世の中にワールドタイマーやGMTウォッチの類は数あれど、モンブランの「1858 ジオスフェール」の独創性は抜きん出ている。なにしろ、文字盤上には赤道で真っ二つにした地球があり、それが自転するのだ。小生は眺めているだけで、時の経つのも忘れてしまう。多くのワールドタイマーは固定した都市名リングと回転する24時間リングで世界の時刻を表示する。しかしこの腕時計は東から太陽が昇り西に沈む、地球のそのままを再現しているのである。複雑機構ながら単純明快で洒脱なこの機構は、モンブランだけのものだ。これほどのコンプリケーションに無茶なプレミアムを乗せず、クロノグラフ並の価格しか付けないのもまたモンブランらしい誠実さだ。
地球を俯瞰で見られるモンブラン「1858 ジオスフェール」に待望のブルーが加わった
そんな現代の名機の2020年の新作モデルが魅力的だ。まず、文字盤にとうとうブルーが仲間入りした。「1858 ジオスフェール」は最初にブラック文字盤で誕生し、グリーンが続いた。腕時計の近年のメガトレンドであるブルーが、予定調和のごとく現れたのである。さらに、チタン製のケースが採用されたことも見逃せない。ワールドタイマーは世界中に持ち出され、時にはタフに扱われる。軽量であることも傷や腐食に強いこともアドバンテージであり、その点でチタンもまた待たれていた。そして、ブレスレット仕様も初登場である。
正直なところ、モンブランの革ストラップはイタリア・フィレンツェの工房でつくられていて、カーフもアリゲーターも非常に出来がいい。オプションで用意されたNATOストラップも気を惹く。その点を承知のうえで、このブレスレットには心を奪われる。内側5連の米粒状のコマはSSをポリッシュし、外側のチタン製コマと合わせるバイマテリアル、バイメタルのブレスレット。趣向と性能を兼ね備え、なにより見た目がうつくしい。
ノスタルジックな雰囲気に、威厳を感じさせるラインナップ
夏場に革ストラップを休ませるのは、日本の腕時計ファンの知恵だ。気温も湿度も低く(最近はそうでもないが)欧州では、新作時計がまず革ストラップで発表されることが珍しくない。そしてそれらにメタルブレスレット版が登場して、日本での人気に突然、火がつくこともまた多いものだ。軽やかな金属で重装備を果たした「1858 ジオスフェール」は、今年絶対の有望株である。
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- TEXT :
- 並木浩一 時計ジャーナリスト