それぞれの土地の空気を吸いながら、ゆっくりと熟成されるウイスキー。琥珀色のその液体には、蒸溜所が紡いだ歴史と、造り手たちの熱い思いが込められる。あえてクラフトウイスキーと呼び讃えたい心揺さぶる一本が、ここにある。

次々と蒸溜所が創設されるアメリカのウイスキー事情

 ヨーロッパで発祥、発展した蒸溜酒造りは17世紀初頭、移民と共に新大陸へと渡った。半世紀の後、土地に合った穀物を育てるようになった移民たちは、それらを原料とした酒を造るようになる。こうして世界5大ウイスキーのひとつとされるアメリカン・ウイスキーの歴史は紡がれていった。

 フロンティアスピリッツそのものともいえるアメリカのウイスキーは、様々な転機を経験し、歴史に翻弄されもした。その最たるものが1920年から’33年までの禁酒法。この時代に蒸瑠所は次々と閉鎖に追い込まれた。禁酒法の解禁後、1960年代にようやく復活を果たし、バーボン・ウイスキーの黄金時代を迎えたアメリカのウイスキー産業は巨大化、量産への道を歩んでいった。

 そんなアメリカのウイスキーの世界に、今、ひとつの動きがある。全米でクラフトウイスキーのブームが巻き起こっている。

クラフトバーボンが熱い! 

今、飲むべきクラフトバーボン・コレクション

写真左から/ノブ クリーク シングルバレル:ビーム家7代目当主フレッド・ノーが9年熟成の樽の中から選び抜いた1樽からでき上がる『ノブ クリーク シングルバレル』はオークの香ばしさ、リッチで濃厚な甘みと昔のバーボンの力強さを持つ。深くゆったりとした長い余韻が特徴。所在地:ケンタッキー州 分類:ストレート・バーボン・ウイスキー 容量750ml 度数60% ¥5,000 (サントリーお客様センター) ブッカーズ:クラフトバーボンの代表格、プレミアムバーボンの頂点に立つブッカーズはビーム家6代目、ブッカー・ノーの最高傑作。息子のフレッド・ノーは父の遺志を受け継ぎ、6~8年熟成のピークを迎えた原酒を厳選して造り上げている。所在地:ケンタッキー州 分類:ストレート・バーボン・ウイスキー※(スモールバッチ)容量750ml 度数64% ¥6,000(サントリーお客様センター)キングス・カウンティ バーボン・ウイスキー:ニューヨークシティ最古、世界で最も小さな(9坪)蒸溜所が、2010年オープン。それがキングス・カウンティ蒸溜所。2012年には歴史的なブルックリン海軍造船所に移転し、ニューヨーク産のとうもろこし、スコットランド製の蒸溜器で蒸溜酒を造っている。所在地:ニューヨーク州 分類:バーボン・ウイスキー 容量375ml 度数45% ¥6,000(店頭販売のみ) (田中屋)※2015年冬号の情報です。※価格は全て参考価格です。
写真左から/コーヴァル バーボン:禁酒法以降、アメリカ・シカゴに初めて設立された蒸溜所。創設者のロバート・バーネッカーは蒸溜家のカリスマ。彼はハイブリッド蒸溜器を使用し、オーガニックな原料のよさを失わないように熟成期間にはこだわり、3年弱しか熟成をさせない。所在地:イリノイ州 分類:バーボン・ウイスキー(シングルバレル) 容量750 ml 度数47% ¥6,820(スコッチモルト販売)ハドソン ベビー・ バーボン・ウイスキー:グレンフィディックのウィリアム・グラント社は2013年にタットヒルタウン・スピリッツの〝ハドソン・ウイスキー〟ブランドを買収。NY産とうもろこし100%、4年熟成を中心に5種類のクラフトウイスキーを製造している。所在地:ニューヨーク州 分類:バーボン・ウイスキー容量375㎖ 度数46% ¥12,000(店頭販売のみ) (田中屋)ウィドウジェーン ストレート バーボンウイスキー8年:グレンフィディックのウィリアム・グラント社は2013年にタットヒルタウン・スピリッツのハドソン・ウイスキーブランドを買収。NY産とうもろこし100%、4年熟成を中心に5種類のクラフトウイスキーを製造している。所在地:ニューヨーク州 分類:バーボン・ウイスキー容量375㎖ 度数46% ¥12,000(店頭販売のみ)(田中屋)ウッドフォードリザーブ:ケンタッキー州最古の蒸溜所から誕生するウッドフォードリザーブはスコットランド製のポットスチル(単式蒸溜器)を使用し、3回蒸溜をすることでクリーンでスムーズな口当たりながら爽やかなスパイスを感じさせ、余韻が長い。所在地:ケンタッキー州 分類:ストレート・バーボン・ウイスキー(スモールバッチ)容量750ml 度数43% ¥5,210(アサヒビール お客様相談室)※2015年冬号の情報です。※価格は全て参考価格です。 

 バーボンを楽しむ人の好みが多様化し、大量生産の商品より個性のあるバーボンを求めるようになってきている。大手蒸溜所でも、手造りのバーボンの発売が相次いでいる。バーボンの歴史を築いてきた創業者や名匠の信念を受け継いだ子孫が、自ら選びぬいた少量の樽からバーボンを造る。場合によっては1樽のみからでも、そのポリシーを表現できるバーボンを造る。先人の魂を伝承することにこだわってのことだ。

 法制度の変更から蒸溜所認可が容易になり、全米各地にマイクロ・ディスティラリーの建設が相次いでいる。現在では禁酒法以前1890年当時に近い、約700の蒸溜所が稼働しており、その約半数ではウイスキーが造られている。ニューヨークシティでも禁酒法以降存在していなかった蒸溜所が2010年に造られ、セレブリティやスノッブをターゲットとしたバーボン造りが始まった。

 これらのマイクロ・ディスティラリーでは、小規模ならではの小回りのよさで多種多様な商品が生み出される。地元産やオーガニックの原材料を使用したり、理想とする味わいを実現するために熟成期間を指定したり、今まで考えられなかった方法で個性的な味や香りのバーボンが誕生しているのだ。

この記事の執筆者
TEXT :
橋口孝司 
BY :
MEN'S Precious2015年冬号 バーボン、スコッチ|手仕事の冴える二大潮流に刮目!クラフトの名を冠するウイスキーの銘品より
1960年生まれ。20年を超えるバーテンダー経験後、2002年開業の「セレスティンホテル」で副総支配人を務める。現在は「ホスピタリティバンク」CEO。酒に関するトータルアドバイザーとして活躍。『世界のベストウイスキー日本語版』『カクテル&スピリッツの教科書』『ウイスキーの教科書改訂版』など編著書多数。
クレジット :
撮影/小寺浩之(ノーチラス) スタイリスト/石川英治(tablerockstudio) 構成/堀 けいこ
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