硬派なスポーツカーのなかでもフェラーリは特別な存在だ。代を重ねてもひとめでそれとわかる芸術的なスタイリング、圧倒的なパフォーマンス、そしてどこか女性的な気品を漂わせるラグジュアリーな一面も。そんなブランド、ほかにはない。最新モデルのSF90 ストラダーレも、そんなフェラーリの正統を感じさせるものだった。

最大で25kmのEV走行も可能

ボディサイズは全長4,710×全幅1,972×全高1,186ミリ。
ボディサイズは全長4,710×全幅1,972×全高1,186ミリ。
なまめかしい曲線で構成されたスタイリングが、フェラーリの魅力。価格は5,340万円~。
なまめかしい曲線で構成されたスタイリングが、フェラーリの魅力。価格は5,340万円~。

フェラーリSF90ストラダーレは排気量4.0リッターのV8ツインターボエンジンにプラグインハイブリッドを組み合わせ、システム全体で1000ps!という途方もないパワーを生み出すミッドシップスポーツカーだ。このため0−100km/h加速は3秒を大きく切る2.5秒、最高速度は340km/hと発表されている。このうち0−100km/h加速はフェラーリの量産モデルとして最速タイム。つまり、現行フェラーリのトップパフォーマーがSF90ストラダーレなのだ。ご存じのとおりフェラーリといえばV12エンジンで、これまでは常にV12モデルがフラッグシップに位置づけられてきた。したがってSF90はフェラーリの歴史を塗り替えたモデルでもあるのだ。

しかも、試乗車はアセット・フィオラーノといってサーキット走行向けのパッケージオプションを装着した特別な1台。「きっと恐ろしく扱いにくくて、暴力的に速いクルマなんだろうなあ」と予想して試乗したのだが、これがものの見事に裏切られた。

乗り始めてまず驚いたのが、走行中のキャビンが静かなこと。そう、SF90はプラグインハイブリッドなので、エンジンをかけることなく、電気モーターの力だけで走行できるのだ。ちなみにバッテリーを満充電にすれば最大25kmのEV走行も可能。おかげで六本木からスタートしたこの日は、首都高3号線から東名に乗るまで、ほとんどモーターの力だけで、すーっと滑らかに走りきった。エンジンがかかっていないフェラーリに乗るなんて、もちろん生まれて初めての経験である(ラ・フェラーリもプラグインハイブリッド車だったが、あちらは限定生産モデルで試乗の機会は得られなかった)。

ただし、ドライバーがアクセルをちょっとでも踏み足すと、SF90のV8エンジンはそれを待ち構えていたかのように即座に始動、最大で780psのパワーを生み出してくれる(これにハイブリッドシステムの220psが加わって1000psとなる)。そんなときには迫力あるV8サウンドを聞かせてくれるが、従来のフェラーリ・ミッドシップに比べると、やや大人しい印象。この辺もマイルドハイブリッドの性格にあわせてチューニングされたのかもしれない。

作りこみはあくまでもラグジュアリー

写真の車両はカーボンフレームのシートを装備。
写真の車両はカーボンフレームのシートを装備。
セレクターはMT時代のシフトゲートをほうふつさせるデザイン。
セレクターはMT時代のシフトゲートをほうふつさせるデザイン。

乗り心地は、さすがにちょっと硬め。ただし、金属的で角がとがったショックは伝わってこないので、疲れにくいし不快にも思えない。見ためはスパルタンだが、意外と掛け心地のいいシートも、乗り心地のよさに貢献しているように思える。

改めて考えてみれば、キャビンも足下を中心として思いのほか広いし、モーター走行時にエンジンが始動しても駆動系にショックが伝わることなく、加速感はスムーズそのもの。インテリアの作りのよさも含めて、質感の高さ、優れた快適性には何の不満も覚えない。つまり、いくらトップパフォーマーとはいえ、ほかのフェラーリ・ロードカー同様、あくまでもラグジュアリーカーとして作り込まれているのが、このSF90なのだ。

もちろん、ワインディングロードではスーパースポーツカーらしいフットワークを披露。ただし、フェラーリとしては驚くほど接地性が高く、しかもタイヤが路面を捉えている様子はステアリングなどから克明に伝わってくるため、安心感が強く、思い切ってコーナーを攻めることができたのは意外だった。

ちなみに、フェラーリに代表されるスーパースポーツカーは当面、プラグインハイブリッドで排ガス規制などをクリアする見通し。プラグインハイブリッドのSF90を量産モデルのトップパフォーマーに位置づけたのも、今後登場するモデルがフェラーリとして正統なものであることを印象づける狙いがあったのだろう。

サイドシルに「アセット・フィオラーノ」のプレートが。上述のカーボンシートもこのオプションに含まれる。
サイドシルに「アセット・フィオラーノ」のプレートが。上述のカーボンシートもこのオプションに含まれる。

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フェラーリ・ジャパン

この記事の執筆者
自動車専門誌で長らく編集業務に携わったのち、独立。ハイパフォーマンスカーを始め、国内外の注目モデルのステアリングをいち早く握り、わかりやすい言葉で解説する。
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