今回の“大人の語彙力”では、「及第点」という単語について見ていきます。上司に「このプレゼン資料なら及第点だ」と言われたら、あなたは喜びますか? 「及第点」はほめ言葉なのでしょうか? 自分が使う立場なら、どんなシーンがふさわしい? 正しく使用できるようにしっかり確認してくださいね。
【目次】
【「及第点」とは?今さら聞けない「読み方」、「意味」と「語源」
■読み方
「及第点」は「きゅうだいてん」と読みます。
■意味
「及第点」は「試験や審査などに合格するための最低限の点数」のこと。そもそも「及第」とは、試験や審査などに合格したり、一定の基準に達すること。そこに「点」がついた「及第点」は合格ラインの点数、すなわちギリギリ合格ということです。例えば、100点満点の試験で80点以上が合格だとすると、「及第点に達した」は80点か、80点よりちょっといいくらいの点数だったことを表します。余裕で合格の点数なら「及第点」とは言いません。「試験に及第した」なら出来具合いには言及していませんが、「及第点だった」という表現ならギリギリ合格だったというわけです。
■「及第点」の語源
「及第」は中国から伝わった言葉です。「及」は「及ぶ、届く」という意味、「第」は大きな屋敷を意味しますが、この場合は「家ではなく政府」を表します。昔の中国では科挙(かきょ)という試験に合格すると官僚として国家の中枢で働くことができたのですが、それは「大きな屋敷に及ぶ=高級官僚の道が開かれる」こと。それを「及第」と表すようになり、ここから試験に必要な基準を満たす点数を「及第点」と言うようになったのです。
【「合格点」と「及第点」の違い】
「合格点」も「合格できる最低点やそれ以上の点数」を示す単語ですが、「及第点」と「合格点」にはニュアンスに大きな違いがあります。ここが重要ポイントなので、しっかり覚えておきましょう。
■「及第点だね」はギリギリ合格!
前段でも説明した通り、「及第点」は「合格ではあるがギリギリ」という場合に使うワードです。ということは、決してほめ言葉ではないということ。相手を喜ばせよう、持ち上げようと「及第点ですね!」と言うのはタブーなのです。「及第点」を使った評価は、少々マイナスの意味が含まれていると捉えて正解です。自分のことを「今回は及第点だった」と評価する場合も、謙遜や自嘲の感情が含まれている表現になります。
■「合格点だね」は余裕で合格!
「合格点」は最低ライン以上、満点までを表しますが、会話などで使う場合には「余裕をもって合格」や「満点に近い合格」など、プラスの意味で使用します。このように「及第点」と「合格点」はニュアンスが違うので使い分けが必要ですが、「ギリギリ」や「余裕」ってどのくらいのことを言うのか疑問に思う人もいるでしょう。実は「プラス〇点以上なら合格点と言う」というような明確な基準はありません。大変難しい試験にギリギリの点数で合格した人に、「及第点だったんだって?」とは言わないのが大人の気遣い。素直に「合格おめでとう!」と言いたいものです。そのあたりのさじ加減が“大人の語彙力”なのです。
【ビジネスでの使い方がわかる「例文」5選】
■1:「うちの上司は厳しいから、なかなか及第点ももらえない」
■2:「及第点レベルの仕上がりでは、過当競争に勝ち抜くことはできない」
■3:「今回のプレゼンは及第点スレスレで残ったが、次回はもっと精度を上げないと勝ち残れないだろう」
■4:「5回目の挑戦で、ようやく及第点に達した」
■5:「今年の新入社員の英語力は及第点以上で頼もしい」
5の「及第点以上」はプラスのニュアンスで使っています。
【「及第点」の「言い換え」表現】
・そこそこの結果 ・まあまあの出来 ・まずまずの出来 ・悪くない
いずれも、言われる立場になってみるとあまり気持ちのいいものではありませんね。「及第点」にしても、これらの言い換え表現にしても、自分自身で謙遜するとか、自嘲気味に話すとかといった際に使用するのがよさそうです。
【「及第点」の使用上の「注意点」】
■ネガティブなニュアンスを含んでいるので、気軽に使わない
■上司など目上の人には使わない
■やる気をそがないよう、今後への期待感なども添えて使う
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上司の「今回は及第点をあげよう」のフレーズには「満足な出来ではないが…」というネガティブなニュアンスだけでなく、「キミならもっとできるはず」という期待感が含まれているかもしれません。そう言われたら、「次回はもっと頑張ります!」などの返答で、さらなるやる気を示すとよいでしょう。
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- Precious.jp編集部
- 参考資料:『デジタル大辞泉』(小学館)/『日本国語大辞典』(小学館)/『今日から役に立つ! 使える「語彙力」2726』(西東社)/『心理学的に正しい! 人に必ず好かれる言葉づかいの図鑑』(宝島社) :