20代のころ、ドイツ製のコンバーチブルに乗っていた。ベース車であるクーペは見慣れた存在だったが、コンバーチブルは珍しかった。しかも、赤い車体でよく目立つ。せっかく買ったのだからと、雨の日以外は極力幌を開けて乗っていた。気持ちのいい毎日……のはずだったけれど、渋滞や信号待ちでは周囲の目線が痛かった。20代の若造が平日の昼間から真っ赤なオープンカーに乗っているのは、とても嫌味に見えたのだろう。徐々に幌を閉めて走ることが多くなり、3年ほどで手放してしまった。周りからどう思われようと、わが道を行けばいいのだろうが、それには度胸も年齢も足りなかったのだ。
50代に突入し、多少は度胸もついた今、もう一度オープンカーに乗りたいと思う。なかでもいちばん気になっているのがレクサスのラグジュアリー・スポーツクーペ『LC』に加わったコンバーチブルだ。
繊細な感覚に秀でるといわれる日本人にこそ合う
静と動、そしてその間に潜む時間までを追求
ブランドアイコンの大きなフロントグリルと、ぐっとふくらんだリアフェンダーが印象的なスタイリングは、幌を閉めたとき、クーペに勝るとも劣らない美しいルーフラインを描くように設計されている。しかも、幌は吸音材入りの4層構造で、閉めると外の喧騒がほとんど気にならない。開けることを前提として乗りたいけれど、高速道路のトンネルなどでは閉めたほうが賢明だし、静かに音楽を聴きたいときにもいい。
エンジンはV8の5Lだ。滑らかに回る多気筒構造にして、ターボチャージャーのアシストのない設計だから、アクセルペダルの踏み込み量と完全にリンクした、気持ちのいい加速が味わえる。しかも、エンジンの回転数に応じて3つの周波数の音を際立たせるチューニングを施していて、それほど回さずとも後ろの排気系から抜けのいい音が味わえる設計。高回転ではキャビン前方のエンジンからの吸気音が存在感を増し、乗り手を奮い立たせる仕組みだ。
静と動、そしてその間に潜む時間までを徹底的に磨いた『LCコンバーチブル』は、繊細な感覚に秀でるといわれる日本人にこそ合う。無二の心地よさは、幌を開け、自分をさらけ出すことで倍増するに違いない。(文・櫻井 香(本誌エディター))
レクサス『LC500 コンバーチブル』
ボディサイズ:全長4,770×全幅1,920×全高1,350mm
車両重量:2,050kg
エンジン:V型8 気筒
総排気量:4,968cc
最高出力:351kW(477ps)/7,100rpm
最大トルク:540Nm/4,800rpm
トランスミッション:10速AT
価格:¥13,636,364(レクサスインフォメーションデスク)※税抜
- TEXT :
- MEN'S Precious編集部
- BY :
- MEN'S Precious2020年秋号より
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- PHOTO :
- 篠原晃一