大きく重い車体の後席に腰掛けて、運転はショーファー任せ。ロールス・ロイスにそんなイメージを抱く人は少なくないだろう。実は年々ユーザー層が若くなっているそうで、このたび登場した新型ゴーストは、ミニマルなデザインとドライバーズカーとしての資質を高めているのが特徴だ。晩秋の日光でハンドルを握ったライフスタイルジャーナリストの小川フミオ氏が、その魅力を解説する。

常識やぶりのハイエンド・サルーン

威圧的でないたたずまいが新型ゴーストの特徴。
威圧的でないたたずまいが新型ゴーストの特徴。
観音開きのドアを開けたとき見えるピラーの太さが剛性の高さを物語っている。
観音開きのドアを開けたとき見えるピラーの太さが剛性の高さを物語っている。

中禅寺湖畔に2020年夏にオープンしたばかりの「ザ・リッツカールトン日光」を舞台に、新型ロールスロイス・ゴーストの試乗が出来た。11月下旬の日光は、冬の気配。観光客が少なく、空いている屈曲路でのドライブを試すには、じつにいいチャンスだった。

カーブがえんえんと続く道で、わざわざロールス・ロイス? ちょっとどうかしている、と思われるかもしれない。たしかに、これまでロールス・ロイスというと、あえてダイレクトなかんじにしないステアリングフィールも特徴だった。

もちろん、どんな道でもこなしてしまう。とはいえ、積極的にドライブを楽しむなら、ほかのクルマをいう選択肢が見えてくるのも、事実であった。ところが、2020年秋に日本で発売されたばかりの新型ゴーストは、いってみれば常識やぶりの出来ばえだ。

12気筒エンジンに、全輪駆動の組合せ。車体は全長5545ミリで、ホイールベースは3295ミリと長い。車重は2.5トンだ。数値だけみているかぎり、日光のいろは坂を登ったり下ったりが得意とは思えない。

実際には、もう、何度でも、小さなカーブが連続する道を登ったり下ったりしたくなる、すばらしい操縦性をもったモデルに仕上がっていたのだ。ステアリングは正確で、車体のロールは的確に制御されていて、さらにブレーキは超強力。とにかくドライバーを楽しませてくれる。これは大きな驚きである。

アルミニウムのスペースフレームシャシーをもったゴーストは、571馬力の最高出力と、850Nmの最大トルクを持つ6.75リッターV12エンジンをフロントに搭載している。そのパワーを堪能できるのだ。エンジンは上の回転域までよく回る。しかしそれを味わおうとすると、信じられないぐらいの速度域に達してしまう。

室内を無音にできるのにそうしない理由

木目を活かしたオープンポア仕上げのウッドパネルがいい雰囲気。
木目を活かしたオープンポア仕上げのウッドパネルがいい雰囲気。
峠道でも高速でも運転を楽しめるのが新型ゴーストの身上。
峠道でも高速でも運転を楽しめるのが新型ゴーストの身上。

ふだんはショファーにまかせて、後席で通勤しているひとも、休日には自分で運転席に座ってドライブが楽しめるクルマ。ロールス・ロイスではゴーストについてそう謳う。紳士でいて、時としてアグレッシブなプレイもするスポーツマン。そういう人格を連想してしまう。

乗ったのは真っ白な内装のレザーとダッシュボードを持つ仕様。ウッドパネルは「オープンポア」という木目を活かした塗装が施されていて、好ましい仕上がりだ。スイッチ類は極力省略されていて(タッチスクリーンを使う)いままでとデザイン言語がちがうのだ。

ロールス・ロイスではゴーストのデザインテーマを「脱ぜいたく」としている。これみよがしの高級感で勝負するのはやめたということだ。でも、分厚いシートクッションや、ふわふわと足が沈みこみそうなぐらい毛足の長いカーペットなど、キモチいい装備に事欠かない。

そういえば、おもしろい記述がプレスリリースにある。室内を無音にすることも出来た。でもロールス・ロイスのエンジニアは話し合い、それは不自然だという結論に達した。そこで、ささやきていどの音こそ上品と考えたそうだ。

まさに新型ゴーストはそういうクルマである。つまり、人間の感覚をうまく刺激してくれる。ウイスキーの強い香りが風に運ばれてほんのり香るときこそ最高、とする英国人の価値観みたいなものだ。ほんのすこし、でも確実に。ゴーストの楽しみは、これである。

躍動感のあるリアビュー。
躍動感のあるリアビュー。価格は3590万円〜(税込)

問い合わせ先

ロールス・ロイス モーター・カーズ東京

この記事の執筆者
自動車誌やグルメ誌の編集長経験をもつフリーランス。守備範囲はほかにもホテル、旅、プロダクト全般、インタビューなど。ライフスタイル誌やウェブメディアなどで活躍中。