仕事でもプライベートでも、日々見聞きすることの多い「〜させていただく」という言葉。確かに、相手に対する敬意を表現できる便利な言葉ですが、会話や文中で何度も出てくると、少々気になるのも事実です。「アスリートの活躍に、感動させていただきました!」といったフレーズにも、違和感を感じ得ません。今回は「させていただく」本来の意味を解説し、違和感の正体を紐解きます。f

【目次】

「させていただく」の乱用に注意!
「させていただく」の乱用に注意!

「させていただく」の本来の意味は?【基礎知識編】

丁重な謙譲語として、改まった席でも使われる「させていただく」。そもそもどんな意味なのでしょうか。

  ■「させていただく」の「意味」

「させていただく」は、動詞「する」+接続助詞「て」+「もらう」の謙譲表現である補助動詞「いただく」で構成されています。「(ご了承のうえ)訪問させていだだきました」のように、基本的に相手の許可を得て自分が何かを行い、その恩恵を受けることに対して敬意を払う場合に使うのが本来の意味とされています。

現在、「させていただく」には、以下の4つの意味があります。

1.相手の許可を得て〜する

2.相手のおかげで〜できた

3.自分の行為を丁寧に言う

4.相手の意志に関係なく〜する

現状では、3.の用法で、もっとも丁寧な謙譲語として「させていただく」が使われるケースが多いようです。

■「誤用」といわれる理由は?

謙譲語としての「させていただく」は、本来は1.の「相手の許可を得て〜する」ときに使う表現です。しかし、多くの人が丁寧な謙譲語のつもりで頻繁に使用した結果、「させていただく」という言葉だけが悪目立ちし、内容が記憶に残りにくいうえに、「うわべだけで誠意が感じられない」「わざとらしい」「慇懃無礼」等々、あまりよくない印象を与えてしまうことが増えたようです。「会話の中で『〜させていただきます』を連発されるとイラッとする」という上司も多いとか。これでは敬語としては逆効果です。

正しい使い方、言い換えた方がスマートな事例を「例文」でチェック!

まず、前述した4つの意味に応じた正しい例文をご紹介しましょう。

■:1「お言葉に甘えて、休ませていただきます」

■:2「いいお勉強をさせていただきました」

■:3「ひと言、お祝いを述べさせていただきます」

■:4「頭が痛いので、帰らせていただきます」

自分では相手に対しへりくだり、丁寧な表現をしたつもりでも、「させていただく」を使いすぎると、マイナスの印象を与えかねません。特に相手の許可がまったく関わっていない事柄については、「頼んでないのに押しつけがましい」という感想を持つ人もいるかもしれません。以下に、他の言葉に置き換えたほうがよいケースをご紹介します。

NG例■1:「●●の件でご連絡させていただきました××社の△△です。

「ご連絡」に相手の了解は得ていないはず。受け取る側によっては、少々強引な印象を受けるかもしれません。「●●の件でご連絡いたしました、××者の△△と申します」がよいでしょう。

NG例■2:「アスリートの活躍に、感動させていただきました」

感動は自然な感情の発露です。「アスリートの活躍に、感動いたしました」が適切。同じような誤用として、「○○さんと結婚させていただきました」も、聞き手の許可は不要なはずです。

NG例■3:「メールでいただきました企画書を拝見させていただきました」

ひとつの文中に「いただきます」が2度使われているのは、良い文章とは言えません。しかも、「拝見」は「見る」の謙譲語なので、「拝見しました」が適切です。正しい文章は、「メールでいただいた企画書を拝見しました」。丁寧さを出そうとするあまり、回りくどい表現にならないよう気をつけましょう。

できるビジネスパーソンが使っている「言い換え」表現

■「いたします」 ■まいる」 ■「うかがう」 ■「申す」

「させていただく」は、どんな動詞にもつけられるため便利な敬語表現ですが、自分では丁寧に表現しているつもりでも、使いすぎるとかえって謙虚さがなくなります。「行く」→「まいる」「うかがう」のように、謙譲語のある動詞はそちらを使い、ひとつの文章で何度も使用しないよう気をつけましょう。また、「いたします」という謙譲表現でも言い換え可能です。

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日常、何気なく使っている「させていただく」は、実は使い方が難しい、要注意ワードです。特に、50代以上の上司世代で違和感をもつ人が多いようなので、自分が使いすぎていないか、この機会に意識してみるといいですね。

この記事の執筆者
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