家族やカップルで百貨店に足を運ぶのが大きなイベントだった、昭和の時代。まだ男性向けの売り場は決して大きくなかった。そんななか伊勢丹は、新宿本店に「男の新館」をオープンする。1968年のことだ。2003年には伊勢丹新宿店メンズ館としてリモデル。自分らしい服と情報を求める男たちの欲求を満たす、無二の空間として、今も日本随一の人気と売り上げを誇る。進化の歩みはとどまることなく、2017年8月には、5階の「ビジネスクロージング」フロアがリニューアル。ここでしか買えない服はもちろんのこと、セールススタッフと気軽に、より深く接することができるバーカウンターも新設し、男の遊び場をイメージしたという新フロアには、着こなしを楽しむヒントが満載だ。MEN'S Preciousではオーダー会のために来日した、人気ブランドのキーマンへの取材を含め、「ビジネスクロージング」フロアを5回にわたって特集。その集大成を改めてご紹介しよう。

MEN'S Precious×伊勢丹メンズ館 スペシャルコラム【1】

『メンズプレシャス』読者を始め、ファッション・ライフスタイルに一家言ある男性の聖地といえば、東京の伊勢丹新宿店メンズ館。8階には『メンズプレシャス』で連載中の「お洒落極道」こと島地勝彦氏の「サロン・ド・シマジ」のシガーバーもある。百貨店でありながら、メンズ館全体がお洒落好きな男のサロンとして、世界に類を見ない業態となっている。

「バーカウンターは男の勉強机である」

 とは、島地勝彦氏の名言だが(名言コースターとして伊勢丹メンズ館で売られている)、この8月、5階にある「ビジネスクロージング」フロアがリニューアルし、バーカウンターが新設された。売り手と買い手がバーカウンターを挟んで服談義。商品の説明にとどまらず、服好き同士の会話から始まるショッピングを楽しめると言うから面白い。

『メンズプレシャス』のエグゼクティブファッションエディター・矢部克已が、このリニューアルした「ビジネスクロージング」フロアの陣頭指揮を執るバイヤーの山浦勇樹氏を取材。男の遊び場をイメージしたという新フロアのキモを聞いた。

2フロアにまたがっていたアイテムを厳選&集約!

今季は表情のある生地を豊富に揃え、選ぶ楽しさを重視しました」と語る、バイヤーの山浦氏。

 時代をとらえたリアルな服が並び、年間を通してオーダー会も頻繁に行われる、伊勢丹新宿店メンズ館5階フロアの「ビジネスクロージング」が、2017年8月にリニューアルした。「スティレ ラティーノ」や「ラルディーニ」、「エルネスト」といった『メンズプレシャス』となじみ深い多くのブランドが、選びやすく編集されたフロアになった。

 その陣頭指揮にあたったのは、ビジネスクロージングのバイヤーを務める山浦勇樹氏。筆者は、ピッティ・イマジネ・ウォモや三越伊勢丹の展示会などで、山浦氏の顔は知っていたが、直接話をするのは今回が初めて。まず、フロアのリニューアルの目的を伺った。

「以前まで、4階の『インターナショナルラグジュアリー』に陳列していたアイテムを5階に移し、より商品を選びやすくしました。同時に、商品数をこれまで以上に厳選して、フロアに余裕のある空間をつくり、よりゆったりと買い物ができるように工夫しました。また、2018年、メンズ館はオープン15周年を迎えます。今回のリニューアルは、そのプロローグになるかもしれません」

「買う価値のある場」を提供する

バーカウンターは明るい雰囲気で、居心地がいい。ファッションは人生を豊かにする。ここで、そのヒントを見つけて欲しい。

 5階のフロアを山浦氏と一緒に回ると、随所に変化がある。ビジネスを意識したスーツのコーナー、カジュアルとビジネスとの中間的なスタイルを集めたコーナー、大量のパンツのコーナーなど、見やすさや選びやすさにこだわっている。しかし、山浦氏は、4階から5階フロアに、単に商品を並び替え、選びやすくしたのではないという。

