涙腺崩壊―私の「ツボ」を熱血プレゼン!―
雑誌『Precious』5月号では【涙腺崩壊―私の「ツボ」を熱血プレゼン!―】と題し、ドラマと映画をこよなく愛する賢人たちが号泣した作品をご紹介しています。
今回はそのなかから、テレビ評論家・吉田 潮さんに【号泣ドラマを4つのキーワードで考えた! 大人がハマる「涙のスイッチ」を分析】について、お話をうかがいました。
テレビ評論家・吉田 潮さんが大人がハマる「涙のスイッチ」を分析
今まで自分が観てきたドラマ視聴履歴を遡ること十数年。『家政婦のミタ』(’11年)ではずっと無表情だった家政婦の三田 灯(松島菜々子)が泣きながら身の上を語るシーンで嗚咽し、『それでも、生きてゆく』(’11年)では子供を殺された母親の重く長い苦悩に大泣き。最近だと『silent』(’22年)で、奈々(夏帆)の失恋に泣けた。ふられても自分の足で立ち上がって前に進むことのできる女性だったので、なおのこと実らぬ恋がせつなくて…。
こうして振り返ると、けっこう泣いているな、私。年齢を重ねると、単純な感情の構図では号泣できないもの。自分の泣きスイッチは、自分の経験に近いもの、長い年月をかけ蓄積された怒りや苦悩などが当てはまり、ほろりときたり、じんわり泣けてきたりするものも含む。そことは別に、私の涙腺を崩壊させるキーワードは “女たちの悔しさ”、“父親との関係”、“叶わぬ恋”、“坂元裕二” の4つ。
40代後半からは “女たちの悔しさ” で泣くことが増えて、最近だと『First Love 初恋』(’22年)での也英(満島ひかり)の人生に「もっと幸せになれたはずなのに…」と悔し泣き。同様に、NHKの連続テレビ小説にも女たちの悔しさを描いた作品は多くて、『カーネーション』(’11年)、『スカーレット』(’19年)、『カムカムエヴリバディ』(’21年)もそう。3作品とも、女が細腕ひとつで商売することが難しかった時代を描いていて、社会に対する女性の覚悟や決意、心意気にグッときた。
『カーネーション』では、糸子(尾野真千子)と周防(綾野 剛)の “叶わぬ恋” にも大号泣している。そして、母親とはまた違う “父親との関係” というのも、それぞれの関係性のなかで思うところがある人も多いのでは。また、“坂元裕二”という脚本家も私的なツボ。彼の作品には「やるせない」「しんどい」「罪悪感」といった、ハイブリッドな感情を観る者に抱かせるものがある。独特の言葉の応酬に共感しながらも、ふと泣けたりして。ちょぴっと後ろめたい過去を生きてきた私なんかは、どうしても反応してしまう。
涙の理由は年齢や環境によっても変わってくるもの。この先、新たな泣きのツボは開花するのだろうか。みなさんには、どんな「涙のスイッチ」がありますか?
【Yoshida's 涙のスイッチ】叶わぬ恋|連続テレビ小説『カーネーション』
不倫は不倫…だけどヒロインの糸子には幸せになってほしかった!
「コシノ三姉妹の母親をモデルにした2011年の朝ドラ。父親から仕事を反対されても道を切り開き、結婚して幸せなのも束の間…夫が戦死、ここまでのヒロインの苦労だけでもすでに大泣き。が、妻子ある紳士服職人との不倫はせつなかった。どうこうなろうというわけではないし、お互い思慕の情で結ばれている印象だったのに、不倫というだけで周囲に猛反対されてしまう。別れを決めた朝、ふたりはぎゅっと抱きしめ合う…。朝ドラ史上、最も泣いたかもしれない」
【Yoshida's 涙のスイッチ】父親との関係|『俺の家の話』
寿一が介護に奮闘する姿にかつての自分と重なり泣けてきた…
「能楽の人間国宝でもある父・寿三郎(西田敏行)の介護のため、現役を引退したプロレスラーの寿一(長瀬智也)が、完全に自分と重なりました。クドカン(宮藤官九郎)節が光る寿三郎のおとぼけには笑えますが、私も父を介護したことがあり寿三郎を観て、ホント泣けてきちゃって。今から移動というときに限ってトイレと言いだし、粗相するとか。父の介護と向き合ったことで、実はどこかで父に認められたかったんだよなとも思い至ったりして」
【Yoshida's 涙のスイッチ】女たちの悔しさ|『First Love 初恋』
こんな不憫なことってあるのか!也英の人生に悔しさがこみ上げた
「どうせ運命の恋の話でしょ、と軽い気持ちで観始めたら、うっかり也英(満島ひかり)の人生に感情移入。才能も美貌も兼ね備え、キラキラ輝く10代の也英(八木莉可子)は、あることをきっかけに不憫な人生を送ることに。嫁いだ家で夫や姑に蔑まれる也英、シングルマザーになるも才能を生かせずに工場で必死に働くしかない也英、最愛の子供を奪われる也英…。宇多田ヒカルの楽曲にあおられた感もあるが、諦めるしかなかった彼女の人生に悔しさがこみ上げ、号泣」
【Yoshida's 涙のスイッチ】坂元裕二|『カルテット』
ちょっと後ろめたい過去がある大人ならきっと涙のスイッチを刺激されまくり
「坂元裕二作品は人間の情けない部分をきちんと描くから信頼できるし、そこに激しく同意できます。『カルテット』では真紀(松 たか子)、すずめ(満島ひかり)、家森(高橋一生)、別府(松田龍平)という、後ろめたい過去をもつ4人が世間の目(=世間体)にボッコボコにされるけど、自分なりに過去を消化していく過程に泣ける。それは悪といえるのか…、いや必ずしも悪とはいいきれないんじゃないか。自分の後ろめたい過去と共鳴しているんでしょうね…」
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- ILLUSTRATION :
- 北住ユキ
- EDIT&WRITING :
- 正木 爽・宮田典子・剣持亜弥(HATSU)、喜多容子(Precious)