『Precious』8月号の連載『現代の紳士たち』には、北村匠海さんが登場してくれました!
北村匠海さんが主演を務めた映画『東京リベンジャーズ』は好評公開中。フジテレビ系列で放送中のドラマ『ナイト・ドクター』出演も話題に。来年’22年には映画『明け方の若者たち』『とんび』の公開も控えています。
ドラマや映画で俳優として活躍する一方で、「DISH//」のメンバーとしてボーカル、ギターも担当するなど、多彩な表情を見せる北村匠海さんに、芸能界での道のりや、主演した映画についてお伺いしました。
わが道を行く猫みたいに……縛られず自由に生きていたい
夜の東京で映画のワンシーンのような撮影が続いた。瞳がずっと何かを物語っている。静かな愁いがあり、かつ瞬時にこちらの思いを見透かすような鋭さがある。
「幼い頃から人が思っていることを、ちょっとの『間』から感じとってしまうときがあって……。常に周りを見る子供だったかもしれません」
8歳で芸能界に入り、15年近く。順風な道をきた人と思っていたが、違っていた。
「やめようと思ったことは何度もあります。スカウトされて、よくわからぬままオーディションで何百回も落ち続けて。『目が死んでいる』と言われ、心折れたこともあります」
「芸能界を目指すキラキラした子たちがいっぱいいる中で」、北村匠海は異端だった。
「変にひん曲がったところがあったので。どこか俯瞰してしまって、いま一歩、振り切れない。理由のひとつには、弟が親に対して反抗的な時期があって、兄の自分は気持ちを押し殺してしまうところがあったかもしれない」
本質には激しさを秘め、枷が嫌いなようだ。絵が得意な北村は、小学生の頃に知ったピカソに、衝撃を覚えたという。
「ピカソって感情の渦みたいなものを描く。人のきれいではないところや破壊衝動……自由で計算のない表現に強く惹かれます。僕自身、常に自由でいたい人間。『サヨナラまでの30分』(2020)という映画に『100万回生きたねこ』という絵本が出てくる。そこで僕が『猫がのら猫になって、いきいきとするところが好き』というセリフを言うのですが、すごく共感しました」
いつも「清潔なイメージで捉えられる自分」も嫌だった。それでも芝居をやめなかったのは、オーディションで同世代のとある俳優と争い、役を逃して「初めて、心底、悔しい思いをしたから」だった。自身の『勝ち取る』意識の欠如に気付かされ、葛藤が続いたが、その澱のような感情が、のちの北村の演技に深みを与えたのも事実なのだろう。
「ある時、気付いたんですよ。オーディションって、芝居ではなくてその人間を見ているんじゃないかって。例えば目とか呼吸とか、その人にしかないもの」
やがて20歳で、代表作となった『君の膵臓をたべたい』に出合う。若くして死を運命づけられた少女に、ふと寄り添うことになった内向的な少年。まさに北村でなければできなかっただろうと、高い評価を得た。
「やるべくしてやる役というものがあるんだと思えました。ある意味、僕自身の(感情の)抑えぐせがよかったというか。一方あのあと陰のある役を演じる機会が増え、また葛藤する部分もあって。新たな『北村匠海』を見せたくて、自分を持ちつつも、ボクサー役などいろいろ挑戦してきたのが、この2年ほどです。ひたすら頑張りました」
昨年は、バンド「DISH//」としても、『猫』がビッグ・ヒット。総再生回数が3億回を超えたという状況に、高揚しているかと思いきや、この人はやはり冷静だ。
「音楽は僕に欠かせないもの。枝分かれの人生というのか……芝居との間を往き来して、その両輪こそが自分を支えてきたんです。今回、『猫』がひとつのポイントとなって、両輪のバランスがようやくとれるようになってきた。これからまた広げていくチャンスを得たと、一歩前進できた気がします」
毎日の中で大切なことを見逃している自分に気付いて
今月、封切られた映画『東京リベンジャーズ』に主演。負け犬のように暮らす27歳のフリーターが、高校時代にタイムリープしたことで、自分の人生と友人や恋人を救うべく、命懸けでリベンジしていく物語だ。
「原作コミックはずっと大好きで、映画化されるならタケミチ(役名)は僕が絶対に演じたいと思っていた。叶いました。彼は人生から逃げて、1回死んだような人間。でも、もう逃げない!と必死で立ち向かうんです。見逃していたものを拾い集めていくストーリーの中に生きて、ああ、きっと自分も、気付かぬうちにこぼしている大切なことがいっぱいあるのだろうな、と実感した。壊れるときは一瞬なのに、小さな幸せを積みあげていくのはなんて難しいのだろう、とも」
不良たちの激しい抗争ものだが、生きていく中での大切なものを含ませた作品は切なく、どこか清らかささえ感じさせる。
「僕らの世代の俳優たちで打ち出した、新たな青春群像劇ができました。人の人生を生きて、傷ついて、泣いて笑って……。すごい仕事だとあらためて思います。いろいろあったけれど、続けてきてよかった」
23歳。どこまでもまっすぐな言葉だった。
※掲載した商品はすべて税込み価格です。
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- PHOTO :
- 秦 淳司(Cyaan)
- STYLIST :
- Shinya Tokita
- HAIR MAKE :
- 佐鳥麻子
- WRITING :
- 水田静子
- EDIT&WRITING :
- 小林桐子(Precious)