「日和る」は「日和(ひより)」から派生した言葉で、「傍観する」あるいは「有利な側に付こうとして形勢を窺う」といった意味をもった言葉です。とはいえ、時代の変遷とともに、本来の意味とは異なる使われ方をされるようになった言葉は少なくありません。「日和る」もそのひとつで、大流行した「日和ってる奴いる?」のニュアンスは、本来の使い方とは少々違います。今回は「日和る」について、由来や使い方に加え類義語まで、詳しく解説します。

「【目次】

時代の変遷と共に、違う意味で使われる言葉は少なくありません。
時代の変遷と共に、違う意味で使われる言葉は少なくありません。

【「日和る」を正しく理解するための「基礎知識」】

■読み方

「日和る」は「ひよる」と読みます。

■意味

『デジタル大辞泉』によれば、「日和る」は、「日和見的な態度を取る」ことと記載されています。そして「日和見」は、「有利なほうに付こうと、形勢を窺うこと。空模様を見ること。また、その役の人」。つまり、「日和る」は、「物事に積極的に関わろうとしないで傍観する有利な側に付くために形勢を窺う」ことを指します。「状況をよく観察する」というニュアンスを含んだ言葉ですね。

■語源

「日和る」は名詞「日和(ひより)」が動詞化したものです。

「日和」には「空模様。天気」のほか、「小春日和」や「行楽日和」と使われるように「何かをするのに、ちょうどよい天気」という意味があります。また「物事の成り行き。雲行き。形勢」も表し、これが今回のテーマである「日和る」に変化していきました。

また、マルクス主義的な政治運動や労働運動では「日和見主義」という言葉が「御都合主義」あるいは「便宜主義」と同じような意味で使われ、日本でも1960年から70年代ごろにさかんに行われた学生運動の際、「日和見」という言葉が頻繁に使用されていたそうです。当時は独自の主義主張をもたず、傍観者的な立場を保ったり、体制におもねる姿勢に対し、さげすみの気持ちを込めて「日和る」と表現していました。どうでしょう、「あれ? 私が知ってる『日和る』と意味が違う…!」と思った人、いませんか?


【「日和ってる奴(やつ)いる?」は「いつ」「なぜ」流行った?】

「日和ってる奴いる?」というセリフは、『週刊少年マガジン』に201713号から2022年51号まで連載された漫画『東京卍リベンジャーズ』(和久井健 著)で描かれたワンシーンが由来です。ヤンキーの総長であるマイキーこと佐野万次郎が、仲間がやられた仕返しのため、敵対勢力である愛美愛主(メビウス)に乗り込む直前の集会で放った台詞が「“愛美愛主”に日和ってる奴いる? いねえよなぁ!?」でした。このシーンでは「日和る」という言葉は「ビビる」「震え上がる」「怖(お)じ気づく」といった意味で使われており、現在ではネットや日常の会話でも、「日和る」はおおむねこのような使い方をされることが多いようです。もともと「傍観する、有利なほうにつこうと形勢を窺う」という意味だった「日和る」が、「ビビってる」というニュアンスに拡大解釈されるようになったのかもしれませんね。


【「使い方」がわかる「例文」5選】

「傍観する、形勢を窺う」という本来の意味での「日和る」はどう使われるのか、例文でチェックしましょう。

■1:「部長に意義を唱えていたA課長も、日和った挙げ句に体制側に付くことにしたようだ」

■2:「みんな忙しくしてるのだから、日和ってないで少しは手伝ってよ」

■3:「日和ってばかりいる人のことを風見鶏という」

次に「ビビる」「怖じ気づく」という意味で「日和る」を使ってみましょう。

■4:「部下の前では大口を叩くA課長だが、部長の前では日和って何も言えないことが多い」

■5:「試合で日和って負けているうちは、本当に強いアスリートとは言えない」


【「日和」がセットで使われる言葉】

■春日和

暖かく穏やかな、春の良い天気のこと。

■小春日和 

初冬の、春のようにぽかぽかと暖かい日和(天気)のこと。

■秋日和

秋の、よく晴れて爽やかな天気のこと。

■冬日和

穏やかに晴れた冬の日。冬晴れ。もしくは、いかにも冬らしい空模様。

「春」「秋」「冬」、それぞれ日和とセットになった言葉はありますが、「夏日和」とは言いません。

■行楽日和

「日和」には「晴天」や「何かをするのに、ちょうどよい天気」という意味があります。「行楽」とは「山野などに出て遊び楽しむこと」という意味の言葉ですが、現在では広く屋外レジャーの意味で使われています。「行楽日和」はハイキングや観光、趣味など、どこかに出かけるにはちょうどよい天気という意味になります。

■待てば海路の日和あり

「待っていれば、海の静かないい日和がやってくる」という意味のことわざで、「待てば甘露(かんろ)の日和あり」を変えて言ったもの。意味は同じです。甘露とは「天から与えられる不老不死の薬」を意味し、中国古来の伝説では、「おめでたいことが起こる前兆」として天から降るとされています。

■日和下駄

歯が低い下駄のこと。主に晴天の日に履くための下駄です。

■日和見感染

通常の健康な人には無害な菌、あるいは弱毒菌が、感染に対する宿主の抵抗力が弱まった際に起こす感染症を指します。


【「類語」「言い換え」表現】

■長いものには巻かれよ

■勝ち馬に乗る

どちらも「有利なほう」「強いほう」「体制側」「権力のある側」につくことを示した言葉です。

■様子見

■傍観する

■静観する

「様子見」とは「ことの成り行きを見守ること」。第三者的な立場で自ら行動を起こさないところが「日和る」との共通点です。

■臆病風に吹かれる

現在、広い世代で使われている「ビビる」という意味での「日和る」の言い換え表現です。

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「日和る」は世代により違った使われ方をしている言葉のひとつです。目上の方と接する機会が多いビジネスシーンでは、正しい文脈で使えるように、本来の意味を頭に入れておきたいものです。

この記事の執筆者
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参考資料:『日本国語大辞典』(小学館) /『デジタル大辞泉』(小学館) /『日本大百科全書 ニッポニカ』(小学館) :