カオスな「お騒がせセレブライフ」クイーン、あなたはいったい何者なの?

ラッパーのカニエ・ウエスト(現Ye)の元妻としても知られるキム・カーダシアン。リアリティ番組からMETガラ、キラキラ盛り盛りのSNS、バースデーパーティや結婚式など至るところで、これ見よがしのゴージャスライフを見せつけ、その結果パリコレクション中に滞在先のホテルで、強盗に侵入され10億円相当のジュエリーを奪われたとか…。果たしてこの事件は フェイクなのか、真実なのか?

セレブ_1,アメリカ_1
2023年5月1日にニューヨークのメトロポリタン美術館で開催された「METガラ2023」に出席したキム。
セレブ_2,パリ_1
2016年10月の強盗事件が起こる直前、バルマンのアフターショーパーティに出席したキム(中央)とカニエ・ウエスト(左)、姉のクロエ・カーダシアン(右)。

露出度の高い服を着て、アンドロイドのような美貌。「セックステープの流出」やヌードなど下世話なスキャンダルを撒き散らすゴシップクイーンとして認知され、銀幕の「スター」でも音楽界の「アイドル」でも、ましてやミシェル・オバマのような「尊敬する女性」でもない。 だが知名度は抜群。プロデュースする商品は爆売れ、熱狂するファンは世界中にいる。

セレブ_3,アメリカ_2
2014年10月にラスベガスのナイトクラブ「TAO」で行われたキムのバースデーパーティでは、会場付近にファンが殺到。

太陽でもなく、炎でもないが、人工的なフラッシュのように強い輝きを放って人々を惹きつけるキム・カーダシアンという存在。いったい彼女は何者なのかを今回は紐解いていこう。

大所帯ファミリーはクセ強キャラ&“やり手”なビジネスセンスの持ち主!

どこから語り出したらいいのかわからないキムのプロフィールの複雑さ、混迷ぶりは、まず生い立ちから始まっているのかもしれない。

1980年に誕生し、現在42歳。父親はアルメニア系米国人ロバート・カーダシアン(O・J・シンプソン事件の弁護士として有名。ちなみにO・Jはキムの名付け親でもある)、母親はクリス・ジェンナー。富裕な家庭で育った、お嬢様とも言える。

1989年に離婚した母親は、元オリンピック選手のブルース・ジェンナーと再婚。キムの義父となったブルースは、十種競技の元世界記録保持者でモントリオール五輪の金メダリスト。輝かしい記録を打ち立てたのち、俳優に転向し、カリフォルニア州知事にも立候補している。

セレブ_4,アメリカ_3
2008年にハリウッドで行われた『カーダシアン家のお騒がせセレブライフ』シーズン2の発表会にて。左から/妹のクロエ、姉のコートニー、キム、母のクリス、父のブルース。

しかし、2人いる前妻の子も入れると10人の子供をもつブルースは、2015年にクリスと離婚すると突然トランスジェンダーであることを告白。「ケイトリン・ジェンナー」と女性名に変え、ロングの巻き髪、コルセット姿で米『ヴァニティフェア』誌の表紙を飾って世間を仰天させた。改名後に新設したツイッターアカウントは、4時間でフォロワー100万人を突破し、バラク・オバマの記録を1時間早く塗り替えたという。

セレブ_5,アメリカ_4
2015年ヴィクトリアズ・シークレットのファッションショーにて、ケイトリンに改名したブルース(左)とクリス。

もうこのあたりから、キム抜きでも、立派な「お騒がせセレブライフ」の香りが濃厚に漂ってくる。

カーダシアン姓の子供たちは、一男三女。そしてジェンナー姓の子供は2人姉妹。 この家族が繰り広げるリアリティTV番組『カーダシアン家のお騒がせセレブライフ』は、ママジャー(と呼ばれているやり手の母親マネージャー)のクリス・ジェンナーが企画し大ヒット。スピンオフ編も多数制作され、派手な交友関係も注目の的だ。前述の強盗事件の後に一旦中断し、2021年にシーズン20で一旦幕を下ろしたが、2022年に家族それぞれに密着した『カーダシアン家のセレブな日常』となって復活し、再び人気を呼んでいる。

