磨き上げられたルックスと情け容赦ないユーモアのセンス、ゆえにロジャー・ムーアのジェームズ・ボンドを好むのは少数派だ。それらの資質は、ムーアがTVや映画で演じたすべての役柄に反映されているが、やはりジェームズ・ボンド役に顕著にあらわれている。
ムーアの魅力の源は、あふれる自信、洗練されたブリティッシュ・アクセント、そして勝利の笑顔だ。彼以外が演じたボンドでは、だれもムーアのような微笑みを見せることはなかった。彼はその微笑みをもって、『ユア・アイズ・オンリー(For Your Eyes Only)』のリスル伯爵夫人のようなボンド・ガールたちを即座に虜にし、『私を愛したスパイ(The Spy Who Loved Me)』や『ムーンレイカー(Moonraker)』の殺し屋ジョーズのような悪役たちを不安な気持ちにさせることができた。
70年代ファッションを象徴するロジャー・ムーア版ボンドスタイル
ほかの俳優が演じたジェームズ・ボンドと比べ、ムーアが演じたボンドは洗練された魅力を備えていた。ムーアは明らかに良質なテーラードの服を身に纏い、快適な状態に映ったからだ。ほかのどの俳優よりも、ムーアはボンドにとっての必需品であるスーツをうまく着こなし、それはまるで第二の肌のようだ。なぜなら彼だけが、ジェームズ・ボンド役のために私生活でも懇意にしていたテーラーを起用したからだった。
ロンドンのセレブリティ向けのテーラーとして知られていた「シリル・キャッスル」と「ダグラス・ヘイワード」、そして伝説的なシャツメーカーである「フランク・フォスター」といった錚々たる面々がムーアとコラボレートし、ムーア演じるボンドの着こなしをとても魅力的なものにした。自身が好み選んだテーラーを起用することで、ムーアはボンドを独特かつ個人的な形で自身と結びつけることができ、その役柄は彼にとって快適なものになったのだった。
そして、ムーア演じるボンドは、常に完璧に服を選び、着こなせていた。作品によっては1970年代のトレンドが過剰に反映しているにもかかわらず、現代から見ても、どんな状況でも大丈夫で、準備万端であるように感じられる。エジプトやブラジル、インドではミッドナイトブルーあるいは黒のモヘア・ディナージャケットを、タイやインド、あるいはフランスでは夏の最中にライトウエイト・オフホワイト・ディナージャケットを着用して、どんな気候においてもディナーの際にブラックタイとタキシードを身につけることを決して躊躇しなかった。
タイのジャングルや南米、インドに赴いた際には、ムーアはトレンドを超越した服であるサファリスーツに身を包んだ。さらにムーアは、自身が出演したジェームズ・ボンド作品において最低でも1回は、ダブルブレステッドのディナージャケット、ブレザーあるいはスーツを着用した。このことは、ほかのどのボンドよりも彼が洗練されていることを示している。
またムーア演じるボンドは常に紳士だったが、そう望んだときには、手強くタフな存在であることを装いで表現することもあった。『死ぬのは奴らだ(Live and Let Die)』では、ムーアは巨大なリボルバーを収めた肩がけホルスター、黒のタートルネックに黒いトラウザーズという出で立ちだった。
それは、この作品の数年前に『ブリット』で同様の服装をしていたスティーヴ・マックイーンよろしく、ボンドが悪人を倒す準備ができていることを、端的に示すものだった。
ここでは、ムーアがジェームズ・ボンドとして着こなしたアイコニックなアウトフィットをいくつか挙げている。それらは彼のボンドがひと味違う特別な存在であることを雄弁に物語っている。
- TEXT :
- MEN'S Precious編集部
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