2021/2022シーズンのメトロポリタン・オペラもいよいよ佳境に

MET史上初の黒人作曲家テレンス・ブランチャードによる『ファイアー・シャット・アップ・イン・マイ・ボーンズ』(Fire Shut Up In My Bones)で感動的に幕を開けた2021/2022シーズンのメトロポリタン・オペラ。同作はじめ5作品が3月までに『METライブビューイング』でも上映され、好評をもって迎えられた(『リゴレット』は東劇のみ4月7日まで)。今回は、4月からの公開予定作品5本を紹介する。新作1本、新演出作2本を含む、話題の舞台ばかりだ。

ちなみに、『METライブビューイング』は、METの舞台で上演される世界最高峰のオペラを映画館の大型スクリーンで上映する体験型エンターテインメントで、日本をはじめ世界70カ国2,200か所以上で実施されている。5.1chサラウンドの音響と10台以上のカメラを駆使したダイナミックなライブ撮影の効果により、METの特等席で観る気分で鑑賞できるのが魅力だ。

新演出『ランメルモールのルチア』は『ウエスト・サイド・ストーリー』か?

ネイディーン・シエラ『ランメルモールのルチア』(c)Zenith Richards/Metropolitan Opera

2021/2022シーズン後半の最注目は、古典を現代的に蘇らせることで知られるサイモン・ストーン新演出のドニゼッティ『ランメルモールのルチア』(Lucia di Lammermoor)。現地でもまだ上演されていないので詳細はお伝えできないが(初日は4月23日予定)、ヒロインを演じるネイディーン・シエラが街角に佇む広報用のヴィジュアルを見ると、まるで『ウエスト・サイド・ストーリー』のよう。スコットランド版『ロミオとジュリエット』と形容される内容だけに、近しいところのある両作品。どんな仕上がりになるのか興味津々だ。出演はシエラの他に、ハビエル・カマレナ、アルトゥール・ルチンスキー、マシュー・ローズ。指揮リッカルド・フリッツァ。7月1日(金)~7月7日(木)上映。

『ドン・カルロス』(c)Ken Howard/Metropolitan Opera
『ドン・カルロス』(c)Ken Howard/Metropolitan Opera

やはり新演出で話題になっているのが、デイヴィッド・マクヴィカーが手がけるヴェルディ『ドン・カルロス』(Don Carlos)。大航海時代のスペイン宮廷を舞台に、一人の女性を巡る父子の愛憎や宗教問題がドラマティックに展開する。初演と同じフランス語による全5幕での上演というのも楽しみ。出演は、ドン・カルロス役マシュー・ポレンザーニ、王妃エリザベート役ソニア・ヨンチェヴァ、国王フィリップ2世役エリック・オーウェンズ。他に、ジェイミー・バートン、エティエンヌ・デュピュイ、ジョン・レリエ。指揮はヤニック・ネゼ=セガン。5月13日(金)~5月19日(木)上映。

『ハムレット』(c)Richard Hubert Smith/Glyndebourne Festival

MET初演となるのがブレット・ディーン作曲の『ハムレット』(Hamlet)。ディーンは1961年オーストラリア生まれ。『ハムレット』は彼の2作目のオペラで、初演は2017年イギリスのグラインドボーン。緊張感に満ちた繊細な楽曲が、ハムレットの不穏な運命を劇的に彩る。やはりオーストラリア出身のニール・アームフィールドの演出は、陰影に富んでサスペンスフル。指揮もオーストラリアからやって来る新星ニコラス・カーターで、これがMETデビューとなる。ハムレット役アラン・クレイトン、母ガートルード役サラ・コノリーは、初演から引き続いての出演。父の亡霊役はジョン・レリエ。7月15日(金)~7月21日(木)上映。

『ナクソス島のアリアドネ』(c)Marty Sohl/Metropolitan Opera

今回『METライブビューイング』に、リヒャルト・シュトラウスの『ナクソス島のアリアドネ』(Ariadne auf Naxos)が初登場。舞台好きなら大喜びのバック・ステージもので、スポンサーの身勝手な指示により劇中劇の悲劇と喜劇が入り交じる、という捻った内容。アリアドネ役はリーゼ・ダーヴィドセン。他に、2020年『アグリッピーナ』のフェロモン系ポッペア役が印象的だったブレンダ・レイ、3月上映の『シンデレラ』が好評だったイザベル・レナードらが出演。昨年惜しくも亡くなったエライジャ・モシンスキーの演出は色彩感豊かで美しい。指揮マレク・ヤノフスキ。4月22日(金)~4月28日(木)上映。

『トゥーランドット』 (c)Marty Sohl/Metropolitan Opera

フランコ・ゼフィレッリの華麗な演出によるプッチーニ『トゥーランドット』(Turandot)はMETの超人気演目。今回上映されるのは、ウクライナ出身のソプラノ、リュドミラ・モナスティルスカがトゥーランドット姫を演じる貴重なヴァージョン。対するカラフ役はヨンフン・リー。他に、エルモネラ・ヤホ、フェルッチオ・フルラネットらが出演。指揮マルコ・アルミリアート。6月10日(金)~6月16日(木)上映※東劇のみ~6/23(木)。

上映は東京・東劇他、全国の映画館。割引料金で観ることのできる特別鑑賞ムビチケカード3枚セットも発売中。詳しくは「METライブビューイング公式ホームページ」で。

METライブビューイング公式ホームページ

※新型コロナウイルスの影響により一部情報が変更となる可能性があります。最新情報は公式HPなどでご確認ください。

この記事の執筆者
ブロードウェイの劇場通いを始めて30年超。たまにウェスト・エンドへも。国内では宝塚歌劇、歌舞伎、文楽を楽しむ。 ミュージカル・ブログ「Misoppa's Band Wagon」(https://misoppa.wordpress.com/)公開中。 ERIS 音楽は一生かけて楽しもう(http://erismedia.jp/) で連載中。
公式サイト:ミュージカル・ブログ「Misoppa's Band Wagon」