理想と現実を埋めるために、私たちにはある知恵が必要だ
働く女性のお悩みに答える新刊『女のお悩み動物園』を上梓したジェーン・スーさん。Vol.1で語られた「悩みを仕分ける」という画期的な思考法に加えて、本書で伝えたかったもうひとつのこと、「努力や頑張りという綺麗ごとを、無駄にしないためのある知恵」を授けてくれました。
——では、本書で伝えたかったもうひとつのことについて、お伺いしたいです。
それこそが、「私たちは“綺麗ごと”を全うするため、“野良ごと”を引き受ける必要がある」ということです。たとえば、「頑張ればだれかが見ていてくれる」「一生懸命やれば結果がついてくる」「ズルをする人は結果的に損をする」――。これらはいわゆる“綺麗ごと”として揶揄されがちです。
もう私たちも大人ですから、「そうは言っても…」「人によるよ」などの注意書きを入れたくなりますよね。それは当然だと思います。でも、その注意書きばかりに気を取られるとどうなるか。自分の可能性が信じられなくなってしまうと思うんです。
「場合によってはうまくいかない人もいる」という話が、いつの間にか「どうせ頑張っても私はダメ」にすり替わるのはおかしい話。ただ、努力や頑張りを報われるものにするかどうかは、もちろん自分次第。そのために必要なのが“野良ごと”であり、それこそが理想と現実を埋めるための知恵だと伝えたいんです。
努力が結果に結びつく人は、ロビー活動をいとわない人
綺麗ごとの精度や確率を上げていくためには、入念な根回しや賢い交渉、上手な駆け引き、時に勇気ある撤退まで含めた、いわゆるロビー活動が欠かせません。私はそれを“野良ごと”と呼んでいます。真正面から丸腰でぶつかるなんて、仕込みをせずに店を開くようなもの。綺麗ごとを全うするために、野良ごとを引き受ける。
これをいとわない人が、理想と現実の間を少しずつ、確実に埋めていくのだと思います。どうしたらできるのか、という質問は受け付けませんよ(笑)。ただやる、それだけですから。
欲望を把握することが、私たちを健やかにする
——本書に登場する16種類の動物女子のなかで気になったのが「ユニコーン」でした。欲望に忠実で、野望を胸に「大きな夢を叶えたい!」と未来を語る、そんなタイプの女性です。
私はいろんな場で、「自分の欲望をなめるな」と発言しています。というのは、自分の欲望を甘く見ている女性があまりに多いから。私は今40代後半で、Precious.jp読者と同世代です。「女の子が野心を抱くなんてみっともない」、そんな風潮が残るなかで育ってきました。
それでもいい大学へ入り、いい会社に入ることを望まれたのに、ある年齢になると、いつまで働いているのか、いい奥さんにならないのかと、真逆のスペックを求められる。そりゃ混乱しますよね。
考えてみれば、女性の欲望は性欲と同じぐらい禁忌にされてきたのかもしれません。欲望に対する無意識の抑圧が相当強いのが、私たちの世代。まずはそれを自覚したほうがいいと思うんです。
では、抑圧に気づかないまま、欲望を甘く見ていると、さてどうなるか。自分の人生を楽しく生きている人に対して、恨めしい気持ちを抱くようになります。
たとえばこんな感じ。「同僚のAさんは、やりたいことだけ口にして、どんどんそのポジションを獲得していきます。私のほうがやるべき業務を真面目にこなしているのに納得がいきません。彼女みたいな人に振り回されないためにはどうしたらいいですか?」
これはAさんに問題があるのではなくて、この女性が自分の欲望を認めてこなかったからイライラしているだけ。輝いている人を見て嫉妬するのみならず、難癖をつけるなんて、すごく恐ろしい状態だと思いませんか? だからこそ、自分の欲望をなめちゃいけない。甘く見ちゃいけない。
今からでも「歌手になりたい!」と思ったら、TikTokを始めてシェアしてみればいいんですよ。やりたいことがあれば、やればいい。欲望を把握することは健やかなことなのですから。
スーさん自身が40代だからこそわかる、同世代に向けた熱く、優しい思いが伝わってきます。Vol.3ではもう一歩踏み込んで、多様化する40代女性が楽しく生きる心構えを伺います。
- TEXT :
- Precious.jp編集部