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「頂く」と「戴く」の「読み方」とそれぞれの「意味」など基礎知識

パソコンで「いただく」と打つと、予測変換として「頂く」や「戴く」が出てきます。辞書を引いてみると、「いただく」は「頂く/戴く」と表記されていることが多く、ふたつの漢字が意味するのはほぼ同じであることがわかります。「ほぼ同じ」とはいえ、使い分けのルールは覚えておきたいもの。まずは基礎知識をしっかり確認しておきましょう。

■「読み方」

「頂く」と「戴く」は、どちらも「いただく」と読みます。

■それぞれの「意味」

動詞の「いただく」には複数の意味があります。

(1)頭にのせる。かぶる。また、頭上にあるようにする。「王冠をいただく」

(2)敬意を表して高くささげる。頭上におしいただく。「宸翰をいただく」(「宸翰」は天皇や上皇がみずから筆をとって書いた文書のこと)

(3)敬って自分の上の者として迎える。あがめ仕える。「有識者を会長にいただく」

(4)「もらう」の謙譲語。「激励の言葉をいただく」

(5)「食う」「飲む」の謙譲語。

(6)苦労もなく、手に入れる。「今度の試合はいただいたも同然だ」

(7)《「小言をいただく」の意から》しかられる。小言をくう。また、しそこなう。

 

(1)(2)(3)の意味の場合、主に対象が自分より非常に上である場合や、物品や品物に関わるときに「戴く」を使用します。「王冠をいただく」は「王冠を戴く」、「もらい物」という意味なら「戴き物」になるわけです。

(4)の「もらう」の謙譲語として、また⑤の「食べる・飲む」の謙譲語として使う場合は「頂く」と漢字表記が望ましく、その他の意味の場合はひらがな表記が推奨されているようです。

ここで注意しておきたいのは、「頂く」は常用漢字、「戴く」は常用外漢字だということ。教科書や公文書などでは常用漢字を用いるとされているため、「戴く」が使われることはありません。ビジネスシーンにおいても基本的に「頂く」、あるいはひらがなを使うのが正解です。

■「ひらがな」にしたほうがいい場合は?

動詞の「いただく」は上記のような意味をもちますが、「来ていただく」のように使う場合、「いただく」は「〜してもらう」という意味の謙譲語の補助動詞として使われており、漢字本来の意味はもっていません。文化庁が発表している「公用文における漢字使用等について」では、補助動詞はひらがなで表記することになっているため、「いただく」を補助動詞として使う際には、ひらがなで表記します。

補助動詞としての使い方は主にふたつあります。

(1)自分のために相手に何かをしてもらう意の謙譲表現。

 例:「せっかく来ていただいたのですが、○○課長はおりません」

 例:「ご心配いただきまして、恐縮です」

(2)自分がある動作をするのを、他人に許してもらう意を表す。「させてもらう」の謙譲語。

 例:「あとで読ませていただきます」

■「お金」をいただいたときは?

報奨金や大きな金額の場合は「戴く」を使いますが、お小遣い程度の金額の場合に「戴く」では大げさに感じられるので「お小遣いを頂く」「お小遣いをいただだく」でいいでしょう。

■「お土産」をいただいたどきはどちらを使う?

「ちょっとしたお気遣い」の物品であれば「頂く」か「いただく」で。

■「戴く」の類義語は?

もともと「てっぺん」の意味をもつ「頂」と、「高くものを捧げる」という意味の「戴」。このふたつを組み合わせた「頂戴する」は、「戴く」よりへりくだった丁寧な表現です。さらに敬意を強めるには、「頂戴いたします」「頂戴いたしました」と、謙譲語「いたします」と組み合わせて使います。


「頂く」を使うケースの例文

■「雪を頂いた富士山は唯一無二の美しさだ」

■「頂いた資料についてお伺いしたいのですが…」

■「〇〇さんから旅行のお土産を頂きました」

■「もう十分に頂きましたので結構です」

■「こちらにご署名を頂けますでしょうか」

■「お酒も頂ける年齢になりました」


「戴く」を使うケースの例文

■「社長賞を戴いたことを励みに、今後も精進を続けます」

■「高名な学者から直接指導を戴けるのがこの講座の特徴です」

■「かねてより好きだった作家さんからサインを戴きました」

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「頂く」は常用漢字、「戴く」は常用外漢字で、公用文は常用漢字のみを使うとされている――というところが今回のキモでした。ポイントは「戴く」を使用するのは、かなり限られたシーンであるということです。厳密には意味の違いがあるものの、このふたつは同じように使われることもあるので、どちらの漢字を使うのか判断に迷ったときは「頂く」あるいは「いただく」を使うのが無難です。

また、時折、「食う」「飲む」の謙譲語である「頂く」を、「どうぞご遠慮なく頂いてださいね」のように尊敬語として使う人がいますが、これは誤用! 正しくは「どうぞご遠慮なく召し上がってくださいね」ですよ。こちらもぜひ覚えておいて下さい。

この記事の執筆者
Precious.jp編集部は、使える実用的なラグジュアリー情報をお届けするデジタル&エディトリアル集団です。ファッション、美容、お出かけ、ライフスタイル、カルチャー、ブランドなどの厳選された情報を、ていねいな解説と上質で美しいビジュアルでお伝えします。
参考資料:『日本国語大辞典』(小学館)/『デジタル大辞泉』(小学館)/『敬語マニュアル』(南雲堂) :