「アイビースタイルの系譜を受け継ぐアメリカントラッドは、アメリカという国に対する憧憬や執着から独自の進化を遂げた日本オリジナルのスタイルであり、現代のアメリカ人が着ているのは本場を凌駕した日本版の“アメトラ”である。」これは、2017年に発行された『AMETORA』(DU BOOKS)の著者である、W・デーヴィッド・マークス氏による、これまでになかった見立てだ。それを裏付けるように1970年代当時、アメリカのライフスタイルに憧れ、本場と同じクオリティを追求して日本製のアメリカントラッドを具現化した伝説のブランドがあったことをご存知だろうか?
日本版“アメトラ”の源流となった「バーンストーマー」のチノパン
日本初の本格的な国産トラッドメーカーの御三家に数えられる「バーンストーマー」。それこそが、1977年創業の日本で初めて本格的なチノパンを国産で作り上げたブランドである。時はアイビー全盛期。本場のクオリティを再現するために、生地に使われる糸の質、工場のミシンの種類、複雑な工程を行える職人を駆使して作り上げたチノパンは、逆輸入する形でいつしか本場アメリカの専門店が買い付けに訪れるまでになるなど、先述の日本版“アメトラ”の源流となった。そして40年以上の月日が流れ、当時の製作に携わったスペシャリストたちに声をかけて作り上げた復刻モデルが満を持して発売された。
カジュアルな佇まいに潜むテーラー仕立てのテクニック
“ドレスチノ”の名に相応しいバーンストーマーの永世定番。一般的なチノパンが強度を高めるためにジーンズと同じ作りなのに対し、こちらのパンツは軍の士官が着用していたものをベースにしたもので、前立てや腰裏マーベルトとの仕様などスラックス縫製が取り入られている。テーラーの技術を活かし、縫い代が多くカーブが作られているため、ゆとりがありながら体に沿った美しいシルエットが特徴。生地も昔ながらの単糸にこだわり、あえて撚りを弱くすることで厚手でもしなやかな風合いに仕上げた。
クラシカルなタータンチェックとワイドシルエットが好相性
基本的な仕様や作りは前述のドレスチノと同様だが、こちらは2プリーツを施した太めのシルエットが特徴。横置きしたときによく分かる、ワタリから膝下に掛けて描く美しいS字カーブは高度なアイロン技術を駆使したもので、あえて脇のカーブをきつくしてプレスで膨らみを潰し、センターに逃すという熟練のテクニックが活かされている。オレンジを基調としたタータンチェックはどこか懐かしさと新鮮さが同居した柄行きで、ネイビーブレザーやニットと合わせてモダンなアイビーリーガーを気取りたい。
当時の風合いを忠実に再現した“ドレス顔”のファティーグパンツ
現代でもアウトドアウエアなどで採用される引き裂きに強いリップストップは、1900年にはすでにアメリカ軍で実用されていたと言う。「ドレスファティーグ」と呼ばれる写真のパンツは、当時パラシュートなどに用いられていたリップストップを再現するために、同じ番手を使い再現したスペシャルな生地を採用したもの。タフで趣のある表情はそのままに、テーラーの縫製を取り入れてシルエットはテーパードさせて、裾もダブルに仕上げてシューズとのバランスを考慮した。軍モノのサービスシューズは言うまでもなく、プレーントゥやローファーなど、レザーシューズとの相性は抜群。ミリタリーを出自としながら相反するドレスの要素を加味する辺りに、日本人らしい巧みな編集センスが伺える。
※価格はすべて税込です。
問い合わせ先
- TEXT :
- MEN'S Precious編集部
Faceboook へのリンク
Twitter へのリンク
- PHOTO :
- 多田 悟(Rooster)
- STYLIST :
- 仲唐英俊(TABLE ROCK.STUDIO)
- WRITING :
- 佐藤哲也