1960年代の終わり、僕が10歳の頃です。銀座の東京高速線の側にクルマが停められていて、よく眺めていました。あるとき若い男性がアルファロメオに乗っていて、その姿にとても憧れました。
社会人になり、縁あって『カーグラフィック』編集部に勤務することになってからは、仕事でもプライベートでもさまざまなクルマに乗る機会に恵まれました。ずっと憧れていたアルファロメオに乗ることもできたし、生産国のイタリアには取材で何度も足を運びました。
そこでわかったのは、あちらではどこに行っても、クルマや服、時計だけが目立つ人はいないということ。
日本でも人気だったアルファロメオ『156』は、イタリアでは見慣れた存在ですが、そんなクルマに乗っている普通の男性が、とても格好よく見えるんです。彼らは高価なものでなくても、自然な感じで自分のものにするのが得意なんですね。目立たないのに、目を引く。
クルマと時計を通じて知った本当の格好よさ
スタイルのある人は悪目立ちしないのだとわかったのは、フェラーリのトップを務め、のちにフィアットグループを統括したルカ・ディ・モンテゼーモロと会ったときです。彼は一度でも見知った顔を大切にして、日本からやってきた僕たちのことをちゃんと覚えている。握手もふわっとしていて。外国ではぎゅっと強く摑む人が多いけど、彼は違いました。いい意味での人たらしですね。
だれに対しても自然な態度で接することのできるルカは、装いもスタイリッシュでした。腕にフェラーリとコラボレーションしていたジラール ペルゴの時計をつけていても、宣伝くさくないというか、嫌味がない。ルカは、フィアットの総帥にして稀代のセレブリティだったジャンニ・アニエッリの作法を受け継いでいたといえます。
クロノグラフへの思いは尽きることなく
時計の話をしましょう。僕が初めて手にしたのは、中学校入学のとき父に買ってもらった、セイコーの『ファイブスポーツ』というクロノグラフでした。当時、アポロ11号で有名になったオメガ『スピードマスター』は憧れの一本だったし、映画『栄光のル・マン』でスティーブ・マックイーンがつけていたタグ・ホイヤー『モナコ』も格好よかった。タイムが計れるギミックとデザインが調和したクロノグラフは、その後も憧れであり続けました。ちなみに僕はマックイーンの真似をして、今も時計を右腕につけています。
そういえば昔、著名なレース写真家の作品で、とても印象的なものがありました。外国のサーキットでスタート前に撮影された一枚なのですが、レーシングカーのコクピットに座る男性に向けて、女性が何かを差し出している様子を撮影したものです。奥さんなのか、恋人なのか、その女性の腕には自分の時計と、相手の男性のクロノグラフの両方がつけられていました。僕はそこに、時間の中に生きる男の覚悟というか、ドラマ性を感じました。編集者になってからレースにも取り組んだ立場だからこそ感じたことなのですが、時計が単なるアクセサリーではないという思いはありますね。
これまでに購入した時計は20本くらいでしょうか。まだロレックス『コスモグラフ デイトナ』が今ほど人気がなかった頃、ツテを頼ってヨーロッパから取り寄せたこともありましたが、今はもうそれほどの欲はありません。でも、若い頃に憧れのクルマや時計を手に入れていろんなことがわかったし、成長の糧になったと思います。だから、背伸びすることも大事なんじゃないかと。買ってから「ちょっと違うかな……」と思うことがあっても、自分の感性を刺激するものに出合うまで探し続けるのが、また楽しいんです。それが後々に自分のスタイルとして身につくのだと思います(談)。
Style-1|フェラーリ×パネライ
フェラーリは創業以来、考えうる最良のテクノロジーとモードをスポーツカーに投影してきた。だから古いモデルも輝きを失わないどころか、アンティークウォッチのような風格を漂わせ、永遠の命を生きる。そして、代を重ねても変わらぬ個性が、男たちの夢を長年育んできた。