「今までのように、多くの商品をそのままお勧めするのではなく、男の遊び場『サードプレイス』としての提案です。そこで新設したのが、このカウンターです。『買う価値のある場』の提供を考えました」

 5階フロア中央のスペースに、明るい雰囲気のバーカウンターをつくり、店員と対面しながら商品選びを楽しんだり、商品の説明を聞いたりできる。そのうえ、飲み物のサービスもある。

服づくりのマエストロたちにも会える最高の空間

山浦勇樹氏。2006年、三越伊勢丹に入社。「伊勢丹メンズ館でしか買えないもの」を目指してバイイングに奔走する34歳。

 確かに、今のファッションビジネスは、「上質でいいものを売る」だけでは、価値が見いだされにくくなってきた。伊勢丹新宿店メンズ館の5階フロアに行くことで、服を購入するだけではなく、他に充実した時間までも実感できれば足が向くことになるだろう。同じフロアには、オーダーメイドが楽しめるメジャーメイドのコーナーがあり、そこにもバーカウンターを設置している。ゆったりと話をしながら服選びに興ずる客たちで大盛況だ。

「向こうに比べ、こちらのカウンターは、ダイナーのイメージです。もっと和気あいあいとした雰囲気をつくりたいと思っています」

 と山浦氏は、その目的を明確に話す。

 カウンターの後ろには、パンツだけを集めた大きな棚も新設。パンツづくりに特化した3ブランドの「インコテックス」「PT01」「G.T.A.」のパンツが、カジュアルからドレスまでズラリと並び、実に壮観だ。

 リニューアルまもない2017年9月には、オーダー会のために、イタリアから名ブランドのオーナーや服づくりのマエストロたちもやってきた。カウンターを挟んで、彼らと対面して、服をつくることができるなんで最高じゃないか。

MEN'S Precious×伊勢丹メンズ館 スペシャルコラム【2】
大人のナポリスタイル|「ルカ グラシア」

 この8月にリニューアルされた伊勢丹新宿店メンズ館5階のビジネスクロージングフロアで、今話題のブランドのトランクショーが開催された。本国から腕利きの担当者が来日する、注目のイヴェントだ。そのひとつが、イタリア・ナポリの「ルカ グラシア」である。伊勢丹メンズ館では2017年春夏に続いて、今回で2回目のオーダー会。名門のサルトリアが居並ぶナポリにあって、まだ日本でなじみの薄いこのブランドについて、メンズプレシャスのエグゼクティブファッションエディター・矢部克已が、オーナーを取材。その歴史や服づくりの特徴を聞いた。

サルトリアで遊び、育った、生粋の仕立て屋3代目

3代目オーナーのルカ・グラシア氏の説明を聞く、矢部。本文にあるように、袖付け部分や胸ポケットの処理に独特のスタイルを持つのが「ルカ グラシア」の特徴だ。

「ナポリ伝統の1930年代のクラシックなスタイルとモダンなシルエットとの融合が服づくりのコンセプトです。ジャケットのそで付け部分は、極端にギャザーの目立つ雨振りそで(注1)ではありません。着用したときに、ギャザーが目立たない縫製を施しています。胸ポケットは、カーブを強調せずに、比較的おだやかなバルカポケット(注2)をつくります。大人のスタイルを意識した、控えめなスタイルが、『ルカ グラシア』の特徴です」

 そう答えたのは、3代目オーナーのルカ・グラシア氏。1985生まれの、32歳の若き職人は、子供の頃から実家のサルトリアが遊び場だった。アイロンをかけるスチームの匂いや、ハサミで生地を裁断する音などに包まれて育った、生粋の仕立て屋である。
(注1)ナポリ仕立ての特徴のひとつ。いせ込んで袖付けをするため、生地にギャザーが残る。このギャザーを美しく残した仕立て技だ。
(注2)クラシコイタリアのジャケットに多く見られる、胸ポケットが船底のようにカーブした形のこと。

