1月の皆既月食は「スーパーブルーブラッドムーン」だと、アメリカのメディアでは喧しかった。ただ皆既月食(ブラッドムーン)であるだけでなく、ブルームーン(1暦月に2回の満月)がスーパーサイズで現れた、という偶然なわけだが、赤い月が蒼いわけはなく、気の利いたジャーナリスト達はそこにある寓意を潜ませている。つまりはこの月はとびきり「ブルーブラッド」=「高貴な血脈」の月であるということだ。

高級機械式時計のシンプルな佇まい

「パテック フィリップ」年次カレンダー『5396R』

大の月と小の月を自動判別してカレンダーを進めるため、2月末以外は日付調整の必要がない年次カレンダー。機械式時計の複雑機構は、パテック フィリップの得意分野。●自動巻き ●18Kローズゴールド ●ケース径38.5mm ●ゴールド植字インデックス ●アリゲーター革ストラップ ¥5,648,400(税込)
大の月と小の月を自動判別してカレンダーを進めるため、2月末以外は日付調整の必要がない年次カレンダー。機械式時計の複雑機構は、パテック フィリップの得意分野。●自動巻き ●18Kローズゴールド ●ケース径38.5mm ●ゴールド植字インデックス ●アリゲーター革ストラップ ¥5,648,400(税込)

 そのスーパーブラッドムーンを眺めながらパテック フィリップの年次カレンダー「5396」を思い起こした。青は貴い色であるという心証を具体化し、そこに月の形象を重ねる。ローズゴールドのケースをまとった一本は、地上に降りたスーパーブルーブラッドムーンにも値する。

 この形状の針の名「ドフィーヌ」は、じつは王太子妃の意味もある。月と曜日を抽象化することなく正しくギシェ(小窓)に掲げるのは、一流ホテルが客の呼び出しをおこなうときに、名前を掲げたプラカードを持ってページボーイにロビーを回らせる、あの慎ましさにも似ている。一年に1度しか修正の必要がないカレンダーだからといって、大声で呼ばわるような無作法はしないのだ。曜日も月も、夜中にこっそりと切り替わっていればそれでいいのである。アラビア数字をひとつとばしにするカレンダーも同様に、そっけないほど端的でシンプルに佇む。

ダイヤモンド・インデックスを施した特別な1本

バー型のアワーマーカーを約0.26カラットのダイヤモンドに置き換えた、ドレストアップな一本。●自動巻き ●18Kローズゴールド ●ケース径38.5mm ●バゲットカット・ダイヤモンド・インデックス ●アリゲーター革ストラップ ¥6,274,800(税込)
バー型のアワーマーカーを約0.26カラットのダイヤモンドに置き換えた、ドレストアップな一本。●自動巻き ●18Kローズゴールド ●ケース径38.5mm ●バゲットカット・ダイヤモンド・インデックス ●アリゲーター革ストラップ ¥6,274,800(税込)

 濃紺の衣装が男振りを引き立てることに異論はないだろう。ブルーの文字盤には、目には見えないほどの放射状の線が360度にひろがり、それが紺青に刹那のニュアンスと表情を与えながら、入射光をフレアで返す。この加工を指すソレイユとは、そのまま太陽のことだ。もっとも貴いお天道さまの名前をいただき、その光を再現する。文字盤よりさらに一段昏いブルーの夜空に浮かぶのは、ブラッドムーンの風情を見せながら、決して暗くはないローズゴールドの月。約29.5日で1サイクルを回す月相表示は、グレゴリウス暦の世界観を描く傑作であるこの年次カレンダーに、違う時間の進み方をかさねる。好みで、バー型のインデックスがダイヤモンドのバージョンも選べる。悩ましいのは、そうでないバージョンと、ノーブルさの上下がつかないことだ。

立ち姿が凛々しいスリムな自社製ムーブメント

スリムな自社製ムーブメントは、ともすればボリュームが増す年次カレンダーの機構を巧みに組み込んだ。複雑機構を持ちながらシルエットの切れ味も鋭く、横からの立ち姿が凛々しい。
スリムな自社製ムーブメントは、ともすればボリュームが増す年次カレンダーの機構を巧みに組み込んだ。複雑機構を持ちながらシルエットの切れ味も鋭く、横からの立ち姿が凛々しい。

 どこにも下卑たところのない時計は、つくることが難しい。それを成し遂げたうえで、暑苦しくも押し付けがましくもないことは稀有であろう。だからこそパテック フィリップには、その存在の役割がいつまでも終わらないのである。

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この記事の執筆者
桐蔭横浜大学教授、博士(学術)、京都造形芸術大学大学院博士課程修了。著書『腕時計一生もの』(光文社)、『腕時計のこだわり』(ソフトバンク新書)がある。早稲田大学エクステンションセンター八丁堀校・学習院さくらアカデミーでは、一般受講可能な時計の文化論講座を開講。