キャビン後方にV8エンジンを積む、伝統のミッドシップモデルは『F8 トリブート』という。空気抵抗を最適化するモダンなスタイリングは、ストイックさのなかにも芸術性が感じられ、濃厚な色気を放つ。
イタリアの伝統と革新を携えて時を駆ける
右足の動きに鋭敏に反応し、猛烈な加速を見せるパワーユニット、そしてコーナーに張り付くように舞うハンドリング性能を公道で存分に楽しむわけにはいかない。それでも圧倒的なパフォーマンスがもたらす余裕は、ドライブに華やぎを添えてくれるだろう。しかも、『F8 トリブート』の乗り心地はとてもいい。「スポーツカーは足回りが硬い」という先入観を鮮やかに裏切るのが、最新の「フェラーリ・マジック」だ。
身につける時計は、パネライで。伝統的な丸みを帯びたケースはフェラーリのフォルムともよくなじみ、スポーティ感も強調できる。さらにロロ・ピアーナのアイテムを纏えば、イタリアらしい品格溢れる伊達男の完成だ。視認性に優れたダイヤルにときおり目を配りながら、華麗なる週末を楽しもう。
Ferrari F8 Tributo
●ボディサイズ:全長4,611×全幅1,979×全高1,206mm
●車両重量:1,570kg
●エンジン:V型8 気筒ツインターボ
●総排気量:3,902cc
●最高出力:530kW(720cv)/8,000rpm
●最大トルク:770Nm/3,250rpm
●トランスミッション: 7速AT(DCT)
車両本体価格:¥33,280,000~/税込(フェラーリ・ジャパン)
Style-2|アウディ×オーデマ ピゲ
クルマの選択肢が増えた現代でも、ビジネスシーンにおける正統はサルーンだ。キャビンと荷室を隔絶した機能的な部分、フォーマルでも通用するデザイン的優位性など、普遍的な特徴を備えているのが理由で、スーツスタイルとはとても相性がいい。
これが2020年代のビジネスパワースタイル
大型サルーン自体、2000年代以降は過剰な押しの強さを抑え、洗練を極めている。モードをけん引してきたのはアウディ。フラッグシップの『A8』(60TFSI クワトロ)は、5mを超えるサイズを感じさせないスマートなフォルムが魅力だ。走りの質も高く、ふわふわしすぎないエアサスペンションと安定度抜群の4WDシステム、静かに回るV8エンジンが乗り手を日々の雑念から解放してくれる。
加飾パネルを光沢のあるピアノブラックで仕上げた車内空間も見事だ。これに、肌なじみのいいピンクゴールドを素材に用いたオーデマピゲの時計を合わせると、インテリジェントな艶感が増す。上品な色気は、2020年代版のパワースタイルに欠かせない要素だ。
知的好奇心が旺盛なビジネスパーソンは、服や時計、クルマが微細な変化を繰り返していることも敏感に察知して、取り入れている。時代にアジャストできる男は、美しい。
Audi A8 60 TFSI quattro
●ボディサイズ:全長5,170×全幅1,945×全高1,470mm
●車両重量:2,110kg
●エンジン:V型8気筒ターボ
●総排気量:3,996cc
●最高出力:338kW(460ps)/5,500rpm
●最大トルク:660Nm/1,800~4,500rpm
●トランスミッション:8速AT(ティプトロニック)
車両本体価格:¥14,372,728(アウディ コミュニケーションセンター)
Style-3|レンジローバー×ゼニス
上質で若々しいラグジュアリー・スポーツ系アイテムは、今最も人気の高いスタイル。クルマでは、イギリスのカントリー・ジェントルマンに愛されてきたレンジローバーシリーズのなかでも、オンロード・ツアラー的要素を高めた『レンジローバースポーツSVR』が当てはまる。5LのV8エンジンを積み、足回りを強化したその走りは強烈で、2.5tに迫ろうかという重量をまったく感じさせない軽やかさ。
素材へのこだわりがもたらすリッチな時間
カーボンファイバー製パーツのオプションも選べるこのSUVに乗るなら、時計もやはり外装をカーボンファイバーで構成したゼニスを合わせたい。羽根のような軽い装着感で、ステアリングを切るたびに気持ちが上がる。モダンな素材で味わうラグジュアリー・スポーツのライフスタイルは、リッチで爽快だ。