ひときわ優雅な「マリナイオ」結びで着るコートも

一番手前のコートで見えるのが、ルカ・グラシア氏がおすすめする「マリナイオ結び」。長いベルトを独特の結び方で着用する、洒脱なスタイルだ。

 今回、「ルカ グラシア」が伊勢丹メンズ館に提案したアイテムは、コートとスーツ。それそれに特別な仕様を盛り込んだのが特徴だ。

「コートのコレクションは、1970年代をイメージした少しアグレッシブなスタイルです。グレンチェックの柄をアレンジした重量感のある生地や、毛足の長い素材、軽量なエスコリアル(注3)などの生地を使用しました。なかでも特に評判のいいデザインが、長いベルトを配したラグランコートです。ベルトは、1回だけ結んでシンプルに着るほか、ヨットで多用するひもの結び方『マリナイオ結び』で、着用することも楽しめます」
(注3)カシミアのように柔らかく、軽さにも秀でた希少なウール。

スーツは1930年代のナポリスタイルをイメージ

落ち着いた語り口でブランドの特徴を解説してくれた、ルカ・グラシア氏。伝統あるナポリスタイルに敬意を表しつつ、独自のテイストをさりげなく盛り込む彼のセンスと技術に注目だ。

 一方、スーツのジャケットでは、ナポリ仕立て特有のディテールが際立った。

「1930年代に流行った、ナポリスタイルを表現しました。上襟部分は、ラペルに向かって急カーブしたラインでエレガンスを表現しています。パンツは、サイドアジャスターを付けたベルトレスタイプ。ポケットやフロント、すその部分などに、手縫いのステッチを施し、それを『ルカ グラシア』のキャッチにしています」

 しなやかな仕立て技術を生かした、新鮮かつ、これからの進化も楽しみな「ルカ グラシア」には、クラシコイタリア好きにはたまらない魅力が詰まっている。こんな新しい出会いが楽しめるのも、伊勢丹メンズ館ならではだ。

MEN'S Precious×伊勢丹メンズ館 スペシャルコラム【3】
「エルネスト」で一味違う刺激を手に入れる

 クラシックなスタイルにビビッドな色と柄を配したジャケットで、目利きのファッション業界人からも大人気の「エルネスト」。リニューアルした伊勢丹新宿店メンズ館5階のビジネスクロージングフロアでは、スーツブランドの「パイデア」と共に、「GFB」(ジャンフランコボンメッザドォリ)レーベルの常設のパターンオーダーも始まる。来日した両ブランドのオーナー、エンリコ・メッザードリ氏に、メンズプレシャスのエグゼクティブファッションエディター・矢部克已が、独占インタビュー。日本人の志向に合わせた最新スタイルを解説してもらった。

「エルネスト」が追求する「イージーシック」とは?

アルパカ(80%)にナイロンを混紡することで糸が浮き立ち、ざっくりとした風合いの、「エルネスト」らしさ全開のジャケット。一枚仕立てで軽くはおれ、着心地も柔らかい(シャツとニットベスト、パンツはエルネスト製ではありません)。

 ほんの数年前、ピッティ・イマージネ・ウォモに突如として現れたブランド、「エルネスト」。ビビッドな色と大胆な柄を配し、凹凸感のある素材を使ったジャケットのコレクションは、目利きのファッション業界人たちを驚かせた。クラシックなスタイルのジャケットに新鮮な表情があふれ出し、強烈なインパクトを印象づけたのだ。「エルネスト」のオーナーであるエンリコ・メッザードリ氏に、ブランドのコンセプトを聞いた。

「『エルネスト』は生地に詳しいパートナーとともに、ジャケットを主体としたブランドとして2012年1月に立ち上げました。スタイルのイメージは、イギリス的な雰囲気もある、現代的でエレガントな男。チェックやストライプをアレンジしたファンタジーな柄の生地をつくり出し、クラシックなデザインとの融合を狙いました。イタリアの仕立て技で柔らかく仕上げ、独自のジャケットの世界を表現しています」

 エレガントな雰囲気を漂わせながら、快適な着用感も備えているのが「エルネスト」の真骨頂。メッザードリ氏は、それを「イージーシック」と呼ぶ。一枚仕立てのジャケットは、着ていることを感じさせない軽やかな着心地と共に、エレガントな雰囲気を醸し出す絶妙なスタイルで、今季も高い人気を誇っている。

スーツブランド「パイデア」も大人気!

