「人と同じことをしていては間に合わない」そう焦ってがむしゃらだった頃、人生でいちばん苦しくて、でも、いちばん活き活きとしていた(鈴木亮平さん)
夢追う最中、言葉の力に幾度となく救われて
とにかく振り幅が大きい。緊急救命に全身全霊をかけて奮闘する医師を演じたかと思うと、残虐非道な極道、そうかと思えば、純朴で恋愛下手な漫画家を演じたりもする。鈴木亮平はいま、観る側からもっとも信頼される俳優のひとりになった。常に実直な印象があり、役に対して周到な準備をする人だと聞く。
「必ずしもというわけではないんです。時に“やらない”という準備もあると思っていて。まさに今回がそうでした。三池(崇史)監督の作品は現場で起こることが大切というのか、瞬発力が試されるので」
11月19日より公開となる映画『土竜の唄 FINAL』。
生田斗真演ずる潜入捜査官と戦うヤクザの二代目として、獅子のごとき銀髪姿で、まさに怪演を見せた。昨年、コロナ禍で延期せざるをえなかった撮影。再開が決定した時の歓びは大きかったという。
「半年間ぐらい、すべての仕事がなくなったので……当時は呆然としましたが。でも結果、笑いというか、明るい気持ちになれる作品がいちばん求められているだろうこの時期に公開できて、よかった」
思春期に映画に惚れ、俳優を目指すために東京の大学に進学。進学を疑問視する親を「(専攻の)英語は役者に活きる」と説得したが、「たぶん見透かされていて。人生に保険を掛けるな、やるなら崖っぷちに立て、と言いたかったのでしょうね。感謝しています」
入った演劇サークルで「あまりに何もできない自分」を知った。「舞台で、まともに歩くことさえできないんです。ものすごく悔しくて、改めて一生の仕事にしよう」と決意。だが方法がわからない。芸能事務所を調べ尽くして、アポなしの売り込みに奔走した。
「僕はビジュアルもそんなによくないし、才能に秀でているわけでもない。同世代の俳優たちが活躍しているのを見ると、正直、焦りました。人と同じことをしていたのでは、間に合わない。電車での移動時間がもどかしくて、原付バイクを買って、それで事務所を回りました。社会人の営業と同じだと思ったんですよ。こんなこともびびってできなかったら、役者というフリーランス業で成功するわけがない、と」
50社以上に断られる。が、ノックし続けた。
「僕は言葉が大好きで、言葉のもつ力に何度も助けられたし、その力を信じているんです。あの頃も『ここで諦めたら普通のヤツ!』とか書いた紙を壁に貼って、自分はできる、と無理やり暗示をかけていました。ノートにもいっぱい書いて、それは今でもとってあります。当時は人生でいちばん苦しくて、鬱々としていたけれど……同時にいちばん活き活きとしていたと思う。懐かしいです」
ゴールのない仕事に打ちのめされながらも進む
やがて扉が開いた。デビューし、端役からどんな役でも演じた。紆余曲折あったが、35歳で大河ドラマ『西郷どん』に出合う。朴訥な人情家で、強く包容力のあったといわれる西郷隆盛と鈴木とを、重ね合わせる人は多かっただろう。
「間違いなく大きな転機となった作品のひとつです。1年間かけて同じ人物を演じ、後半には自分がただその人物でいられた。初めての経験でした。あの時も、心に響く印象的なセリフを、ノートにたくさん書き留めていました。与えていただいた素敵なセリフは、宝もののように大切です」
熱心な勉強家の一面を感じさせるが、映像の世界に入ってから20年近く。
「いろいろな節目はありましたけど、自分に起こることは、いいことも悪いことも含め、何かを気づかせてくれるために、与えてもらっているんだと思うんです。因果応報ではないですが、ムダだと思っていた努力が、5年後に突然活きたりする。だから、苦しくても、これは何かの糧になっている、と思えるようになりました」
死ぬまでに数本でいい。少しだけ世の中の力になれる、そんな作品を残したい
海外作品に出る夢も、持ち続けている。
「いろいろな人種の言語、感性を持つ人たちの中で仕事ができたら、きっとまた違う何かを得られるのではないかと。でもここ数年で世の中が大きく変わって、ボーダーや障壁がなくなった。以前は、『海外に行きたい』と思っていましたが、日本でもいい作品をつくれば、ダイレクトに世界中で観てもらえる時代。僕の中でも意識が変わってきたと思います」
生涯、俳優を全うする覚悟だ。一途な目を向けて言う。
「どこまでいっても、ゴールのない仕事で、そのたびに打ちのめされる。でも死ぬまでに、できれば数本、世の中の力になれる、自分の中で誇りと思える作品を残したいです。人とは、人生とは……を問いかけていく仕事。演じ続けていきます」
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