「不惑」とは、ものの考え方などに迷いのないことを意味しますが、「40歳」という年齢を示す言葉でもあります。今回はその由来について、孔子の『論語』を紐解きつつ説明します。一緒に学びましょう!

【目次】

40歳は迷いがなくなる年齢?
40歳は迷いがなくなる年齢?

【「不惑」を深く理解するための「基礎知識」】

■そもそも「不惑」とは?

「不惑」にはふたつの意味があります。
1. ものの考え方などに迷いのないこと。
2. 40歳のこと。

「惑」は仏教に由来する語で「迷いのもととなるもの。煩悩(ぼんのう)」を意味します。そのため、1.のような意味になるのですね。

ではなぜ「不惑」が「40歳」という年齢の別称となったのでしょうか?

■「不惑=40歳」の「由来」は?

紀元前500年頃に活躍した中国の思想家、孔子。孔子と弟子たちの問答をまとめた書物『論語』は、日本にも早くから伝わり、特に江戸時代には熱心に学ばれ、「切磋琢磨」や「温故知新」、「克己」など、多くの言葉が日本語の語彙に加わりました。
「不惑」も『論語』由来の言葉として知られ、年齢を表す6つの言葉のうちのひとつです。これらは孔子が晩年、自分の人生を振り返って述べた内容がもとになっています。

■孔子を由来とする年齢の「別称」

『論語』に書かれた年齢を表す6つの言葉をご紹介しましょう。

15歳……志学(しがく)    50歳……知命(ちめい)
30歳……而立(じりつ)    60歳……耳順(じじゅん)
40歳……不惑(ふわく)    70歳……従心(じゅうしん)

上記6つの言葉は、区切りのよい年齢の別称として使われていますが、この年齢は「数え年」と呼ばれるものです。「数え年」では生まれた日を「1歳」と数えます。そして暦年が変わった1月1日に1歳ずつ年をとるのです。ですから、12月31日に生まれた人は、年が明けると「数え年」では2歳ということになります。つまり「不惑」は満年齢でいえば38歳もしくは39歳ということになります。

■出典となった『論語』にはなんと書かれていたの?

では『論語』に書かれた、孔子の言葉を読んでみましょう。孔子が自らの一生を回顧して、その人間形成の過程を述べた文章です。

子曰(し いわ)く、
「吾十有五(われ じゅうご)にして学に志す。
三十にして立つ。
四十にして惑はず。
五十にして天命を知る。
六十にして耳順(したが)ふ。
七十にして心の欲する所に従って、矩(のり)を踰(こ)えず」。

『大人の語彙力が身につく本』より、以下に解説文を引用します。

「15歳のときに学問を志した孔子は、30歳でその道で独り立ちし、40歳になって進む道に迷いがなくなったわけです。50歳で自分の天命*を悟り、60歳で人からの忠告などを素直に聞けるようになり、70歳には、自分の心の思うままにふるまえば、それが適切である状態になりました」
                                *天から与えられた使命

■「不惑」は「女性」も使えるの?

現在では一般的に女性の年齢についても「不惑」は使われていますが、本来は男性の年齢を指していました。


【「40歳」を示す「不惑」の「類語」】

「不惑」は「40歳」の別称ですが、類語がいくつかあるのでご紹介しましょう。

■四十路

「四十路」は「よそじ」と読みます。「十路(そじ)」とは、数を数えるのに10を単位として表す言葉です。平安時代までは、物の数を数えるのに広く用いられましたが、現在では年齢にのみ限定されるようになりました。「四十路」のほか、「三十路(みそじ)」「五十路(いそじ)」、「六十路(むそじ)」、「七十路(ななそじ)」、「八十路(やそじ)」、「九十路(ここのそじ)」と用いられます。
「四十路」を40代、「三十路」を30代とする使い方は一般的に定着しており誤用とは言い切れませんが、本来は「四十路」が「40歳ちょうど」を意味する言葉であることは、知識として覚えておくといいですね。

■初老

ショッキングな事実ではありますが、「初老」も本来は「40歳」の別称でした。「老人の域に入りかけた年頃」の意で「はつおい」とも読みます。『日本国語大辞典』には、「寿命がのびた現在では、五〇歳から六〇歳前後をさすことが多い。女性では月経閉止期、男性では作業能力が衰えはじめたときから老化現象が顕著になるまでの期間」と記載されています。

■強仕

「強仕(きょうし)」は『礼記』曲礼上に由来する言葉で、やはり「40歳」の別称です。「四十を強と曰(い)う、すなわち仕う」という文言からきています。

  •  

【『論語』由来ではない「60歳以降」の「別称・異称」】

年齢を示す別称は『論語』由来以外にも数多くあります。よく知られているものをご紹介しましょう。

■還暦(かんれき)

数え年で「61歳」の別称、つまり満年齢60歳を指す言葉です。「干支」は十干と十二支を組み合わせた60を周期としています。生まれてから60年で、生まれた年の干支(えと)が巡ってくることから、長寿を感謝し祝う行事となりました。

■古希(こき)

唐代の詩人、杜甫(とほ)が詠んだ「曲江詩」中の「人生七十古来稀(じんせいしちじゅうこらいまれなり)」を由来とした言葉で、70歳を指します。当時の寿命は現在よりずっと短かったため、「70歳まで生きる人はまれである」とし、非常におめでたいこととされていました。

■喜寿

「喜寿(きじゅ)」は77歳を意味します。「喜」という漢字の草体「㐂」が、七十七に見えることからきた言葉です。

■米寿

「米寿(べいじゅ)」も「喜寿」同様、漢字が由来です。88歳、またその長寿の祝賀のことで、「米(よね)の祝い」ともいいます。「八十八」の字画を詰めると「米」に通じることからきています。

■白寿

「白」の字は、百から一をとったものであるところから、99歳、またその祝いを指して「白寿(はくじゅ)」といいます。

***

孔子は今でいうアラフォーにして、進む道に迷わなくなったのですね! 一方で、現代を生きる私たちは「不惑の年になっても、迷いや悩みは尽きない」という人が多いのではないでしょうか? とはいえ、2022年7月に厚生労働省が発表した日本人の平均寿命は、男性81.47 年、女性87.57年ですから、まだまだ悩む時間はたっぷりありそうです!

この記事の執筆者
Precious.jp編集部は、使える実用的なラグジュアリー情報をお届けするデジタル&エディトリアル集団です。ファッション、美容、お出かけ、ライフスタイル、カルチャー、ブランドなどの厳選された情報を、ていねいな解説と上質で美しいビジュアルでお伝えします。
参考資料:『日本国語大辞典』(小学館) /『デジタル大辞泉』(小学館) /『ひと言で知性があふれ出す 大人の語彙力が身につく本』(かんき出版) :