セレブ_6,アメリカ_5
キムの家族たち。左から/長男のロブ・カーダシアン、三女クロエの夫(2016年に離婚)で元プロバスケット選手のラマー・オドム、母のクリス・ジェンナー、三女のクロエ・カーダシアン、五女のカイリー・ジェンナー、四女のケンダル・ジェンナー、次女のキム・カーダシアン、父のブルース、長女のコートニー・カーダシアン。
セレブ_7,アメリカ_6
「2018 MTV Movie & TV Awards」で最優秀リアリティ・シリーズ賞を受賞し、ステージに上がるキムとクリス。

番組に出演する5人の姉妹は、これまた全員が恐ろしくキャラクターが立ち、社会的にも経済的にも成功を収めている。全員に共通するのが、奔放な恋愛模様もあるが、誰に頼るでもなく自力でビジネスパーソンとして地位を掴んでいることだ。単なる、リアリティ番組の有名人やTVタレントで終わらないのは、両親のビジネスマインドのDNAをしっかり受け継いでいるのだろう。

例えば、化粧品ビジネスを手がける末妹カイリー・ジェンナーは、パンデミック前の2019年に21歳にして「史上最年少の自営業億万長者」として雑誌『フォーブス』の表紙を飾った(※)。その上の妹は、2018年に2年連続で「世界で最も稼いだモデル」として同じく『フォーブス』で報じられているモデルのケンダル・ジェンナー。カーダシアン姓の長女クロエ、妹のコートニーはドラマの制作やライフスタイルブランド、Eコマースの立ち上げなどで巨万の資産を築いている。

※編集部注:2020年に『フォーブス』はこの称号を取り消している。

徹底的かつパワフルな「セルフプロデュース」はもはやお家芸⁉

そして、番組では仕切り役になっている次女のキムは、高校の頃からやり手の父ロバートの会社で働き、ビジネスのノウハウを学んだ。起業に興味があった彼女は有名人の衣装の買い付けを手掛け、1990年代のゴシップクイーンであったパリス・ヒルトンのパーソナルスタイリストに抜擢される。スタイリスト兼親友として、パリスのリアリティ番組『シンプルライフ』に頻繁に登場したのが有名になるきっかけであった。

セレブ_8,アメリカ_7
ラグジュアリーブランドのイベントや、ショッピング中の姿が頻繁に見かけられたパリスとキム。

ハリウッドとの人脈も着々と築き、キムはすかさず、カーダシアン美人姉妹のセレクトショップ「DASH」をオープン。キムの知名度が上がるにつれ、パリスと絶縁、また仲直りというお家芸ともいえる“こじれ人脈”もここからスタートする。

セレブ_9,アメリカ_8
2009年、「DASH マイアミ・ビーチ」のグランドオープンにて。左から/キム、クロエ、コートニー。

そしてリアリティ番組の爆発的なヒットで、この種の番組では、ダントツの1位のギャラに躍り出た。以来、知名度とエキゾチックな美貌を生かして、キムのビジネスへの進出は熱を帯びる。見事な曲線美を作るエクササイズメソッドのDVDは大ヒットしてシリーズ化。雑誌『プレイボーイ』の表紙を飾り、香水やコスメにも参入し、セクシーなイメージを煽って軒並み大ヒット。波に乗って、カーダシアン家の自伝『Kardashian Konfidential』 を姉妹共著で出版もしている。

あの「マダム・タッソー」の蝋人形舘にも、キムの人形が登場するというセレブリティ街道をまっしぐらに爆進だ。ただひとつの失敗は、31歳のときに出したミュージックビデオが全く売れなかったこと。これ1曲で音楽関連からは完全撤退した。

