大柄で贅を尽くしたクーペが似合うのは、年齢を重ねた大人だけだ。ベントレー「コンチネンタル」を前にすると、自分はドライバーとしてふさわしい品格を備えているだろうかという思いがよぎる。決して価格やパフォーマンスにひるんでいるわけではない。仮に、まだ自分が未熟だとしても、共に成長することができればいい。あるいはすぐに手に入れることが叶わなくても、大人のクーペと過ごす日々を夢見ることは、人生の大きな糧となる。

ラグジュアリークーペの理想形

ゆとりのあるサイズでクーペの美しさを表現した「コンチネンタルGT」。男性のみならず、女性がハンドルを握っても決まるのは、全身から発する品格のなせるところ。
ゆとりのあるサイズでクーペの美しさを表現した「コンチネンタルGT」。男性のみならず、女性がハンドルを握っても決まるのは、全身から発する品格のなせるところ。
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開きの狭いV型6気筒エンジンをふたつ組み合わせた構成から、W型と呼ばれる12気筒エンジン。従来型から改良されての搭載だ。
開きの狭いV型6気筒エンジンをふたつ組み合わせた構成から、W型と呼ばれる12気筒エンジン。従来型から改良されての搭載だ。

6リッターのW型12気筒ツインターボエンジン、最高出力は635馬力、最大トルクは900Nm、そして0~100 km / hをわずか3.7秒で駆け抜け、その最高速度は333km。このパフォーマンスを見る限り、押し出しが強く、それなりに凶暴なスタイルのスーパースポーツが登場しても、決して違和感は抱かない。

しかし、これがひとたびベントレーの手にかかると、なんとも美しくエレガントで、実に穏やかなスタイルのクーペとして成立する。そのたたずまいは、ベントレー伝統の大きなラジエーターグリルと丸形をモチーフとした4灯式のライトという方式を守りながら、しっかりと洗練された上品な表情となっている。前から見れば、相当にワイド&ローのスタイルと映るはずなのだが、そこはベントレーの持っている堂々たる風格のお陰か、スポーティという表現よりも、重厚という方が当たっているように思う。

そんなフロントから伸びやかな表情を見せるボディサイドに回ってみる。ルーフラインは緩やかな弧を描きながらリアエンドへと続いていく。一方でウエストラインから下ではリアホールの手前から一気にボリュームを増し、グラマラスに盛り上がり、リアエンドまで続いていく。極上のエレガントさと色気さえ感じさせるグラマラスの両立を、これほどまでに美しく成立させているクーペは他にはないだろう。

厚みのあるドアを開け、ドライバーズシートに腰を下ろす。目の前には美しく磨き込まれたウッドパネルが広がり、さらに計算され尽くしたかのように上質なレザーがウッドの間を埋める。確かに一部のスイッチはタッチ式になったり、メーターもフルデジタル表示になり、インパネの風景は現代風の味付けも見える。それでもこれだけの風格を感じさせるインテリアは、さすがにベントレーの仕事である。まさにキャビン内は夏の爽やかな風が吹き抜けていきそうな風景なのである。

「あぁ、やっぱりベントレーには唯一無二の世界観があるのだなぁ」といつもながら感じる瞬間である。

全開で走ることを強要しないからいい

スポーティな印象を持たせつつ、高級素材を惜しみなく使ったインテリア。前面中央のパネルは、ジャガールクルトのレベルソのように、(電動で)3連メーター〜ナビ画面〜ウッドとローテーションする仕掛け。見せなくていいときは隠すという意匠が、とても英国的。
スポーティな印象を持たせつつ、高級素材を惜しみなく使ったインテリア。前面中央のパネルは、ジャガールクルトのレベルソのように、(電動で)3連メーター〜ナビ画面〜ウッドとローテーションする仕掛け。見せなくていいときは隠すという意匠が、とても英国的。
吟味した革を惜しみなく使ったシートの肌触りは、吸い付くようにやわらか。近年、クルマのレザーシートは耐久性を向上させるための加工を施していて、中には「もはや革であって革でない」ものもあるが、ベントレーは本物志向のオーナーの期待にしっかりと応えてくれる。
吟味した革を惜しみなく使ったシートの肌触りは、吸い付くようにやわらか。近年、クルマのレザーシートは耐久性を向上させるための加工を施していて、中には「もはや革であって革でない」ものもあるが、ベントレーは本物志向のオーナーの期待にしっかりと応えてくれる。
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だが油断してはいけない。このエレガンスの中には635馬力という“狂気”が潜んでいるのだ。エンジンをスタートさせ、心を落ち着けてアクセルをわずかに踏み込むと、スルスルッと2.2トンを超えるボディが動き出す。右足を大きく踏み込むことなく、わずかなアクセル操作だけでも、いとも容易に交通の流れに乗って、走ることができる。

かなり大きなボディのはずなのだが、このゆとりのお陰とボディの見切りの良さのお陰かも知れないが、本当にゆったりと走ることが出来る。エンジン音も雄々しく響き渡るわけではないし、乗り心地も堅さなどほとんど感じることはない。

ここまではなんとも平和であり、荒々しさなど微塵も見せないのである。これぞベントレーならではなのエレガントさ。だが、その表情も高速に乗り込むと変化する。料金所を過ぎ、本線に合流するとき、ガツンとアクセルを踏み込むと、ゴゴゴゴッとエンジン音を響かせて一気に0~100 km / h、3.7秒の実力を披露する。だが、ここでもそのトルクの立ち上がりは一気呵成というのではなく、なんとも上品に加速していくのだ。

いや、ドライバーだけがそう思っているのかも知れないのだが、超弩級の加速、という感じはほとんどないのである。4WDシステムの安定感もするのだろうが、姿勢の乱れなど一切無く、切れ味鋭く、加速していくのだ。

もちろん本線の流れに乗ってしまえば、あとは優雅なクルージングである。トルクが立ち上がり、W12気筒の鼓動をかすかに感じながらの走りが続く。余程急いでいるようなことがなければ「このままゆったりと、どこまでも」という気分である。なんだろう、この心のゆとりは。内包する狂気を試そうなどとは決して思わない。ひょっとしたら、宝の持ち腐れなどという人がいるかもしれない。

だが、この「コンチネンタルGT」をガレージに納められる人にとっては、“これ見よがしの行動”など大きな意味はない。むやみに周囲を威圧するような走りは、むしろ恥ずかしい行動なのである、ということを教えてくれるのだ。内に秘めた猛獣のようなパフォーマンスも、その極上のエレガンスの前では楚々として振る舞い、決して“走ることを強要してこない”のだと知る。そしてグランドツーリングの本質とはいかなるものか、本当の心のゆとりとはどんなものなのかを、真のGTはしっかりと教えてくれる。

【ベントレー「コンチネンタルGT」】
ボディサイズ:全長×全幅×全高=4,880×1,965×1,405mm
車重:2,260kg
駆動方式:4WD
トランスミッション:8速AT
W型12気筒DOHCツインターボ 5,950cc
最高出力:467kw(635PS/6,000rpm)
最大トルク:900Nm/1,350~4,500rpm
価格:¥24,370,000(税抜)

問い合わせ先

ベントレー

TEL:0120-97-7797


 
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この記事の執筆者
男性週刊誌、ライフスタイル誌、夕刊紙など一般誌を中心に、2輪から4輪まで「いかに乗り物のある生活を楽しむか」をテーマに、多くの情報を発信・提案を行う自動車ライター。著書「クルマ界歴史の証人」(講談社刊)。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。