当たり前の概念を、ことごとく覆されます
――出演舞台『守銭奴 ザ・マネー・クレイジー』を演出するのは、ルーマニアの巨匠といわれるプルカレーテ氏。佐々木さんとは、2017年の舞台『リチャード3世』以来、二度目のタッグとなります。
「プルカレーテさんの演出はとにかく面白い。まず、役者だったら考える当たり前の概念を、ことごとく覆されるんです。たとえば、舞台の上で演じるものだと思い込んでいる場面も、袖から話す設定になったり、背中を向けて語るということもあり。かと思えば、急に音楽が入ってきて転換したり。稽古中に、通りがかりの男性の服を真似て取り入れたいと言い出したこともありました(笑)。まったく想像がつかないことばかり。幕が開くまで、いや開いてからも、どうなるかわかりません。いっぺんやったことでも、次の日にはガラっと変わることもあるんですから。
しかも、稽古場はフランス語と日本語、英語、ルーマニア語も入り混じった環境で、通訳を挟むのでコミュニケーションに時間もかかります。稽古中は、『この調子だと初日は間に合わないんじゃないか』と思ってたけれど…。それもプルさん(プルカレーテさんのこと)の面白いところです」
自由に、思い切り想像力を膨らませながら楽しんでください
―佐々木さんが演じるのは、一家の長であり主人公のアルパゴン。あらゆることに金を出し渋る極度の倹約家(というより、ドケチオヤジ)。過剰なまでの倹約ぶりと強欲さを喜劇として描いています。
「喜劇でありながら、最初に稽古で言われたのは『悪魔みたいに』ということ。それも、場面によって見せ方は変化していきます。持っている杖が伸縮自在だったり…。悪魔の表現方法もいろいろです(笑)。しかも彼はケチなだけでなく、あれもこれも欲しがり執着心がものすごい。その様子は、周りから見たら笑えるほどです。
けれど、ケチもそこまでいくと、どんどん孤立して自ら逃げ場を失っていく…。独裁の末の苦しみは、取りようによっては悲劇だけれど、やっぱり基本は喜劇。それも、クールな笑い、馬鹿馬鹿しい笑い、畳み掛けるようにポンポン出てくる笑いなど、実にさまざま。ぎりぎりまで攻める喜劇で、しかも毒をもったユーモアは、プルカレーテさんの演出ならではです」
―喜怒哀楽のすべてが凝縮され、そのアウトプットの⼿法も想像を超えるバリエーション。観賞する側も、それらを受け⽌める覚悟が必要そうですが…。
「内容はとても濃いけれど、基本はコメディだし、たった1⽇の中で起こった出来事です。若い男⼥からどケチジジイの主⼈公まで、登場⼈物みんながぎりぎりのところで⽣きていて、思いもよらない家族の事実が明らかになったりする。その中で泣いたり笑ったり、驚いたり、死にかけたり、喜んだり。ぜひ、⾃由に、思い切り想像⼒を膨らませながら楽しんでください。この舞台は、観る側の想像⼒が加わって完成するもの、プルさんの演出はお客さんあっての演劇だと改めて思わされました。作品は古典でも、現代にわかりやすいように細部はアップデートされています。きっと、新しい体験になると思いますよ」
フランスの劇作家、モリエールの大傑作であるこの作品。フランス文学、そして古典劇というと、観る側にするとハードルが高い気がしてしまいますが、佐々木さんいわく「ふだん演劇を見ることのない人でも、楽しめますよ」。11月22日公開予定のVol.2では、さらなる演劇の楽しみ方を中心に語ります。
■『守銭奴 ザ・マネー・クレイジー』
どケチなアルパゴン(佐々木蔵之介)は、召使をはじめ、息子と娘にまで極度の倹約を強要し、家族の我慢も限界に達している。そんなある日、アルパゴンは再婚したいと申し出る。その相手は、実の息子が恋した相手・マリアーヌだった! ケチな父親とその息子・娘、それぞれの恋人たちとの七転八倒のやりとりの最中で、思いがけない秘密が明らかになる…。
■日程:2022年11月23日(水・祝)〜12月11日(日)東京芸術劇場 プレイハウス
宮城・大阪・高知公演もあり。
■作:モリエール 翻訳:秋山伸子
演出:シルヴィウ・プルカレーテ
出演:佐々木蔵之介、加治将樹、竹内將人、大西礼芳、天野はな、茂手木桜子、菊池銀河、安東信助
長谷川朝晴、阿南健治、手塚とおる、壤 晴彦
問い合わせ先
- SANYO SHOKAI カスタマーサポート TEL:0120-340-460
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