演劇は、何にも制限されることなく思い切り楽しむ場所
―(Vol.1を読む)原作はフランスの劇作家・モリエール、そして注目される演出はルーマニアの巨匠プルカレーテ。今回の公演では、美術・照明・衣装を手掛けるドラゴッシュ・ブハジャールさん、音楽のヴァシル・シリーさんといったスタッフもルーマニアから来日して稽古から参加しています。佐々木さんにとってこのような環境は、2017年の舞台『リチャード三世』でも体験済みです。
「海外の演出家やスタッフと一緒にいて楽しいのは、まっさらな目で出演者みんなを平等に演出してくれるということです。稽古しながら、作っては壊してを繰り返す毎日も、刺激的な経験です」。
―そこには、ルーマニアならではの文化や影響はあるのでしょうか。
「『守銭奴』の主人公・アルパゴンは、どケチな上にあらゆるものを欲しがって、その末に行き場を失ってしまう、喜劇でありながら悲劇の面ももっています。演出家・プルカレーテさんが直接言及したわけではありませんが、彼の出身地・ルーマニアといえばかつてチャウシェスク政権下で言論統制があったり、その後政権崩壊があったり…。そういったことが思い起こされます。また、今もくすぶる紛争地帯と地理的に近いこともあって、主人公・アルパゴンのように『欲しがり続けた』先に『孤立していく』ことを、歴史と関連づけて考えずにはいられません。
そういえば、アルパゴンが自分のお金を埋めていたのは土の中。もしかしたら、彼自身の墓穴を掘ることも連想させているのかもしれません。もちろん、アルパゴンの考えまでは、わかりませんけれど。
プルカレーテさんの住むルーマニアでは、昔から劇場は盛んだったそうです。政治的制約や背景があったからこそ、劇場にいる時間が唯一、自由な時間なのだと、どこかで聞いたことがあります。きっと、劇場だけが発言も考えも制限されない貴重な場所だったのでしょう。そして、みんなが思い切り楽しむ場所だったのでしょう」
―それを体感したのが、佐々木さんが5年前に初めて訪れたルーマニアでの「シビウ国際演劇祭」。『守銭奴』の公演も含まれる『東京芸術祭』との共通点はあるのでしょうか。
「5年前といえば、プルカレーテさんと初めて組んだ舞台『リチャード三世』に臨むときでした。それに先立って、ルーマニアで毎年開かれている大規模なパフォーミングアーツの祭典『シビウ国際演劇祭』を訪れ、演出家や音楽家、美術家のみなさんとお会いしました。
旅行は好きだけれど、数日いたらきっと飽きるだろうと思っていたら、とんでもない。昼間だけでなく夜の演劇、屋外や街中のパフォーマンス、子どもたちが参加するワークショップ…。とにかくさまざまな形の演劇がいたるところにあって、まさにエンタメのシャワー状態。観客も、アジアの国々からヨーロッパ全土まで幅広い。言葉がわからなくても、それを感じているだけでも楽しくて、楽しくて。飽きるどころか、滞在中たっぷり楽しみました。
日本の芸術祭の規模はまだそこまでではありませんが、『東京芸術祭2022』(9月1日から12月11日)でも、みなさんに演劇を体感してもらえたら、僕もうれしいです。
ルーマニア本国では、客席もロビーも舞台の延長としてフルに活かされ、火や水まで使われるというプルカレーテさんの演出。日本ではすべて取り入れることは難しいけれど、さて、今回どんな仕掛けになるか…。見てのお楽しみです。まあ、僕自身は疲れることは間違いないけれど(笑)、楽しい疲れ、新鮮な疲れになるだろうと思います」
11月23日公開予定のVol.3では、そんな疲れを癒す方法など、佐々木さんのオフタイムの話を中心に伺います。
■『守銭奴 ザ・マネー・クレイジー』
どケチなアルパゴン(佐々木蔵之介)は、召使をはじめ、息子と娘にまで極度の倹約を強要し、家族の我慢も限界に達している。そんなある日、アルパゴンは再婚したいと申し出る。その相手は、実の息子が恋した相手・マリアーヌだった! ケチな父親とその息子・娘、それぞれの恋人たちとの七転八倒のやりとりの最中で、思いがけない秘密が明らかになる…。
■日程:2022年11月23日(水・祝)〜12月11日(日)東京芸術劇場 プレイハウス
宮城・大阪・高知公演もあり。
■作:モリエール 翻訳:秋山伸子
演出:シルヴィウ・プルカレーテ
出演:佐々木蔵之介、加治将樹、竹内將人、大西礼芳、天野はな、茂手木桜子、菊池銀河、安東信助
長谷川朝晴、阿南健治、手塚とおる、壤 晴彦
問い合わせ先
- TEXT :
- Precious.jp編集部
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- WRITING :
- 南ゆかり