トマトソースにオイルをふっただけの「マリナーラ」の誕生は1750年頃。モッツァレラチーズをのせた「マルゲリータ」が女王に献上されたのは1889年のこと。庶民も王室も関わりなく、うまいものはうまい! こうして歴史を重ねたナポリピッツァが、東京で活況を呈している。
東京のナポリピッツァがこんなにも美味しいのか?
焼きたてのピッツァにナポリの文化が香る
ここ数年、日本のピッツァのハイレベル化が進んでいるという。そういえば、イタリア贔屓の本誌スタッフも評判のピッツェリアに足繁く通っている様子。
東京の街中にも店が増え、活況を呈しているといわれるピッツァ業界だが、その中心となっているのが、ピッツァ発祥の地、ナポリで育まれたナポリピッツァだ。日本におけるピッツァの創成期といえば、六本木の「ニコラス」が一世を風靡した昭和30年代。その後、アメリカからやってきたピザハウスやデリバリーピザの進出もあり、気軽に楽しめる外食というカジュアルなスタイルで、ピッツァは広く浸透していった。
そんなポピュラー化したピッツァに対する認識が変わるのが、1990年代後半。ナポリのピッツェリアと同じように、店の中に薪窯を設えた、本格的なナポリピッツァの店が登場したのだ。先駆けとなった中目黒の「サヴォイ」や「サルヴァトーレ」には行列ができ、伝説的な店となった。
この頃、ナポリピッツァがたまらなく好きになった客の中には、やがて自らピッツァ職人を目ざす若者たちがいた。東京で評判のピッツェリアで修業を積む者もいれば、本場の空気の中でピッツァ職人の技を学ぼうと、ナポリに渡った果敢な若者もいた。
一方ナポリでは、ナポリピッツァの伝統を守るとともに、より質の高いピッツァをつくろうという意識が、多くのピッツァ職人の間で高まっていった。その視野はイタリア国内だけでなく世界にも向けられ、日本人をはじめ、海外から修業に来る人たちを受け入れる店が徐々に増えていったという。
こうした日本と本場ナポリのピッツァ事情の動向の中で、ピッツァイオーロ(ピザ職人)となった人たちが、東京で自らの店を開いたり、注目のピッツェリアで腕を振るっている。熱い思いを胸に抱き続けた彼らの牽引が、今、東京のナポリピッツァを、こんなに美味しくしているのだ。
守るべき制限があるからこそ磨かれる職人の感性
東京のナポリピッツァの店には、それぞれ個性がある。しかし、うまい! と評判の店には、一本、共通した筋が通っている。それは、ナポリピッツァを名乗るための基本となる伝統的な製法が、きちんと守られていることだ。
1984年にナポリのピッツァ職人たちが自ら設立した「真のナポリピッツァ協会」の規約に掲出されているナポリピッツァのつくり方と材料についての記述を、東京の名店「パルテノペ」の総料理長である渡辺陽一さんが6項目に要約したもの。
「真のナポリピッツァ」と呼ばれるための6ケ条
1.生地に使う材料は、小麦粉、水、酵母、塩の4つのみ
2.生地は手だけを使って延ばす
3.窯の床面にて直焼きにする
4.窯の燃料は薪もしくは木くずとする
5.仕上がりはふっくらと、「額縁」がある4窯の燃料は薪もしくは木くずとする
6.上にのせる材料にもこだわる
生地に使うのは小麦粉、水、酵母、塩の4つ、と限られている(1)。生地にオイルを混ぜ込むことも、固く禁じられている。生地の上にのせる材料にも強いこだわりがあり、たとえば、トマトソースに用いる缶詰はトマトの風味の濃いサンマルツァーノ種に限るなど詳細な制限がある(6)。
ナポリにはこの「真のナポリピッツァ協会」のほかにも、いくつか同趣旨の協会や団体があり、ナポリピッツァの伝統を守り、文化として育んでいこうという、高い意識が保たれている。
こうした条件があるにも関わらず、ナポリピッツァはどの店も、決して同じ味にはならない。それはピッツァイオーロたちが、重ねた経験と磨き上げた技、そして自分の感性を糧に、渾身の一枚を焼き上げるから。圧倒的なうまさと満足感を与えてくれるナポリピッツァに、敬愛の念を禁じえない。
パルテノペ恵比寿店
住所/東京都渋谷区恵比寿1-22-20
TEL:03-5791-5663
アクセス/JR「恵比寿駅」より徒歩 3分、東京メトロ「恵比寿駅」より徒歩5分
https://partenope.jp/ebisu/
※2014年春号掲載時の情報です。
- TEXT :
- MEN'S Precious編集部
- BY :
- MEN'S Precious2014年春号 ああ絶品!東京で食すナポリピッツァの名店6より
Faceboook へのリンク
Twitter へのリンク
- クレジット :
- 撮影/西山輝彦 構成/堀 けいこ