椅子好きを自認する5名に、どんな椅子でどんなふうに音楽を楽しんでいるかを聞いてみた。テイストは違えど、チェアはいずれも王道の名作揃い。そして最新ガジェットで気軽に音楽にアクセスする、というのが共通点だった。
我が家の音楽ライフを彩るチェア&ガジェット公開
バッテンアンドカンプの椅子『スチールアンドストーンチェア ラウンジ』
「音楽を聴くのに最適というよりは、ラウンジチェアはこれしかもっていない、というのが正確なところなんです」
折り曲げた鉄板と石で作られた椅子。ニュージーランド出身で、香港をベースに活動するデザインデュオによる快作だ。「実は、椅子選びにおいて座り心地のよさをあまり重視していないんですよ。特にラウンジチェアのようなものって、座っている時間よりも座っていない時間のほうが圧倒的に長い。見て美しいと思えるもの、新しい観念をもったものが空間にあるほうが、気分がいいんですよね」
Ωwv サウンドシステムのスピーカー『ポテト』
美しさ、新しさに重点を置いたもの選びの視点は、音楽ライフにも共通している。以前は多くのオーディオ機器をもっていたという佐藤さんだが、近年CDを聴くことはほとんどなくなったという。SpotifyでストリーミングしてMacBookからBluetoothスピーカーへ。今使っているのが、まるで現代アートのような造形の『ポテト』だ。「ボディはアルミ無垢材の削り出し。スピーカーを3つ備え、どこにいても一定の音を楽しめるように設計されています」
ラウンジチェアに座っていても、ダイニングテーブルで作業していても、聞こえてくる音はまったく変わらないのだとか。「機能的にも優秀なのですが、いちばんの魅力はやはりそのデザイン。初めて見た人はスピーカーだとは思わないようで、必ず『これ何ですか?』と尋ねられますね」(サムウェアトーキョー・オーナー 佐藤直樹さん)
スイスの建築家ピエール・ジャンヌレが1960年代初期にデザイン。アームレストとレッグが一体となり“X”のフォルムを描くことが、モデル名の由来だ。
「ル・コルビュジエの『LC1』からの買い替えを検討していたとき、会食の席で先輩にすすめられてひと目惚れしました。楽しくお酒を飲んでいたので、その場の勢いもあったかもしれません(笑)」
ファントムハンズの椅子『PH46 Xレッグオフィスチェア』
コルビュジエの家具デザインの大部分は、従兄弟でもあったジャンヌレと、シャルロット・ペリアンとの3人の共同作業から誕生した。名村さんがジャンヌレの椅子に惹かれたのは、どこか通底するデザイン性を感じ取ったからなのかもしれない。
ビーツ・バイ・ドクタードレのヘッドホン『Solo Pro ワイヤレス』
「味のある木材と籐張りの組み合わせがいい。モダンなデザインですが、手作業の温もりが感じられるんですよね」
音楽の相棒は、パワフルかつ調和のとれたサウンドで評価の高い“ビーツ・バイ・ドクタードレ”のヘッドホンだ。
「子供がいるので、自分だけの時間をもちたいときに。長時間聴いていても疲れない、快適なつけ心地が気に入っています」(イトナム代表取締役 名村恒毅さん)
「ラウンジチェアは一般受けしづらい製品なのかもしれません。置くスペースがない、日常的に座る時間がないといった理由で」
しかしながら考え方のひとつとして、リビングのソファをラウンジチェアに替えてみるという手もある、と神原さんは言う。
「ラウンジチェアは、パーソナルに考えるための空間と時間を作り出してくれます。自分のこと、家族やパートナーのこと、そして仕事のことを再確認し、問題解決のためのデザイン思考を育む椅子なんです」
仕事柄さまざまな椅子を見てきた神原さんが選んだのは、「ママ・ベア」の愛称で知られる『CH』。“椅子の巨匠”ハンス・J・ウェグナーによる傑作チェアだ。
「2段の背面とピローによる絶妙なサポート。肩にそっと触れているだけなのに包み込まれるような感覚が素晴らしい」
1954年誕生の名作ラウンジチェアで聴くのは、最新のスマートスピーカーから届けられる新旧のお気に入り曲だ。
アマゾンのスマートスピーカー 『Echo』
「オーディオ機器にこだわるより、将来の生活において当たり前になるであろうツールを取り入れたい、と思っているんです」(センプレデザイン取締役社長 神原久康さん)
﹁初めてコペンハーゲン国際空港に降り立った日のこと。到着口を抜けると美しい椅子が並んでいました。それが“ポール・ケアホルム”の『PK22』だったんです」 以前は家具販売会社に勤務した萩原さん。当然『PK22』は知っていたが、公共施設で使われていることに感動したそう。
フリッツ・ハンセンの椅子『PK22』とトリックスの椅子『Aチェア』
「背もたれとシートの角度が絶妙なんです。本を読んだり、仕事をしたり。そして眠ってしまうこともしばしばです」 もうひとつのお気に入りがステンレススティール素材の『Aチェア』だ。
アップルのラップトップ 『MacBook Air』とスマートフォン『iPhone 12 Pro』
「パリのカフェなどに無造作に置かれていて、それでいて絵になる椅子。基本は『PK22』に座っていますが、日当たりのいいダイニングにある『Aチェア』にもふらふらと吸い寄せられます。コーヒーを飲みながら音楽を聴いたりしていますね」 ふたつの椅子を行ったり来たりが萩原さんの日常。音楽は、音質などよりも聴きたいときにすぐ聴けることが大事なんだとか。「最新の機械やツールにあまり興味がなく、パソコンも携帯もだいぶ前のもの。でも僕にとっては十分に便利なんですよ」(文筆家 萩原健太郎さん)
1981年発表、ラテン語で脊椎の名をもつ“イトーキ”の『バーテブラ』。プロダクトデザイナーに柴田文江を迎えて、新たなオフィスチェアのあり方を見つめ直したのがこの『バーテブラ』である。
イトーキの椅子『バーテブラ03』
「確かにワーキングチェアではあるのですが、リビングやダイニングにもなじむような佇まい。『働く』と『暮らす』を越境するデザインだと思います」
最大のポイントは脚の形状とファブリックのカスタマイズ。その組み合わせは実に1000パターン以上に及ぶ。
「オフィスチェアって、色や形を最初から諦めていたと思うんです。でも『バーテブラ』はユーザーが関わる余地を残している。そこが新しいですよね。もちろん機能面も完璧。座面がスライドして背が傾くから、ストレッチもできますし(笑)」
ソノスのスピーカー『ソノス ワン』
仕事をしながら楽しむ音楽は、“ソノス”のスマートスピーカーから流れてくる。
「曲線と曲面のとり方がきれいなんですよ。陶器のようで、高級感がありつつ主張しすぎないデザイン。部屋中に広がるようなパワフルな音にも満足しています」(編集者 柴田隆寛さん)
- TEXT :
- MEN'S Precious編集部
- BY :
- MEN'S Precious2021年春号より
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- PHOTO :
- 唐澤光也(RED POINT)
- STYLIST :
- 伊藤良輔
- WRITING :
- 加瀬友重
- EDIT :
- 安部 毅(本誌)