SUVやハッチバックは世代を問わず楽しめるが、大人になるほど似合うのは、なんといってもセダンではないだろうか。年寄り臭いと敬遠する向きも、アウディA4を目にすれば考えを改めるはず。熟成されたスタイリングとその走りは、どんなときも晴れ晴れとした気にさせてくれる。
ハイブリッド化された2リッターエンジンを搭載
アウディA4は使い勝手のいいサイズのセダンだ。さきごろ大きなマイナーチェンジを受けて、日本でも2020年10月に発売された。かつてほどセダンに人気がない昨今だが、A4に乗ると、セダンを見直す価値は充分にあると、つくづく思った。
セダンを服飾品にたとえると何にあたるだろう。スーツのようにフォーマル性があるいっぽう、コンフォートウェアのように快適性が高い。むしろSUVのほうが、サイズとか乗り心地で、ガマンしなくてはいけない点が多いように感じるほど。
あたらしいA4は、前輪駆動の「35 TFSI」と全輪駆動の「45 TFSI quattro」の2本立て。エンジンはともに1984cc4気筒ガソリンターボで、パワーが異なる。35は従来、1.4リッターエンジンだったものの、今回、電気モーターをそなえたマイルドハイブリッド(MHEV)化された2リッターエンジンに換装されたのだ。
35と45ともに標準となったMHEVは、発進時などエンジンのトルクが細い低回転域でモーターによってクランク軸を回す。それによってよりスムーズな発進を可能にする。フルハイブリッドと異なるのは、モーターの使用がごく限定的だという点。
それでも、A4には充分に思えた。前輪駆動の「35 TFSI」の110kW(150ps)の最高出力(数値では従来の1.4とおなじ)を持つエンジンを、モーターが巧妙にサポート。発進加速はとてもスムーズで、トルクが盛り上がっていくのを”待つ”必要はなく、まさにすーっと速度が乗っていく。
スムーズさがこのモデルのキーワードかもしれない。操縦性もうんと向上した。カーブでも、ステアリングホイールを切り込んだ操舵量に車体が反応して曲がるかんじが、たいへん気持よい。少し重めの設定の操舵力をもつこのクルマは、ドライバーの思ったとおりに動いてくれる。
アウディによると、ボディ剛性をみなおし、同時にサスペンションの取り付け部の剛性もあげるなどして、ハンドリングをよくすることに努めたそうだ。たしかに成果が出ていると感じられた。
アウディ・クワトロ以来の“伝統も”!
よく動くサスペンションシステムは、車体をつねにフラットに保ってくれるので、運転していて疲れない。乗り心地も適度な重厚感が気分がよい。長距離に移動もかなり楽そう。このあたりは、サスペンションの自由度が高いうえに、空力を含めてより高い静粛性を追求できるセダンならではの強みだ。
ボディスタイリングも、パネルが一新され、従来とはかなり変わった。前後フェンダーにはふくらみをもつ、いわゆるブリスターフェンダーが採用されている。ラリーで無敵を誇ったアウディ・クワトロいらいの”伝統”だ。
上下幅の狭いヘッドランプと、上下幅が圧縮されると同時に左右幅が拡げられたグリルとで、印象はよりシャープになった。スポーティな走りも楽しめる、という、あたらしいA4の内容を、スタイルが端的に表現しているとみることもできる。
内装では、今回あらたに10.1サイズの大きめのTFT液晶モニターがダッシュボードに据え付けられた。スマート端末のようにタッチ操作でインフォテイメントシステムを扱える。
全体としては従来のデザインが継承されている。アウディを知るひとにはおなじみであるとはいえ、やはり、作り込みの質感の高さは、他より抜きんでている。操作類も気持よく使えるので、オーナーの喜びになるだろう。
安全装備も充実している。渋滞時は先行車に合わせて加減速から停止と発進まで行うアダプティブクルーズコントロールをはじめ、歩行者検知機能つき衝突防止システム、ドアを開けるとき後方から接近する車両や自転車があるばあいの警告を発するシステム、交差点での右折時に直進車を検知するシステムなど、ドライバーをアシストする機能は豊富だ。
2015年に登場した現行A4は、まもなく6年を迎える。しかしいっさい古びていない。むしろ“熟成”されて、いままで以上にいいクルマになっている。試してみる価値があるモデルなのだ。
価格は、前輪駆動の「A4 35 TFSI」が455万円から、低負荷時は前輪駆動化して燃費を節約する全輪駆動システムをそなえた「A4 45 TFSI quattro」は580万円から。同時にステーションワゴン「アバント」シリーズも発売されている。
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- 小川フミオ ライフスタイルジャーナリスト