2021年3月12日(金)より、初の主演映画『すくってごらん』が公開される尾上松也さん。大都会から小さな田舎町に左遷された「元勝ち組」エリート銀行マンの主人公の葛藤を描く映画は、従来の「勝ち負け」の価値観が覆ることとなったコロナ禍の今、心に訴える物語となっています。

舞台や映画など自身の活躍するフィールドにおける危機的状況において、さまざまな活動を展開する松也さん。そこにある思いとはどんなものでしょうか?

人にはエンタメが必要だから、逆境もプラスに変えていきたい

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尾上松也さん

──今回のコロナ禍では、歌舞伎やミュージカル、そして映画も、さまざまな苦難を強いられています。この間は、どのようなことを考えていましたか?

特に昨年の最初の自粛期間は、今よりもさらに厳しく、みんな本当に何もできない状況でした。僕も出演予定でした「エリザベート」の公演が中止になりましたし、経済も全部止まってしまいましたよね。

当時はそうした文化の活動が再開できるのがいつになるのか全然見えなかったですし、本当に経験したことのない事態で。今でこそ歌舞伎の公演は上演させていただいておりますけれど、何かできることはないのかすごく考えさせられましたし、何かしなくてはという焦りもありました。

──コロナ禍が起こってから動画を配信したり、いろいろ自分からエンターテインメント業界をもり立てようという動きをしていますよね。

すごい成果があったわけではなく、自分の中ではなかなかうまくいっていないという気持ちですが、何ごとも動き出さないと意味がないというところはあります。

役者としての自分を守るためもありますし、歌舞伎やエンターテインメント全般を残していくために…ということを考える時間になりましたね。

そして自粛期間中に改めて感じたのは、やっぱり人にはエンタメが必要だということなんです。多くの方が家にこもっていた時間に何をしていたかというと、ストリーミング配信で映画を観ていた、ドラマを観ていた、「半沢直樹」を観ていた…全部エンタメなんですよね。

それがなかったら、どうしていただろう?と思うと、人間にとってエンタメがどれほど重要な役割を占めているか。だからこそ、より一層、自分の仕事に誇りややりがいを感じ、何かしらやらなくてはいけないなと。

それで後輩たちと動画作ってみたり、舞台配信にチャレンジしてみたり…逆にこういう時期をプラスにしていかなければいけないなと思いました。

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ジャケット・シャツ・パンツ(LEMAIRE<SKWAT>)

──ちなみに、松也さんはこの期間中に、どんなエンタメを楽しんでいましたか?

「ゲーム・オブ・スローンズ」です。とても面白くて、見終えてしまってしばらくロスに陥りました。一番かっこいいのはジョン・スノウですね、憧れます。

そして「どの役を演じてもいい」と言われたら、ティリオン・ラニスターを選ぶかもしれません。あのキャラクターはほぼ主役だと思いますし。

歌舞伎というベースを守りながら、次なるチャレンジを

──最近では、ストリーミングチャンネルのオーディション番組のMCもやってらっしゃいますよね。

もちろん歌舞伎がベースであることは大前提で、すべては歌舞伎を基本に考えた上で成り立っていると思います。

ですがもう一人の自分=いわゆるエンターテイナーとしての自分には、ジャンルは関係ないなと。それこそMCも声優もエンタメの1ジャンルとして、何か別のチャンスが得られるお仕事だと思いますし。

逆に歌舞伎が上演できない時期は、そういうことにチャレンジする時間だと思っていました。割り切って、振り切って、いろいろなことをやるようにはしていましたよね。

──今後の予定を教えてください。

2021年5月から、コクーン歌舞伎で「夏祭浪花鑑」という作品を、勘九郎さん、七之助さんとまたご一緒させていただきます。

前回の「三人吉三」以来、二度目のコクーン歌舞伎なのですが、両方の作品とも中村勘三郎さんが演じた舞台を、僕はコクーン歌舞伎で拝見させていただいています。ですから、いずれお二人が上演されるときには絶対に出演したいという思いがありましたので、夢がかなって感慨深いです。

──2021年秋には、山崎育三郎さん、城田優さんとのプロジェクト「IMY(アイマイ)」の公演も。

二人とは、日本のミュージカルに「仕掛けていこう」という思いでつながっています。日本にはあまりない、完全なオリジナル作品をということで、目下いろんな制作を進めているところ。大変ですけどやりがいをすごく感じますね。

20代からずっと開催してきた歌舞伎の自主公演「挑む」もそうですが、大変なことだらけで、毎回「やらなければよかったかな」と思ったりもするのですが、そうやって追い込んでないと、なかなかモチベーションが上がらないタイプなんです。ですので、自分を無理矢理奮い立たせるために、いろいろやっているっていうところはありますね。

「IMY」の活動に関しては、今年の公演が成功したら終わりではなく、定期的にオリジナル作品を作っていきたい。自主公演もここ数年お休みしてますが、やらなきゃ!と。仕掛けるだけではなく、継続していくことこそ大事だと思っています。


以上、尾上松也さんのインタビュー第3回をお届けしました。

コロナ禍による延期を経て、いよいよ公開された尾上松也さんの初主演映画『すくってごらん』。松也さんの新たな挑戦と活躍の場は、今後もますます広がっていきそうです。

尾上松也さん
歌舞伎俳優
(おのえ まつや)1985年1月30日東京生まれ。1990年に二代目尾上松也を名乗り初舞台。歌舞伎自主公演「挑む」やオリジナル公演「百傾繚乱」にも取組む若手歌舞伎俳優の筆頭格。「エリザベート」(15/帝国劇場)や主演を務めた「メタルマクベスdisc2」(18/劇団☆新感線)など歌舞伎以外の舞台でも活躍し、山崎育三郎、城田優と立ち上げたプロジェクト「IMY(アイマイ)」でも活躍している。「さぼリーマン甘太朗」(17/TX)で連続ドラマ初主演。2020年は日曜劇場「半沢直樹」(TBS)に出演し話題となった。その他主な出演作品に『モアナと伝説の海』(17/声の出演)など。

 <『すくってごらん』作品情報>

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(C)2020映画「すくってごらん」製作委員会 (C)大谷紀子/講談社

 とある失敗で左遷されたプライドは高いがネガティブな銀行員・香芝誠が、都会から遠く離れた地で出会った「金魚すくい」を通じて、思いもよらない成長をしていく物語。香芝を演じるのは映画初主演の尾上松也。彼が一目ぼれする美女・吉乃を初のヒロイン役となる百田夏菜子が務める。

原作は世界初の金魚すくいマンガにして、<このマンガがすごい!>にもランクインした傑作マンガ『すくってごらん』(大谷紀子/講談社)。メガホンをとったのは、長編デビュー作『ボクは坊さん。』で高い評価を受けた俊英・真壁幸紀。原作と同じ奈良県を舞台に「和」の世界と斬新な映像表現を融合させ、大胆かつ優雅、そして華麗なるエンターテインメントを誕生させた。

出演:尾上松也 百田夏菜子 柿澤勇人 石田ニコル ほか
原作:大谷紀子『すくってごらん』(講談社「BE LOVE」所載) 
監督:真壁幸紀
脚本:土城温美
音楽:鈴木大輔
2021年3月12日(金)TOHOシネマズ 日比谷 ほか全国ロードショー
(C)2020映画「すくってごらん」製作委員会 (C)大谷紀子/講談社

『すくってごらん』公式サイト

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