新しい季節を迎える今、『Precious』4月号は『「印象アップデート」な春が来る!』と題して、新しい気分にふさわしい、おしゃれの更新をおすすめしています。

遠くからでも視線を引き寄せられる素敵な女性──。おしゃれの究極目標ともいえる、そんな「印象美人」の秘密はどこにあるのでしょうか。ヴィクトリア・ベッカム、オリビア・パレルモ、ケイト・ブランシェット、ロージー・ハンティントン・ホワイトリーの人目を奪う着こなしをもとに、エッセイストの光野 桃さんにひもといていただきます。

どうして目を奪われる?「20メートル先の印象美人」

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写真協力/Getty images(左、右)、Splash/AFLO(左中)、Backgrid/AFLO(右中)

左から、上下白を黒ベルトで引き締めているヴィクトリア・ベッカム。美シルエットを極めた、隙のない着こなしに視線集中!

上品なおしゃれが人気のオリビア・パレルモは、ラインの美しいベージュスーツを完璧な丈バランスでスタイリング。

動きと共に揺れるブラウスが、ケイト・ブランシェットの堂々としたオーラを高めて。

流れるようなロングコートをひるがえし、颯爽と歩くロージー・ハンティントン・ホワイトリー。美しい光沢イエローに、目も奪われる。

【Update Column】あなたの輪郭|エッセイスト 光野 桃

信号が青になると、そのひとは綺麗な足さばきでこちらに向かって歩き出した。ドレス・トレンチの裾が、風に乗って広がっていく。まるでアネモネの花びらが、スローモーションで開いていくかのようだ。

後ろで一つにまとめた髪、ゆったりと微笑を漂わせた口元。すれちがったとき、振り返らずにいられなかった。

なんだろう、この堂々たる美しさは――。

おしゃれすることは、常に似合うものを探す旅のようなものだった。色、素材、サイズ、そして雰囲気の海を渡り歩く。

しかし「似合う」のメカニズムがよくわからない。わからないまま、その場その場で手に取ってきた。

でも、あのひとは違う。服を皮膚のように自然にまとい、楽しげだった。自信が感じられた。それは威圧的なものではなく、揺らぎのなさに属するものだった。

ここに選んだ四人の女性――全身白のヴィクトリア・ベッカム、ベージュのパンツスーツのオリビア・パレルモ、黄が鮮やかなロージー・ハンティントン・ホワイトリー、ベージュ系ブラウスとパンツのケイト・ブランシェットは、一度見たら二度と忘れられない、「人目を惹く」プロたちだ。

彼女たちの着こなしに共通のポイントは、第一に悪い「ノイズ」がない、ということ。良くないノイズとは必要以上の装飾や、もっといえば、服やアクセサリーを「かまっている」時間である。

ほぼ全員がノーアクセサリー、バッグも持たず、靴も見えない。スニーカーの定番化で靴のおしゃれは下剋上を成し遂げたが、次はノーシューズ、要するに何でもいい、という自由さになるかもしれない。

「服を着て、服を忘れる」

この四人の醸し出す雰囲気には、清々しさという共通項がある。それは、おしゃれに執着していない感じ、からくるものだろう。

出かける前、最後に鏡の前に立ったら、あとは着ていることを忘れている。着ているものが気になっているうちは、まだ服が自分を飾るものの域を出ていないのかもしれない。明るい気持ち、優しい感情になれる服を、シンプルに、さらっと着る。それがスタイルに余白を生む。リラックスした微笑を呼ぶ。

おしゃれとは本来、心の領域ではないだろうか。

「遠目でも目を惹く」とは、悪いノイズのない心の中心、いわば心の体幹がしっかりとぶれずに存在していることが第一の条件で、それができていれば、基本的にはなにを着てもよく、服に負けてしまったり、飾りが重くて苦しそうに見えたりすることもないだろう。

そしてそれはいつしか、あなたの人格と結びつき、あなただけの輪郭をつくりあげる。

そのとき、ルッキズム(容姿による差別)から遠く離れて、おしゃれは、ひとを幸せにするだけのものになるのだろう。

光野 桃さん
エッセイスト
(みつの・もも)大人の揺れ動く心に寄り添う、美しく温かな文章に多くのファンが。主な著書に『白いシャツは、白髪になるまで待って』(幻冬舎)、『これからの私をつくる29の美しいこと』(講談社)など。
PHOTO :
佐藤 彩
COOPERATION :
Getty images、AFLO
EDIT&WRITING :
長瀬裕起子、古里典子(Precious)