インビテーションが手元に届くところから始まる、コレクション。そこには、そのシーズンに発表されるテーマのヒントが隠されています。つまり、コレクションの発表形式の変化に伴い招待状の姿形も変化しているのです。
今回は、長年コレクションを取材してているファッションジャーナリストの藤岡篤子さんの心に響いた2021年春夏コレクションの招待状を教えていただきました!
時代に合わせて変化するコレクションの招待状の在り方とは
コレクションの招待状は面白い。何しろ、ギリシア彫刻の石膏マスクから、絵筆とパレット、片足の靴(靴底に場所や時間などの記載が!)、おまじないセットに至るまで、奇想天外、想像を超えたものが常に送られてくる。結婚式の招待状などを思い浮かべている方には、ぜひご覧になっていただきたい。
デザイナーの思いを託した招待状は、それを手にしたときから、もうショーの世界に誘われているのだ。
ロエベのDIYキットやケンゾーの蜂蜜など4選
2021年春夏は、デジタル配信が多く、モニター越しに見るショーが多かったため、デザイナーは少しでも招待状で、コレクションの世界観を感じてもらおうと五感に訴える工夫を凝らした招待状が目立った。
なかでも、自然と親しむキットやツールなどは、環境に配慮した循環型社会が言われているだけにまさに時代を映し取ったものと言えよう。
LOEWE(ロエベ)編
例えばLOEWE(ロエベ)。続く自粛生活の中で、長い時間を過ごす「家」を改めて見つめ直す時間をテーマに取っている。ガーデニングや家の手入れに費やす時間がどれほど、心を癒し、居心地をよくするものか。生命ある緑と大地を愛おしむ気持ちがあってこそ、エコロジーは成立する。
家の手入れに使うDIYの刷毛や、ガーデニング用のシャベルやバケツまで入れたキットが招待状となった背景には、地球に対する「愛」が流れていた。
KENZO(ケンゾー)編
自然の森や公園でのオープンエアでのショーも多く見られたが、「養蜂家」にアイディアをとったKENZO(ケンゾー)の招待状は、瓶詰めの「蜂蜜」であった。他のブランドでは、チョコレートやビスケットなどはこれまでもあったが、瓶入りのリキッドは初めて。
養蜂家がかぶるネット付きのツバ広帽は、そのままソーシャルディスタンスであり、大自然の中で繰り広げられる大振りの帽子とドレスの組み合わせは、エレガントそのもの。自然の恵みに感謝しながら、いただきたい招待状であった。
MOSCHINO(モスキーノ)編
シーズンが来るたび、話題になるのがMOSCHINO(モスキーノ)の招待状だ。過去には金髪のウィッグが届いたこともあり、驚かせるにはピカイチのブランドである。今季はそれでも大人しく、「MOSCHINO」と綴られたミニ「ハンガー」が箱入りで到着した。
ハンガーという謎かけは、ショーを見て氷解した。クチュールのようなドレスアップした服が、うんと気取ってサロン風に登場する。それもリアルサイズの30分の1に仕立てられたパペットの服として。そう、このハンガーは、まさに本物の30分の1のサイズでできていたのである。パペット専用のハンガーとして。
ROGIER VIVIER(ロジェ ヴィヴィエ)編
レトロな映画の入場券を招待状にしたのは、ROGIER VIVIER(ロジェ ヴィヴィエ)だ。毎回スペクタクルな演出で、ゴージャスなフレンチブルジョアの気分を味合わせてくれる。
今回は「ホラー」「犯罪」「ファンタジー」「コメディ」など6つの専門映画館への入場券だ。異なる趣向が凝らされた6つの部屋に入場すると、それぞれの雰囲気に合わせたファム・ファタール役の女優に似合うようなとびきり美しい靴やバッグが展示されているという仕掛けのデジタルコンテンツが発表された。
全てを見終わる頃には、まるでヒロインになったような贅沢の余韻が残るデジタル展示会であった。
その年の、その季節のエッセンスが刻印されたような招待状。だからこそ、移ろう時間のなかで、大切にしたい一瞬の記念にもなる。
2021年はリアルでコレクションが見ることができなかった特別な年。それを思い出す平和な明日が早く来ることを願いながら、また一つ招待状のコレクションを増やして行こう。
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- TEXT :
- 藤岡篤子さん ファッションジャーナリスト
- WRITING :
- 藤岡篤子
- EDIT :
- 石原あや乃