ポルシェといえば、かつてはあらゆるレースを闘いぬいて名をあげた、ある意味、たいへん男くさいクルマだ。いまは大型SUVも手がけエレガンスという言葉すら似合うものの、2020年6月に日本発売され、ようやくデリバリーが始まるピュアEV「タイカン」が、カーブだろうとストレートだろうと、ものすごいペースで駆け抜けていくのを得意とするのを体験すると、かつての姿が彷彿とする。
高性能を示す「ターボ」の称号
タイカンは、ゼロエミッション(排ガスゼロ化)へと舵を切りつつあるポルシェが送りだした初の量産BEV(バッテリー駆動のピュアEV)。全長5メートルにちかい4ドアボディに、高出力バッテリーとインバーターを搭載。パワフルであるいっぽう、航続距離も最大で460キロと長く、あたらしい時代の高性能セダンのありかたを垣間見せてくれるモデルといってよい。
日本に入ってくるタイカンは、3つのグレードで構成される。ベースモデル「タイカン4S」は320kWの出力と640Nmのトルクを持つ。「ターボ」は460kWと850Nm。トップモデル「ターボS」は、最高出力はターボと同一、トルクは1050Nmだ。航続距離は、バッテリー出力が小さめの4Sが407キロ、ターボは460キロ、ターボSでは412キロとされている。
モーターを前後に備えた4輪駆動システムを採用しているのは、3つのグレード共通だ。ターボSでは装備がより豊富になり、たとえば、後輪操舵機構も備わる。そのため小さなカーブでは小回りが効くいっぽう、高速のレーンチェンジなどは安定性が高い。
とにかく驚くほどパワフル。これが第一印象だ。おそらくターボSに乗ったせいだろう。おもしろいのは、ターボという車名。ターボチャージャーはエンジンの排ガスの圧力を利用して、エンジン内に燃焼用の空気を圧縮して送りこむことでパワーを高めるシステムだ。だから、EVとは無縁。ポルシェでは1975年の911ターボに端を発し、いま「ターボ」とは高性能モデルを意味するのだ。
ポルシェらしさが随所に感じられる
試乗したのは、京都。河原町・御池のホテルをスタート地点に、比叡山を超え、琵琶湖を回って高速道路に乗り、最終的に市内に戻ってくるコースを走った。ボディ幅が2メートルちかくあるため京都市内では走る場所によっては緊張するものの、ステアリングホイールを切ると車体が即座に反応するため、予想いじょうに取り回しが楽だ。
そしてワインディングロードでは2トンを超える車重をまったく意識させない。上りは軽快に駆け上がり、下りは自信を持ってアクセルペダルを踏んでいける。重量のあるバッテリーを床下に搭載するため重心高が低くなるEVの特徴を活かし、コーナリング能力が高い。それだけでなく、いま車両がどんな状態かフィードバックを返してくれるステアリングは911ゆずりだ。加えて、強力でかつ正確無比のブレーキはどんなクルマにもマネできないものだと感じた。
ターボSは足まわりの設定がやや硬めであるいっぽう、4Sを選べば、乗り心地はしっとりと感じられる。前記のように出力はやや控えめなぶん、快適性のほうに振っているのだ。後席にもひとを乗せる機会が多いひとなどに勧めたい。もちろん、けっして遅くはない。高速でアクセルペダルを床まで踏みこんだときの加速はスポーツカーなみだ。
4Sにはオプションで、上級モデルと共通の高性能「パフォーマンスバッテリープラス」を選ぶこともできる。サーキットまで視野に入れるというなら話はべつだけれど、ふだん使いなら、4Sを選んでこのバッテリーオプションを注文するという選択もアリだと思う。
充電についてもポルシェでは、専用の充電ステーションを日本各地に用意する。とくに21年からは充電ケーブルが充電中に加熱して充電効率が落ちるのを防ぐため、ケーブルを液冷で冷やす充電器も導入。「ターボチャージャー」とポルシェが名づけた高速充電システムを使えば、24分で約80パーセントが充電できるそうだ。
京都の市街地を走っていたら、意外なことに、何台もの京都ナンバーのポルシェのオーナーが手を振ってくれた。911のケースもあり、タイカンは好意を持って受け止められているのだなあという思いを強くした。
価格は、タイカン4Sが1448万1000円、タイカンターボが2023万1000円、そしてタイカンターボSが2454万1000円。オプションは、ポルシェとして例外なく、豊富に用意されている。
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- 小川フミオ ライフスタイルジャーナリスト