無観客ショーをはじめ、SNS配信やパペット使用など、時代の変化に伴いショーの形式が変わった2021年 春夏コレクション。なかでも時代性を投影していた「LOUIS VUITTON(ルイ・ヴィトン)」「PRADA(プラダ)」「MOSCHINO(モスキーノ)」「EMPORIO ARMANI(エンポリオ アルマーニ)」「CHLOÉ(クロエ)」のコレクションの特徴をファッションジャーナリストの藤岡篤子さんが解説します。

時代の変化ともに“概念”が変わった!新時代のファッションショーの在り方とは

2021年 春夏コレクションは“特別なコレクション”として、歴史に残るに違いない。

2020年という未曾有の「外見に気を使わない」時を経て、ロックダウンの最中、人とも会わず、ともすれば楽チンなスゥエット素材のアイテムでリラックス気分に浸るなか、デザイナーたちは「カツ」を入れるように創意工夫に満ちたコレクションで、閉塞感を見事に打ち破ってくれた。

人が集まると、会話が生まれ、会話は物語を生み、楽しさ、刺激、興奮、フェスタの喜びを与えてくれる。だが、人間としての歓びを手探りで探していた時、私たちに求められていたのは、「他人への思いやり」「愛情」「忍耐」であった。コレクションショーの形態もさまざまに工夫された。

【MOSCHINO(モスキーノ)】パペットショーを発表

例えば、人間性をデジタルを通して語るやり方と同時に、デジタルを駆使したアバター使いや、アナログの楽しさを思い出させてくれたパペット劇など、驚くほどユーモラスで愛らしい仕掛けも登場した。

モスキーノは、ユーモラスでありながらクチュール風の優雅さを備えた「パペットショー」を披露した。観客もアメリカンヴォーグのアナ・ウインターを始め、実在の編集者を30分の1寸にしたパペットが席に座るというディテールまでユーモア満点。

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バックステージの様子も精密にパペットで表現

サロンさながらの夢見るような典雅な音楽に乗って、コレクションを纏ったパペットがウォーキング。その後、モデルが着用したルックブックが配信されるという丁寧さだ。楽しくワクワクさせるファッションのパワーを、新たな視点で発信した発想の勝利である。

【LOUIS VUITTON(ルイ・ヴィトン)】デジタルレイヤーを施したリアルショー

サマリテーヌというアール・デコの歴史的建造物の複合施設のオープニング前を舞台に、デジタルレイヤーを施し、リアルショーを開いた「LOUIS VUITTON(ルイ・ヴィトン)」。

これは、ヴィム・ベンダースの名作映画「ベルリン・天使の詩」を会場に映し出すために会場全体を緑色の布で覆うというクロマキーの技術を使った仕掛けだ。

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ルイ・ヴィトンの2021年春夏コレクションの内観、クラシックとモダンを融合させた、新時代のコレクションを提案

100年前の建造物と、美しいフレスコ画を背景に、近未来のようにモニターを通して、初めて全貌が見えるという画期的な試みであった。

【PRADA(プラダ)】無観客ショー&カンバセーション

無観客ショーを逆手に取って、SNSを活用し、デジタル配信で世界中のファンを熱狂させたのはプラダ であった。

シャンデリアのようにモニターが吊されたカラフルな室内を縦横に歩くモデル達は、ラフ・シモンズがプラダチームに加わったミニマルなファーストコレクションを纏う。

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SNSを駆使したカンバセーションの様子

ショーの後には、インスタグラムのライブで、ミウッチャ・プラダとラフ・シモンズが、視聴者から寄せられる質問にライブで答えていく姿は、従来にはなかった親近感を生み、モニターを通して素顔が伺えた。

「どうしたら、あなたのようなデザイナーになれるの?」という10歳の女子からの問いに「1にも2にも勉強よ」と笑いながら答えたり、コンセプトである「ユニフォームについて」問われると「それは私の服を見ればわかるわ。セーターにプリーツスカートよ」と。

「プラダネスとは」の問いには、「客観的に見ていたから、僕が答えるよ」とラフが質問を引き取ったりと、お互いを思いやる気持ちが問わず語りに伝わるやり取りが目の前で繰り広げられ、前にもましてファンになった人も多いのではと思わせた。

【EMPORIO ARMANI(エンポリオ アルマーニ)】

そして、空気感を最も強く反映させたのは「EMPORIO ARMANI(エンポリオ アルマーニ)」だ。

コロナで公演中止が相次ぎ、仕事を失ったダンサーをはじめ、歌手や俳優、ミュージシャンなど、さまざまなジャンルのアーティストをモデルに起用した無観客コレクションは、現代社会が求める「サステナビリティ」や「ダイバーシティ」などを包括した「愛情と知性」が、アルマーニという稀有な創造性と出会った場であった。

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ダンサーを起用したエンポリオ アルマーニのコレクション

ダンサー達の俊敏な動きが生み出す静と動のコントラストは、エンポリオ アルマーニのエレガンスに新たな息吹を加え、名実ともに「ミラノの帝王」にふさわしい格調と優美さにあふれるコレクションとなった。

【CHLOÉ(クロエ)】パリの街中ウォークからランウェイへ

そのほかにも、リアルに観客を入れながら、パリの街角で、モデルがそぞろ歩いて会場に向かうところから、デジタルでショーが始まったCHLOÉ(クロエ)も、デジタルとリアルの魅力を効果的にミックスした。

 

16区にある白亜の建造物「パレ ドゥ トーキョー」で出会ってランウェイへと構成されていた。 

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クロエのコレクション

エッフェル塔やセーヌ川と言った街角の風景がいかにもパリらしく、モデルも自然体で信号待ちをしたり。海外に行けない現在、見ているだけで旅情が誘われる美しいパリの街に、心癒される思いであった。


まだまだ先の見えない時代だが、ファッションは負けない。ひそやかに策を練りながら、予想以上の大胆さで次のファッションを提案し、状況を打破し続けている。ファッションの持つ限りない可能性が、リアルであれ、デジタルであれ、まだ見ぬものも含め、模索される、興味深いシーズンとなった。

この記事の執筆者
1987年、ザ・ウールマーク・カンパニー婦人服ディレクターとしてジャパンウールコレクションをプロデュース。退任後パリ、ミラノ、ロンドン、マドリードなど世界のコレクションを取材開始。朝日、毎日、日経など新聞でコレクション情報を掲載。女性誌にもソーシャライツやブランドストーリーなどを連載。毎シーズン2回開催するコレクショントレンドセミナーは、日本最大の来場者数を誇る。好きなもの:ワンピースドレス、タイトスカート、映画『男と女』のアナーク・エーメ、映画『ワイルドバンチ』のウォーレン・オーツ、村上春樹、須賀敦子、山田詠美、トム・フォード、沢木耕太郎の映画評論、アーネスト・ヘミングウエイの『エデンの園』、フランソワーズ ・サガン、キース・リチャーズ、ミウッチャ・プラダ、シャンパン、ワインは“ジンファンデル”、福島屋、自転車、海沿いの家、犬、パリ、ロンドンのウェイトローズ(スーパー)
WRITING :
藤岡篤子
EDIT :
石原あや乃