Land Rover Range Rover Sport SVR
●ボディサイズ:全長4,880×全幅1,985×全高1,800mm
●車両重量:2,420kg
●エンジン:V型8気筒スーパーチャージド
●総排気量:4,999cc
●最高出力:423kW(575ps)/6,500rpm
●最大トルク:700Nm/3,500~5,000rpm
●トランスミッション:8速AT
車両本体価格:¥15,663,637(ランドローバーコール)
Style-4|ロールス・ロイス×シャネル
かつては貴族や富裕層が運転手付きで乗るものだった、「ロールス・ロイス」。近年はみずからステアリングを握るオーナーが増えているという。メーカーによると、世界における「ロールス・ロイス」オーナーの平均年齢は43歳とかなり若い。昨年登場した最新世代の『ゴースト』に乗ると、そんな実情がよくわかる。 立体的なれど角のとれた、柔らかなスタイリングは、ファッションをはじめ、ミニマリズムを体験してきたオーナー世代の肌に合う。車内空間も洗練されている。天然素材を多用しながらも仰々しいしつらえではなく、クリーンで居心地のいい移動の時間を味わえるよう、作り手の明確な意図が伝わってくる。
革新的な時計が引き立てる名門のミニマリズム
内装の選択肢が豊富で、実質的なビスポークといえる『ゴースト』の場合、オーダーしだいでいかようにも仕立てられるが、ミニマルでクリーンな世界観は、白やグレー系カラーを選ぶことでいっそう引き立つ。そして装いも。キーとなる時計は、ケースとブレスレットにセラミックを用いたシャネル『J12』を。
挑戦を忘れない老舗の矜持が込められたアイコニックな時計と『ゴースト』のモダンな組み合わせは、新しいラグジュアリーのあり方を言外にほのめかす。アンダーステイトメントという男の誇りそのままに。
Rolls-Royce Ghost
●ボディサイズ:全長5,546×全幅2,148×全高1,571mm
●車両重量:2,490kg
●エンジン:V型12気筒ツインターボ
●総排気量:6,748cc
●最高出力:420kW(571ps)/5,000rpm
●最大トルク:850Nm/1,600~4,250rpm
●トランスミッション:8速AT
車両本体価格:¥35,900,000~/税込 (ロールス・ロイス・モーター・カーズ東京)
Style-4|BMW×IWC
空や海など、人が自然のなかで最も身近に接する色が、ブルーだ。希少なラピスラズリの顔料からなるウルトラマリンを愛用した、フェルメールの絵画のごとき神秘性に人々は惹かれ、みずからの装いにブルーを取り入れるのだ。クルマの世界では、BMWでブルー系の外装色が豊富。
統一感のあるスタイルは神秘のブルーで作る
高性能モデルを手掛けるBMWM仕様の『X5 M』では、「マリナブルー」が選べる。 SUVでありながらもコンペティショナルな性質を宿すこのモデルは、反骨精神を忘れない男にふさわしい。これにブルーダイヤルが美しいIWCのスポーツウォッチがあれば、神秘性が際立つ。最高の着心地をもたらすジョルジオ アルマーニのネイビースーツを身につけ、しなやかかつパワフルに生きる。そんな「調律の美学」を貫きたい。
BMW X5 M Competition
●ボディサイズ:全長4,955×全幅2,015×全高1,770mm
●車両重量:2,400kg
●エンジン:V型8気筒ツインターボ
●総排気量:4,394cc
●最高出力:460kW(625ps)/6,000rpm
●最大トルク:750Nm/1,800~5,860rpm
●トランスミッション:8速AT
車両本体価格:¥16,900,000~ (BMWカスタマー・インタラクション・センター)
- TEXT :
- MEN'S Precious編集部
- BY :
- MEN'S Precious2021年春号より
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