それぞれの土地の空気を吸いながら、ゆっくりと熟成されるウイスキー。琥珀色のその液体には、蒸溜所が紡いだ歴史と、造り手たちの熱い思いが込められる。あえてクラフトウイスキーと呼び讃えたい心揺さぶる一本が、ここにある。
次々と蒸溜所が創設されるアメリカのウイスキー事情
ヨーロッパで発祥、発展した蒸溜酒造りは17世紀初頭、移民と共に新大陸へと渡った。半世紀の後、土地に合った穀物を育てるようになった移民たちは、それらを原料とした酒を造るようになる。こうして世界5大ウイスキーのひとつとされるアメリカン・ウイスキーの歴史は紡がれていった。
フロンティアスピリッツそのものともいえるアメリカのウイスキーは、様々な転機を経験し、歴史に翻弄されもした。その最たるものが1920年から’33年までの禁酒法。この時代に蒸瑠所は次々と閉鎖に追い込まれた。禁酒法の解禁後、1960年代にようやく復活を果たし、バーボン・ウイスキーの黄金時代を迎えたアメリカのウイスキー産業は巨大化、量産への道を歩んでいった。
そんなアメリカのウイスキーの世界に、今、ひとつの動きがある。全米でクラフトウイスキーのブームが巻き起こっている。
クラフトバーボンが熱い!
今、飲むべきクラフトバーボン・コレクション
バーボンを楽しむ人の好みが多様化し、大量生産の商品より個性のあるバーボンを求めるようになってきている。大手蒸溜所でも、手造りのバーボンの発売が相次いでいる。バーボンの歴史を築いてきた創業者や名匠の信念を受け継いだ子孫が、自ら選びぬいた少量の樽からバーボンを造る。場合によっては1樽のみからでも、そのポリシーを表現できるバーボンを造る。先人の魂を伝承することにこだわってのことだ。
法制度の変更から蒸溜所認可が容易になり、全米各地にマイクロ・ディスティラリーの建設が相次いでいる。現在では禁酒法以前1890年当時に近い、約700の蒸溜所が稼働しており、その約半数ではウイスキーが造られている。ニューヨークシティでも禁酒法以降存在していなかった蒸溜所が2010年に造られ、セレブリティやスノッブをターゲットとしたバーボン造りが始まった。
これらのマイクロ・ディスティラリーでは、小規模ならではの小回りのよさで多種多様な商品が生み出される。地元産やオーガニックの原材料を使用したり、理想とする味わいを実現するために熟成期間を指定したり、今まで考えられなかった方法で個性的な味や香りのバーボンが誕生しているのだ。
- TEXT :
- 橋口孝司
- BY :
- MEN'S Precious2015年冬号 バーボン、スコッチ|手仕事の冴える二大潮流に刮目!クラフトの名を冠するウイスキーの銘品より
- クレジット :
- 撮影/小寺浩之(ノーチラス) スタイリスト/石川英治(tablerockstudio) 構成/堀 けいこ