無類の鮨好き! フードジャーナリスト森脇慶子さんと今、大人の女性が通いたい「ちょうどいい鮨」について考えました

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「美食家が集う東京の食シーンにおいて、とりわけ人気なのが鮨。ニューヨークや香港などで本格的な鮨を楽しもうと思ったらひとり5〜6万円が当たり前です。ところが日本だと、海外の鮨店のレベルをはるかに超える食材、技術、ホスピタリティで3万円程度。海外の富裕層にとってはかなりリーズナブル。そこで、最高級の食材を使ってほしい、値段は惜しまないという声が出始め、さらにインバウンド効果もあって、銀座の鮨店などはおまかせで食べて飲んで5万円くらいと、どんどん価格がつり上がっていきました。高くてもクオリティをしっかり保ち、行く価値のある店ももちろんありますが、人気店になるほど予約がとりにくく、半年先という場合も。そんな鮨バブルというべき現象に、少し疲れてきた…というのが正直なところではないでしょうか。 

食べたいと思ったときにすっと行けて、クオリティの高さはもちろんのこと、おまかせで2万円前後、ちょっとお酒を飲んでも2万円ちょい。雰囲気のよい店内で、気さくな大将が握る鮨を頬張りながら心地よい時間が過ごせる店。今、大人の女性が行きたい「ちょうどいい鮨」とは、そういう店だと思うのです。さらに、遠出が憚(はばか)られる今、一等地のビルの中ではなく、いわゆる住宅街や繁華街の外れにある店にも注目が集まっています。賃料が抑えられるぶん、価格設定が手頃なうえ、広々としたスペースに個室が完備されていたりと、コロナ禍においてその価値は高まっています。しかも、そういう場所に新たに店を構えた若き職人たちは、名店などできちんと経験を積んだ確かな腕の持ち主ばかり。また、鮨に合うドリンクを楽しんでほしいとペアリングコースを設定したり、おこのみで好きな鮨を好きなだけ食べてほしい、コースであってもつまみではなく握りをしっかり味わってほしい、というこだわりをもつ店も増えています。 

そんな鮨の新潮流ともいうべきポイントをおさえた店の大将たちが、声を揃えて言うのが「自分がお客だったら行きたい店」。そこには、食べる側の気持ちに寄り添い、おいしく楽しく、懐具合を気にすることなく、肩肘張らず、思い思いに鮨を楽しんでほしいという想いが根底にあります。彼らが目指す、そんな「等身大」の店こそ、今の時代に沿った鮨店といえるのではないでしょうか」

森脇慶子さん
フードジャーナリスト
(もりわき・けいこ) 料理専門誌から女性誌まで、幅広く活躍するフードジャーナリスト。著書に『フランスで料理修業』『行列レストランのまかないレシピ』など。『東京最高のレストラン』採点者のひとり。

2021年 鮨の新潮流 【キーワード 7 】

【 Keyword 01 】都会の喧騒から外れた住宅街にひっそりと

繁華街の外れや住宅街の一角にあり、地元の人に長く愛され育ててもらう、いわゆるご近所鮨に注目。

「若手職人にとっては、賃料高騰の問題も解決でき、客側はお手頃価格で食べられて双方ウィンウィン。それに本来、ふらっと行ってサクッと食べられるのが鮨店の魅力。原点回帰という感じでしょうか」(森脇さん/以下同)

常盤鮨

横浜・関内馬車道の繁華街、路地を入った静かな場所に店を構えて約60年。「常盤鮨」は舌の肥えた横浜住民に愛される名店。

  • 常磐鮨
  • 営業時間/17:00〜21:00(最終入店)、ランチは予約のみ 
    定休日/不定休  
    メニュー/おまかせ ¥19,000 予約がベター
    住所/神奈川県横浜市中区常磐町4-44 
  • TEL:045-681-2065
  •  

【 Keyword 02 】日本酒だけじゃない! 鮨と酒のペアリング

「鮨とワインという組み合わせはこれまでもありましたが、『鮨 m』のようにミシュラン二つ星の名店で経験を積んだトップソムリエが鮨に合わせて選ぶドリンクは、やはりおもしろい。既成概念を覆すセレクトはさすが」

鮨 m のカウンター

ベテラン鮨職人と名ソムリエがタッグを組んだ新感覚の鮨店「鮨 m」。つけ場の奥にソムリエ専用のカウンター。「鮨 m」では、鮨職人とソムリエの所作が同時に客席から見えるような工夫が。

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ワインや日本酒、ノンアルコールペアリングなど鮨を多彩に楽しめる。まろやかな酸味のコハダは話題のオレンジワインで。5分ほど浅くしめて、4日間ゆっくり酢を入れたコハダは、酸味が和らぎまろやかな風味。新潟県のワイナリー「ドメーヌ・ショオ」の、酢酸が効いた限定オレンジワインに合わせて。

  • 鮨 m 
  • 営業時間/16:00~20:30(L.O.) 
    定休日/月曜  
    メニュー/鮨 m おまかせディナーコース ¥22,000・¥33,000、ペアリングStandard ¥11,000 要予約 
    住所/東京都港区南青山4-24-8 アットホームスクエア 2F
  • TEL:03-6803-8436

【 Keyword 03 】 気兼ねなくゆったり語れる個室あり

カウンターのみの鮨店が多いなか、近年増えているのが個室の完備。「ニーズはあったものの個室スペースを都心の一等地で確保するのは難しい。これも住宅街など『外れ』立地のメリットでは。また、コロナ禍においてはさらなる強みになるはず」