こちらは「パイデア」のダブルブレストスーツ。コートに用いられることの多い、丈夫なカバートクロスを使うことで、重厚感を表現している。

 一方、2015年にメッザードリ氏は、ジャケットブランドとして人気を確立した「エルネスト」とは別に、スーツの新しい世界観を打ち出したブランド、『パイデア』を誕生させた。当時のメンズファッションシーンでは、本来、クラシックなスタイルを伝えるべきブランドが、あまり積極的にスーツを提案していなかった。そのことがメッザードリ氏に、本格的なスーツブランドを始動させる契機となった。

「ブランド名の『パイデア』は、ギリシャの古い言葉に由来します。老練な人生の先達が、若い人たちに美しさや洗練、エレガンスを教えることを意味しています。スーツの着方を通して、そうしたことを学んで欲しい。そんな願いを込めて名付けました」

 メッザードリ氏の思いが通じたのか、「パイデア」のスーツは、誕生と同時に一躍話題となった。

伊勢丹メンズ館ならではのコレクションが登場!

2017年秋冬のオーダー会は9月に開催されたが、伊勢丹メンズ館では新たに「GFB」レーベルの常設のパターンオーダーをスタート予定。エクスクルーシブな生地見本も揃えている。「エルネスト」でエレガントなジャケットをつくるもよし、「パイデア」で普通のビジネススーツとは一味違う一着を仕立てるもよし。伊勢丹メンズ館ならではの展開に注目だ!

 今季、伊勢丹メンズ館に提案したそれぞれのブランドの特徴を尋ねると、こんな言葉が返ってきた。

「まず、『エルネスト』は、これまで強い色合いを提案してきましたが、少し色目が控えめになっています。さらに、フィッティングに若干ゆとりを加えました。一方、『パイデア』は、ビジネスシーンでも着用できる、面白みのあるモダンなスーツです。退屈になりがちなビジネススタイルに、エクスクルーシブな素材使いで存在感のある『パイデア』のスーツで、彩りを添えていただければ幸いです」

 ファッションが好きな男たちはもちろん、普段着用しているジャケットやスーツに物足りなさを感じる人たちにとっても、「エルネスト」と「パイデア」は心強い存在だ。伊勢丹メンズ館に足を運んで、おおいに刺激を受けて欲しい。

MEN'S Precious×伊勢丹メンズ館 スペシャルコラム【4】
「スティレ ラティーノ」で、男らしさと色気をまとう

 クラシコイタリアという言葉を持ち出すまでもなく、日本のメンズクラシックのマーケットにおいて、「スティレ ラティーノ」の存在はひときわ眩しい。ブランド創立時、オーナーのヴィンチェンツォ・アットリーニ氏にインタビューをした経験のある、メンズプレシャスのエグゼクティブファッションエディター・矢部克已が、リニューアルした伊勢丹メンズ館のオーダー会で来日した氏と再会。旧交を温めながら、無二の服づくりの哲学を聞いた。

服作りの秘密をオーナーのヴィンチェンツォ・アットリーニ氏に直撃!

体のラインに沿う、しなやかな仕立てのスーツは、着心地に優れるだけでなく、着る者の個性を引き出す。ヴィンチェンツォの洒脱な着こなしを、日本男児も大いに参考にしたい。

「スティレ ラティーノ」が誕生したのは2005年。ブランドが立ち上がった翌年、ミラノのスーパースタジオ(注)で開催された「スティレ ラティーノ」の展示会で、ブランドのオーナーであるヴィンチェンツォ・アットリーニ氏にインタビューしたことがある。自社のスーツに身を包んだアットリーニ氏は、他に類を見ないしなやかさと色っぽさを備えていた。あれから12年。デビュー以来、日本でも着実にメンズクラシックのマーケットに浸透してきた「スティレ ラティーノ」の魅力を、生地選びやスタイルの特徴などから、アットリーニ氏が熱く語った。

