ロールス・ロイスが「ボートテイル」という名のスペシャルモデルを公開した。2021年5月27日に発表されたこのモデルは、3人の顧客のために同社のビスポーク部門「ロールス・ロイス・コーチビルド」が手がけた特注モデル。クルマで追求できる究極の趣味の実現だ。

バタフライリッドをもつ豪奢な4シーター

シルエットと仕上げがヨットを連想させる。
シルエットと仕上げがヨットを連想させる。
ブルーの車体色は注文主のオーダーで。
ブルーの車体色は注文主のオーダーで。
トランクのなかにはランチやディナーが楽しめるセットが。
トランクのなかにはランチやディナーが楽しめるセットが。

ロールス・ロイス・コーチビルドとは、顧客の注文に応じて、ワンオフともよばれる世界に1台しかないモデルまで作りあげる部門だ。今回同社が受けたオーダーは、「いままで見たことのないクルマを作ってほしい」だったとか。

そこでデザイナーが発想したのは、1920年代から高級車のスペシャルオーダーとして人気の高いボートテイルを現代的解釈で作りあげること。今回は、シングルマストとして最大級であり、かつ、すこしレトロスペクティブな雰囲気もある「J-Class」のヨットのイメージを採り入れたそうだ。

既存のロールス・ロイス車(ファントム・エクステンデッドホイールベースか)のアルミニウム製スペースフレーム骨格を用いつつ、1813個におよぶパーツを新設計。はたして、ヨットを連想させる長いボディをもつ、全長5.8メートルの4シーターが完成した。

ヨットの印象を強調するため、各部が入念にデザインされている。カーブを強くしつつ寝かせたウィンドシールドや、ウッドをふんだんに使ったインテリアはとりわけ目をひく。

最大の注目点は、バタフライリッドといって、センターにヒンジがあって開くリアトランクだ。ロールス・ロイスのデザイナーによると、(とくに開いたときのかたちは)スペインはバレンシア出身の国際的建築家、サンチャゴ・カラトラバ・バイスが得意とする、骨格のような建築の影響を受けたそうだ。

いつでもどこでも快適に食事ができる

トランク内部はクリストフルが作り込んだ。
トランク内部はクリストフルが作り込んだ。
ソフトトップをかけた姿も美しく見える。
ソフトトップをかけた姿も美しく見える。

このかたちになったのは、審美的理由からだけでない。オーナーの注文にしたがって、トランクルームに特別な機能をもたせたからだ。開くと、片側からアペリティフが取り出され、もう一方の側にはディナー。そしてとうぜんヨットに欠かせないシャンパーニュのクーラーも設置されている。製作を手がけたのは、パリのクリストフルだという。

生の食材を扱うため、冷却は重要な課題だったという。2つの冷却ファンに加え、上は摂氏85度、下は零下20度まで外気の影響を受けない機能をそなえた。いつでもどこでも快適な温度で食事が摂れるのだ。

特別なデザイン要素としては、トランク格納ができないためハードトップが脱着式となったこと。日光や雨をさえぎるのは、簡単なソフトトップで行う。ただし、ソフトトップをかけたときのスタイルも洒落ていて、これはこれで、おおいに目をひきそうだ。

ボンネットの塗装も特別。ロールス・ロイスとして初という、手作業による塗装が採用された。基調色のブルーを活かし、グリルからウィンドシールドに向かってブルーに濃淡がつけられていくという凝り方なのだ。

これまでロールス・ロイスの正式社名は、ロールス・ロイス・モーターカーズだった。2020年に同社では、これからはクルマだけのブランドから脱皮するとして、モーターカーズを外した。そしてみずからを「ハウス・オブ・ラグジュアリー」と定義。

今回のボートテイルでも「目的地にいく手段でなく、このクルマ(の仕上げ)じたいが目的です」(トルステン・ミュラー=エトベシュCEO)とした。高級(車)の世界が変わりつつあるのだ。

この記事の執筆者
自動車誌やグルメ誌の編集長経験をもつフリーランス。守備範囲はほかにもホテル、旅、プロダクト全般、インタビューなど。ライフスタイル誌やウェブメディアなどで活躍中。