽しいこと”である。911は本当に乗り心地がよく、市街地から高速からワインディングにいたるまで、どんな速度域でもドライバーを楽しませてくれる術を知っているのだ。ゆっくり走ることを許容してくれるスポーツカーなど、そんなに多くあるものではない。半世紀以上にわたって受け継がれてきた不変の個性と、そして最新メカニズムの絶妙なる融合。これがあるからこそ“コイツで車生活を終えたい”と思う人たちが多くいるのだと思う。
【ポルシェ911 カレラS】
ボディサイズ:全長×全幅×全高:4,519×1,852×1,300mm
車重:1,515kg
駆動方式:RR
トランスミッション:8速AT(PDK)
水平対向6気筒:2,981cc
最高出力:331kw(450PS/6,500rpm)
最大トルク:530Nm/2,300~5,000rpm
価格:¥16,968,519
問い合わせ先
- TEXT :
- 佐藤篤司 自動車ライター
- PHOTO :
- 尾形和美