鮨うがつの店内、個室

 窓からの緑が気持ちよく開放的な「鮨 うがつ」の個室は、目の前で握ってもらえる鮨カウンター付き。「お子様にもちゃんとした鮨を経験してもらいたい」という店主の想いから子供もOK。

  • 鮨 うがつ 
  • 営業時間/17:00~22:00頃、ランチは不定期 
    定休日/不定休 
    メニュー/おまかせコース¥22,000
    要予約(最新情報インスタグラム @sushiugatsu 参照)
    住所/東京都世田谷区下馬3-11-10 三吉ビル1F
  • TEL:03-5787-5155
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【 Keyword 04 】 半年、1年先…なんてことない。比較的、予約がとりやすい

「今もなお人気店では新規客が入れるのは何か月も先…という現象が続いていますが、今後は、予約がまったくとれないことはない、待っても2週間くらいの使い勝手のよい店にシフトしていくのでは」

鮨すがひさのカウンター

川崎市の溝の口駅から徒歩圏内。隣が神社という緑豊かな場所にある「鮨 すがひさ」は、地元住民に愛されて5年。

  • 鮨 すがひさ 
  • 営業時間/17:30~23:00(最終入店20:30)、ランチは火曜〜土曜(予約のみ) 
    定休日/日曜 
    メニュー/江戸前おまかせコース¥11,000
    要予約(最新情報はインスタグラム @sushi_sugahisa 参照)
    住所/神奈川県川崎市高津区久本1-16-15
  • TEL:044-750-7369

【 Keyword 05 】 飲んで食べてちょうどいい、リアルな価格は2万円前後

「月に一度、ちょっとした贅沢として鮨を楽しむなら、食べて飲んで2万円前後だと通いやすい。また、修業中の若手職人の勉強の場として、『頑張ってギリギリ支払える価格』を意識している大将もいます」

鮨まつうらの食材

2019年9月にオープンした「鮨まつうら」は、おまかせ¥16,500のみ。店主いわく「自分でも行きたいと思える価格です」。

  • ◇鮨まつうら
  • 営業時間/17:00~20:30(L.O.)、ランチは土曜日のみ 
    定休日/日曜、祝日 
    メニュー/おまかせコース¥16,500 要予約
    住所/東京都港区白金5-7-8 ウィング綱島1F
  • TEL:03-6450-2557
  •  

【 Keyword 06 】「おまかせ」も楽しいけれど「おこのみ」スタイルがくる予感 !?

「値段がわかっていて、次々とおすすめが出てくる『おまかせ』は、接待や会話中心の席に最適。一方、気分に任せて好きなものを好きな順で好きなように食べられる『おこのみ』も、気楽さや自由さから人気に。鮨店にもこの波はくるでしょう」

「すし光琳」の黒板メニュー

従来の鮨店のイメージを覆す、日替わりの黒板メニューを掲げるのは「すし光琳」。つまみも鮨も、好きなものを好きなだけ。

「㐂寿司」の木札のお品書き

大正12年創業。本格江戸前鮨「㐂寿司」の歴史を感じる木札の品書き。コハダ3貫にお銚子1本という常連さんも。

  • すし光琳 
  • 営業時間/15:00~20:00(料理L.O.19:00)
    定休日/無休 
    メニュー/握り コハダ¥280、赤身¥380など 要予約
    (最新情報はインスタグラム @sushi_kourin 参照)
    住所/東京都渋谷区神山町11-10 梅澤ビルB1
  • TEL:03-6407-9516
  •  
  • ◇㐂寿司 
  • 営業時間/11:45~14:30、17:00〜21:30
    定休日/日曜、祝日 
    メニュー/握り1人前¥5,500 おまかせ握り¥13,200
    住所/東京都中央区日本橋人形町2-7-13
  • TEL:03-3666-1682

【 Keyword 07 】 おまかせコース、本当に楽しんでほしいのは「握り」​という哲学

「美しい和食のようなつまみでコースを盛り上げ、握りは少し…という店もありますが、鮨店なら『握り』を食べてほしいと、つまみ2割、握り8割といったコース構成の店が増えています。これも原点回帰ですね」

「鮨 まるふく」の寿司

熟成鮨の名店「鮨 まるふく」のおまかせコースはつまみも充実。「熟成した魚のうま味と香りは、握りでしっかり堪能してほしい」と店主。

  • 鮨 まるふく 
  • 営業時間/18:00~23:00(最終入店21:00)、ランチは水曜(15:30〜)、土曜、祝日(12:30〜、15:30〜) 
    定休日/日曜 
    メニュー/おまかせコース¥16,500 (仕入れにより変動。冬場のせいこ蟹のシーズンは¥18,480) 要予約
    (最新情報はインスタグラム @sushi_marufuku 参照)
    住所/東京都杉並区西荻南3-17-4 第五PRビル1F
  • TEL:03-3334-6029
※営業日や営業時間に変更の可能性があるため、お出かけの際は最新情報をご確認ください。
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※新型コロナウイルスによる緊急事態宣言下では一部情報が変更となる可能性があります。公式HPなどでご確認ください。
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PHOTO :
篠原宏明、長谷川 潤
EDIT :
田中美保、佐藤友貴絵(Preciosu)