(注)ミラノ随一のフォトスタジオで、ファッションウィークの時期には展示会場としても使用される。

生地選びへのこだわりが生む男の色気

肉厚で、しっかりとした感触の生地は、「スティレ ラティーノ」の伝統。伊勢丹メンズ館で開催されたオーダー会では、多くのエクスクルーシブな生地が用意された。

 まずは、ブランド名の由来から。

「ブランドを立ち上げるとき、フォーマルから少し距離をおくのが狙いでした。完璧なフォーマルではなく、少し柔らかな男らしさを追求した結果、『ラテンの男』をキーワードにしました。男らしい服装にプラスして、少しセクシーな香りを漂わせるスタイル。それが『スティレ ラティーノ』と命名した理由です」

 しなやかなナポリスタイルに、色気がにじみ出る「スティレ ラティーノ」は、その素材使いからも独自の雰囲気をつくり出している。一説にクラシックなスタイルは、「生地がスタイルの80%を印象づける」といわれるほど、生地選びはブランドの「顔」を映し出す。

「ブランドを立ち上げた頃から変わらずに、イギリス、あるいはスコットランドの肉厚でしっかりとした感触の生地を選んでいます。織りや柄もこだわったものを選び、多くの生地がエクスクルーシブです」

しなやかな仕立てで生地の魅力を引き立てる

伊勢丹メンズ館のオーダー会には、ヴィンチェンツォ氏のふたりの息子たちも帯同。「スティレ ラティーノ」の、揺るぎなき服づくりの哲学は、彼らに引き継がれていくに違いない。

 アットリーニ氏は、素材選びで入念なリサーチを重ねる。生地メーカーとの綿密な打ち合わせを経て、独自の風合いや色合いを備えた生地が、「スティレ ラティーノ」のために用意されるのである。今季は、これまでよりも少し落ち着いた色調をそろえた。オーバーチェックなどのほか、繊細なマイクロチェックの生地で、さりげないアクセントを提案。そうした生地が「スティ ラティーノ」の持ち味であるしなやかな仕立てで、一層個性が増すのだ。

「程よいフォーマル感を残した柔らかい仕立てが、『スティレ ラティーノ』のスタイルです。生地が体に沿い、軽く柔らかなラインをつくるために、生地と相性のいい極薄の芯地を使い分けたり、縫い糸についても、生地の特性に合わせて選別し、縫製しています」

 充実したジャケットのコレクションに加え、今季は豊富なデザインをそろえるキャメルコートや1930年代のスタイルを彷彿とさせるラグランスリーブのコートも見どころだ。「スティレ ラティーノ」のラインアップは、男の力強さとともに、色気を漂わせるスタイルがなによりの魅力である。稀代のマエストロが創造する逸品を、伊勢丹メンズ館でぜひ確かめていただきたい。

MEN'S Precious×伊勢丹メンズ館 スペシャルコラム【5】
英国の名門「ヘンリー プール」で、ハウススタイルを体感

 リニューアルした伊勢丹新宿店メンズ館5階のビジネスクロージングフロアでは、話題のブランドを好みの仕様に仕立てられる出張オーダー会=トランクショーを定期的に開催している。この秋には、英国サヴィルロウの名門、「ヘンリー プール」でシニアカッターを務めるアレックス・クック氏が来日した。数々の名士を魅了してきた格調高きスーツスタイルの秘密を、メンズプレシャスのエグゼクティブファッションエディター・矢部克已が解き明かす。

世界中のテーラーに影響を与えた名門!

