レクサスが、「LEXUS DESIGN AWARD 2021」の入賞6作品のプロトタイプが完成したことを、2021年4月13日に発表した。ご存知のとおりレクサスは高級車ブランドであるものの、このアワードはクルマとほとんど無関係。そこがすばらしいのだ。

2年連続でオンラインでの発表

「CY-BO」は何度でも組み替えて再利用でき、小物やインテリアなど、梱包材以外の用途にも活用できる。
「CY-BO」は何度でも組み替えて再利用でき、小物やインテリアなど、梱包材以外の用途にも活用できる。
愛する人の鼓動を反映し、精神的なサポートや人と人とのつながりを促すデバイス「Heartfelt」。
愛する人の鼓動を反映し、精神的なサポートや人と人とのつながりを促すデバイス「Heartfelt」。

「革新的なアイディアで、豊かな社会やよりよい未来を創造する、新進気鋭のクリエイターを発掘・支援することを目的に」しているとレクサスが説明する同アワード。2013年に創設され、現在まで連綿と続く。

これまでは、毎年4月に伊ミラノで開催されるミラノデザインウィークで、入賞6人(あるいはグループ)と、グランプリが発表されるのが常だった。コロナ禍が起きた2020年はオンラインとなり、21年も、ミラノデザインウィークの9月の延期開催を待たず、オンラインでの発表となったのだ。

LEXUS DESIGN AWARDのよさは、入賞作を基本的に商業主義から切り離しているところにある。一般的にデザインというと、往々にして不具合の解決する手段と見なされてきた。いま売れているデザイン論「デザインはどのように世界をつくるのか」(スコット・バークン著)をひもといても、よいデザインとは質として、クオリティの高いものを作りあげるのがデザイナーの仕事とされる。

ではもっと根本的な、ほとんどのひとが思いつかなかったけれど、それが生まれることで幸福になれる、そういうものに“デザイン”は存在しないのか。いや、それこそが重要とするのが、レクサスがクルマと離れたところで設定したこのアワードの大きな魅力なのだ。

アイディアをブラッシュアップしてプロトタイプに

音楽のリズムに合わせて、カバーが振動するため、そこに触れることで、気持ちを落ち着かせることができる「In Tempo」。
音楽のリズムに合わせて、カバーが振動するため、そこに触れることで、気持ちを落ち着かせることができる「In Tempo」。
触覚やジェスチャーに反応して音楽を奏でることができる布や、ダンスと音楽が共鳴するインタラクティブなカーペットが作れる「Knit X」。
触覚やジェスチャーに反応して音楽を奏でることができる布や、ダンスと音楽が共鳴するインタラクティブなカーペットが作れる「Knit X」。

ファイナリスト(優勝候補者)は6組。

細胞の接合から着想を得た再利用可能な梱包材で、梱包以外にも多様な用途に活用可能という「CY-BO」(阿部憲嗣氏)。離れていても相手の存在を感じられることで、孤独を和らげるデバイス「Heartfelt」(ゲイル・リー氏とジェシカ・ヴェア氏)。

ストレスを感じる状況で、気持ちを落ち着かせることを助けるスマートフォンカバーとアプリ「In Tempo」(アリーナ・ホロヴァチュク氏)。ジェスチャー・音・触覚に反応する、インタラクティブな電子テキスタイル「Knit X」(イルマンディ・ウィチャクソノ氏)。

さらに、持ち運び可能で高度な技術を必要としない、太陽光を活用した蒸留装置「Portable Solar Distiller」(ヘンリー・グロガウ氏)。そして、電車による風力を活用したテラコッタ素材の気化熱による、地下鉄の駅構内向け冷却システム「Terracotta Valley Wind」(シンガイ・カク、ホカ・セイ、イチライ・ロ、ウ・チョウ氏)。

上記6組の入賞者は、メンター陣から約3カ月にわたる継続的な指導を受け、当初のアイディアをブラッシュアップ。それが今回披露されたプロトタイプとして結実したのだ。2021年のメンターを務めるのは4氏。ジョー・ドーセット氏(デザインエンジニア)、サビーネ・マルセリス氏(デザイナー)、マリアム・カマラ氏(建築家)、そして、スプツニ子!氏(アーティスト/デザイナー/東京藝術大学デザイン科准教授)である。

4月27日にグランプリが決定!

軽量で多様な構造は、地域の環境や人々のニーズに応じて多様な素材、方法で制作することができる「Portable Solar Distiller」。
軽量で多様な構造は、地域の環境や人々のニーズに応じて多様な素材、方法で制作することができる「Portable Solar Distiller」。
水分を素早く蒸発させるテラコッタの特質と、列車がホームに入ってくる際に発生する風力に注目した「Terracotta Valley Wind」。
水分を素早く蒸発させるテラコッタの特質と、列車がホームに入ってくる際に発生する風力に注目した「Terracotta Valley Wind」。

「自分たちのアイディアが持つ社会への影響力や効果を探求し、実現させようとしています。より良い未来に貢献しようとする想いは素晴らしく、その努力と成果にとても心を揺さぶられました」

上記はレクサスがプレスリリース内で発表した、マリア・カマラ氏のコメントだ。高層ビルのエレベーターの行き先階ボタンを、わかりやすくするのもデザイナーの重要な仕事であるいっぽう、なにもないところから、アイディアを組み立て、現実のものへと作りあげるのも、デザイナーにとって重要な仕事だろう。

フランプリを受賞した、ヘンリー・グロガウ氏。
フランプリを受賞した、ヘンリー・グロガウ氏。

完成したプロトタイプは、このアワードの4名の審査員、パオラ・アントネッリ氏(ニューヨーク近代美術館・建築・デザイン部門シニア・キュレーター)、ドン・ゴン氏(建築家/ヴェクター・アーキテクツ代表・創設者)、グレッグ・リン氏(建築家/ピアジオ・ファストフォワード最高経営責任者)、サイモン・ハンフリーズ氏(Head of Toyota & Lexus Global Design)にプレゼンテーション。

4月27日に、グランプリとして、ヘンリー・グロガウ氏の「Portable Solar Distiller」が選ばれたという追加発表がなされた。「ヘンリーのプロトタイプはただの製品や器具ではなく、インフラを折り畳んで持ち運ぶことを可能にしたという点において、ポテンシャルの高さを感じさせました」とは、授賞にあたってグレッグ・リン氏。

いっぽう、受賞者のグロガウ氏は「作品へのアドバイスだけではなく、デザイナーとしての向き合い方を示してくれたメンター陣にも心から感謝をしています」というコメントを発表した。

この記事の執筆者
自動車誌やグルメ誌の編集長経験をもつフリーランス。守備範囲はほかにもホテル、旅、プロダクト全般、インタビューなど。ライフスタイル誌やウェブメディアなどで活躍中。
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