BMWという最高の素材を手にした1965年創業の名門BMWチューナーである「アルピナ」。が最高の技で仕上げたラインナップは、いつもエレガンスとスポーツの絶妙なる融合を見せる。一流のシェフ集団だからこそなし得たディーゼルエンジン搭載のサルーン「D5 Sリムジンアルラット」の世界観とは、どんな味わいだろうか。
最高の素材を最高の料理人が最高の技で仕上げたひと品
好き嫌いがあるだろうが、一流の職人技には、それにふさわしいだけの価値と存在感が備わり、余人の苦言や評論を拒み続ける。まさにそれこそが老舗の味わいといえる物なのだろうが、いつも「アルピナ」のステアリングを握ると、そんなことが頭に浮かんでくる。
ベースとなっているBMW車は本来、これ以上の改善や改良などなくとも、十分に味わい高く仕上がっている。それを「アルピナ」というシェフは、経験に裏付けられた技を加えて、敢えての味変を施すのである。ここで重要なのはBMWより美味しくしようという事ではない点だ。ひと味違う世界観、独自の存在感を創り上げようと言う1点に、「アルピナ」の技は傾注されるのである。
一方でプライスは、どうしても高額になる。大量生産ではなく、匠が時間を掛けて高度なチューニングを施した少数生産モデルの宿命でもある。だが、だからと言って“BMWよりも高級な存在”というイメージを創り上げようというわけでもない。「アルピナ」が創り上げたテイストだけにある新たな世界観に対しての正当な評価という理解でクルマに対すれば、単なるBMW車のチューニング車といった単純なロジックでは語れないことが理解できるはずだ。
実際にBMW5シリーズのディーゼル・モデルをベースに仕上げた「BMWアルピナD5 S(以下D5S)」に相対し、そして走らせてみるとすぐに理解できた。
伝統の軽い感触を堪能
佇まいは、むしろ地味とも思えるほど楚々としている。少々、クルマに詳しい人ならフロントのスポイラーや専用ホイール、ボディサイドのアルピナストライプなどを見れば“ただ者ではない”と理解できるのだが、一般の人にとれば、それはごく普通のBMWかもしれない。
それでも走り出してすぐに感じるのはガッチリとした足回りと、強烈と繊細さがほどよく同居するディーゼルエンジンのフィールであった。しなやかに仕立てられた足回りは路面の起伏を丁寧に吸収しながら、低速から分厚いトルクを発揮するエンジンと共にキレのいい走りを披露してくれる。その感覚をなるべく端的に表すなら“軽い”であり、これこそ“いかにもアルピナ”といった伝統の感触なのである。
さらに、とびっきりの速さを実現しながらも、リムジンと呼ぶにふさわしいだけの高い静粛性を保っている。こうした味つけにより、全4,980mm、全幅1,870mm、車両重量1,980kg、さらにリアシートには大人ふたりが寛げるだけの快適さを備えた、かなり大きなサルーンボディが軽く感じるのである。この感覚のお陰で、体へのフィット感も良くなり、ひとクラス下の3シリーズ並に感じるほど。5メートル近い全長を意識するのは駐車場ぐらいである。
「アルピナ」はサーキット走行でもない限り、普段は平和にして心地いいスポーティカーといった素顔。押し出しにおいてはむしろBMWのモデルの方が強いかもしれない。そしてD5Sについていえば、これほどエレガントにディーゼルエンジン・モデルを仕上げた例は、あまりないかもしれない。ここにおけるエレガンスはさりげなさと同じ意味である。「アルピナ」にもっとも似合わないのは、自己顕示であろう。
【BMWアルピナD5 Sリムジンアルラット】
ボディサイズ:全長×全幅×全高:4,980×1,870×1,480mm
車両重量:1,980kg
駆動方式:4WD
トランスミッション:8速AT
エンジン:6気筒DOHCディーゼルターボ2,992cc+48Vマイルド・ハイブリッド
最高出力:255kw(347PS)/4,000~4,200rpm
最大トルク:730Nm(38.7kgm)/1,750~2,750rpm
車両本体価格:¥13,780,000
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- TEXT :
- 佐藤篤司 自動車ライター
- PHOTO :
- 篠原晃一