大人の男がいつか着るべき名門として、「ヘンリー プール」は、日本においても頂点に君臨する。

 1806年に創業した「ヘンリー プール」は、ロンドンのサヴィルロウに現存する最古のテーラーである。古くは、英国だけでなく日本の歴史上の要人も同ブランドで仕立て、世界各国のワラントを保有する名門中の名門。スーツの源流にして、世界のテーラーにも影響を与えたのが「ヘンリー プール」なのである。現在、シニアカッターを務めるアレックス・クック氏に、そのスーツづくりに迫った。

卓越した技術でトレンドを盛り込みながらもスタイルを貫く

インタビューに答えるクック氏(右)。英国人らしい理路整然とした語り口で、ブランドの魅力を解説してくれた。

「ヘンリー プール」のハウススタイルといえば、ブリティッシュ・ドレープと呼ばれる胸に立体的なボリュームを備えた、シングル2ボタンのスーツにある。創業200年を超える歴史のなかで、その伝統は変わることなく受け継がれてきたのだろうか。

「ハウススタイルは、しっかりと継承されています。しかし、長い歴史のなかでトレンドは移り替わり、顧客の思考も変化してきました。テーラーとして、顧客が望むスタイルに寄り沿うことは大切です。ですので、『ヘンリー プール』らしさを固持しながらも、ディテールは時代に合わせて少しずつ変化しています」

 頑なにハウススタイルを守る一方で、顧客の好みを反映させたスタイルも自在に取り入れられるのが、名門の卓越した技術。クック氏によれば、1960年代は胸周りにドレープを入れて仕立てたスタイル。70年代はトレンドのスタイルに乗っていたものの、「ヘンリー プール」の服づくりから、やや逸脱した感があった。80年代は肩幅を大きくつくるようになり、90年代になるとミリタリーの要素を加えたスタイルが評判になった。そして現在は、「ヘンリー プール」らしい本来のクラシックなスタイルが再び人気だ。このところのメンズファッションの傾向である原点回帰が、「ヘンリー プール」にも起こっている。伊勢丹メンズ館に訪れる男たちも、より正統的なスーツを求めているのだ。

名門は、いつの時代も顧客に寄り添う

メンズ館5階のメイド・トゥ・メジャーには、上質な生地が豊富に揃う。

「お客様からのオーダーのうち、約90%はハウススタイルです。迷われている方にもテーラーの歴史や仕立てのお話をすると、ハウススタイルに一層興味を示してくれます」

 伝統ある名門ゆえに、初めてオーダーする際に、敷居の高さを感じる人も多いのではないか。そんな問いに対し、クック氏は、「肩の力を抜いて」とジェスチャーを加えながら、こう答えてくれた。

「確かに、すごく緊張している方もいらっしゃいます。そんなときはリラックスしてもらうために、我々スタッフはジョークを交えて話したり、フレンドリーに対応します。何か飲み物をサービスし、まずは寛いだ雰囲気になじんでもらう。それから、ゆっくりと好みの服を伺っていきますので、どうぞお気軽にお越しください」

 クック氏が語る「おもてなし」の哲学は、「ヘンリー プール」を扱う伊勢丹メンズ館でも変わることはないし、リニューアルした5階のビジネスクロージングフロアには、居心地のいいバーカウンターもある。イタリアのサルトリアがつくる、柔らかで色気のある服を眺め、試し、メイド トゥ メジャーの中核を成す「ヘンリー プール」で、自分なりのこだわりを込めた正統派のスーツを誂えるという贅沢……。これぞ、伊勢丹メンズ館が「ビジネスマンの聖地」と呼ばれる所以である。

「ヘンリー プール」一筋、22年にわたって服づくりに関わってきた、アレックス・クック氏。イタリア製スーツのフィット感の素晴らしさを認めつつも、「イギリスもイタリアもスーツの本質的な部分で違いはないと思っています」と、語る。伊勢丹メンズ館では、年に3回オーダー会を開催している。

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この記事の執筆者
TEXT :
MEN'S Precious編集部 
2018.7.17 更新
名品の魅力を伝える「モノ語りマガジン」を手がける編集者集団です。メンズ・ラグジュアリーのモノ・コト・知識情報、服装のHow toや選ぶべきクルマ、味わうべき美食などの情報を提供します。
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