生まれてはじめてスーツにそでを通してから、足掛け60年近くがたった。熊谷のテーラーで仕立てたのが私にとって1着目のスーツだった。あれから何着のスーツを着てきたことだろう。

たとえ何年たっても、「よいスーツ」の定義は変わらない。なぜなら、90年もの昔に、クラシックスーツのモデルは完成しているからである。

タイムレスなクラシックスーツこそが常に新鮮な存在だ!

スーツの格好よさは、ジャケットのラペル幅、ウエストの絞り、肩線の印象。トラウザーズのクリースの落ち加減、ワタリ幅のバランスで決まる。

多くの方から「現代に選ぶべき、着るべきスーツは何か?」という質問をよく受ける。

間違いなく、生地は適度に打ち込みのある、シャリ感を備えた平織や綾織。色はコーディネートの幅の広いミディアムグレー。流行り廃りのないタイムレスな形で、手間暇をかけて仕立てられたものである。30年ほど前に、フィレンツェの「リヴェラーノ&リヴェラーノ」で仕立てたスーツが、いまだに私のワードローブの第一線で活躍しているのがよい例だ。

様々な事柄が目まぐるしく変化する現代において、変わらないスーツを選ぶことこそが、私は「新しさ」だと思っている。

嬉しいことに、今、香港や上海などの日本以外のアジア諸都市において、若い世代がクラシックな装いに目覚めている。彼らのスーツに対する強い探究心が、洋服の生まれ故郷であるヨーロッパで、新たな風を吹かせているように見える。そうした流れのなかで、決して、これ見よがしな派手なコーディネートに陥ることなく、伝統的で控えめなスーツを着ることに回帰したい。

ビジネスでも、男のエレガンスを表現

左/スーツ¥450,000・シャツ¥59,000・タイ¥21,000(ダンヒル) チーフ/私物 右/スーツ¥328,000〈ベルヴェスト〉・シャツ¥43,000〈フライ〉・タイ¥12,000〈バーニーズ ニューヨーク〉/以上バーニーズ ニューヨーク カスタマーセンター チーフ/私物
左/スーツ¥450,000・シャツ¥59,000・タイ¥21,000(ダンヒル) チーフ/私物 右/スーツ¥328,000〈ベルヴェスト〉・シャツ¥43,000〈フライ〉・タイ¥12,000〈バーニーズ ニューヨーク〉/以上バーニーズ ニューヨーク カスタマーセンター チーフ/私物

左/表情豊かなグレンチェックは、格子のデザインを見極めて、スーツを選ぶのが重要である。オフィシャルな場で最適な、控えめで小さな格子のグレンチェックは、フォーマルな雰囲気をも漂わせ、オンのシーンで格好のスーツとなる。ウールとシルクの混紡による、しなやかでツヤのある生地を使った、シングルふたつボタンの正統的なスーツに、セミワイドカラーの白シャツを合わせ、幾何学模様をプリントしたライトグレーのタイで、紳士的で上品なスタイルを完成させる。そで山を目立たせたシャープな肩のラインと、バランスのいい大きさのノッチドラペルが、絶妙なコントラストを生んだ一着だ。

右/スーツのデザインは、遊びのないものを選択し、正統的に着こなすのが今の時代も正解だ。伝統を受け継ぎ、確かなつくりに裏打ちされたピンストライプのネイビースーツは、時代を超えた男のワードローブにおける不動の存在である。薄い肩パッドで軽快な着用感をもたらす、シングル3ボタン段返りのスーツに、高番手のコットン素材を使用した淡いブルーのシャツを合わせ、ストライプが鮮やかなタイで胸元を引き締める。信頼感と清潔感が共存した、永遠の紳士のスタイルを確実に身につけよう。

軽やかで清涼感のあるスーツ

左/スーツ¥540,000〈チェザレ アットリーニ〉・シャツ¥36,000〈ボリエッロ〉/以上伊勢丹新宿店 タイ¥16,000〈ホリデー&ブラウン〉・チーフ¥7,000〈アルクーリ〉/以上ビームス 六本木ヒルズ 右/スーツ¥154,000(シップス 銀座店〈カルーゾ〉) シャツ¥27,000〈エリコ フォルミコラ〉・タイ¥16,000〈フランコ バッシ〉/以上ビームス 六本木ヒルズ チーフ¥7,200(シップス 銀座店〈ピーター ブレア〉)

左/別名サンクロスと呼ばれるソラーロ素材を使ったスーツは、太陽の下で玉虫色のような光沢感を放つのが持ち味。週末やリゾートシーンでも、威力を発揮する一着だ。ウールとコットン素材で織り上げた、爽やかなソラーロによるシングル3ボタン段返りのスーツは、背抜き仕立てで軽快さも加わる。胸元は、シンプルな白シャツに対して、柄を強調したプリントタイで個性を主張するコーディネートに挑戦したい。スーツの組下は、2プリーツのベルトレスタイプ。

右/都会的なネイビーやグレーに比べ、カントリーな雰囲気をかもし出すブラウン。カジュアルで軽やかさが漂うブラウンは、今の時代のクラシックスタイルを象徴する注目の色である。張りのあるコットン素材を使った、シャープなラペルのダブル4つボタンのスーツは、パッチポケットを配したしなやかな仕立てで、軽快さが宿る。パンツはサイドアジャスターのベルトレスタイプ。そんなスーツのコーディネートは、シャツとタイをストライプで合わせるのが洒落ている。

※価格はすべて税抜です。

<出典>
MEN'S Precious2020春号「世界の腕利き職人がこの一冊に凝縮!クラフツマンシップの名品図鑑」
【内容紹介】世界のクラフツマンシップと心優しき名品たち/新しいスーツとジャケットの教科書/ル・コルビュジエとは何者だったのか?/ジョンロブの永世名品『ウィリアム』の未来/ジャイアント馬場はジェントルマン馬場だった!ほか
2020年4月6日発売 ¥1,230(税込)
この記事の執筆者
TEXT :
MEN'S Precious編集部 
BY :
MEN'S Precious2020年春号より
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PHOTO :
渡辺修身
STYLIST :
四方彰敬
WRITING :
赤峰幸生(インコントロ代表)
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