セレブ_10,アメリカ_9
「マダム・タッソー・ハリウッド」に並ぶキムの蝋人形。

キム流のビジネスとは、商機があると見れば、自分を徹底的に究極のセレブリティとしてブランディングし、曖昧なホログラムのように作りだしているところにポイントがある。ミステリアス(言葉を変えれば得体の知れない)なセレブリティには「虚」と「実」を探し求めるファンが殺到するはずという読み。「負け」は速攻で削除するという決断力。時代の流れにも敏感だ。

ちなみにキムが2019年にローンチした「SKIMS」という補正下着ブランドでは、体が不自由な人でも着脱しやすいラインも発表しており、多様性への配慮と総合的な美しさという点が高い評価を得て時流に乗っている。

セレブ_11,アメリカ_10,ランジェリー_1
2020年2月にニューヨークの高級百貨店「ノードストローム」で行われた「SKIMS」のローンチイベント。中央に立つのがキム。
セレブ_12,アメリカ_11,パリ_2
2021年10月、パリの老舗百貨店「ギャラリー・ラファイエット」に展示された「SKIMS」の巨大ポスター。モデルを務めているのはキム本人。

結婚式でさえ、番組化してマネタイズ。その挙式後わずか72日で離婚して金目当てと非難されたNBA選手との離婚の後、カニエ・ウエストとはフィレンツェにてジバンシィのドレスでロマンティックな挙式を行い、ファンを唸らせた。

姉妹や母親たちも負けてはいない。ファッション界との絆も強く、妹コートニーはドルチェ&ガッバーナの別荘で結婚式を挙げている。ちなみにキムがドルチェ&ガッバーナの2023年春夏コレクションで、ブランドのミューズとして長年にわたり愛用してきた彼らのアーカイブをキュレーションしたことも記憶に新しい。

セレブ_13,アメリカ_12,ミラノ_1
ドルチェ&ガッバーナ2023年春夏コレクションにて、デザイナーのステファノ・ガッバーナ(左)、ドメニコ・ドルチェ(右)と共にショーの最後に登場したキム。
セレブ_14,アメリカ_13,ミラノ_2
左/ドルチェ&ガッバーナ2023年春夏コレクションは、キムがパスタを食べて唇を拭うエロティックな仕草をするムービーが流れるなかでモデルがランウェイを歩くという趣向。右/会場外には雨にもかかわらず大勢のファンが押しかけていた。(共にPhoto by Atsuko Fujioka)

それぞれがブランドをもち、自らが広告塔として愛用。恋人や結婚も「訳あり」や「破局」が目白押しだが、少なくとも男性を「富」や「クラス」へ上昇するための引き金として見ていないところが、潔いというか、そこですら上から目線であるところが、ジェンダーイクオリティが叫ばれるなか、まだまだ弱者である多くの女性たちが憧れる「強さ」を感じさせるのではないだろうか。

多様なアメリカを象徴するポップアイコンとして、もう認めざるを得ない地位を築き上げたカーダシアン一家。意外にもビジネスセンスとセルフプロデュースに長けた、名実ともに21世紀の新たな「パワーパーソン」ではないだろうか? キムをはじめ、彼らが 一体これから何をやってくれるのか…、さらなる“お騒がせ”に好奇心は募るばかりだ。

この記事の執筆者
1987年、ザ・ウールマーク・カンパニー婦人服ディレクターとしてジャパンウールコレクションをプロデュース。退任後パリ、ミラノ、ロンドン、マドリードなど世界のコレクションを取材開始。朝日、毎日、日経など新聞でコレクション情報を掲載。女性誌にもソーシャライツやブランドストーリーなどを連載。毎シーズン2回開催するコレクショントレンドセミナーは、日本最大の来場者数を誇る。好きなもの:ワンピースドレス、タイトスカート、映画『男と女』のアナーク・エーメ、映画『ワイルドバンチ』のウォーレン・オーツ、村上春樹、須賀敦子、山田詠美、トム・フォード、沢木耕太郎の映画評論、アーネスト・ヘミングウエイの『エデンの園』、フランソワーズ ・サガン、キース・リチャーズ、ミウッチャ・プラダ、シャンパン、ワインは“ジンファンデル”、福島屋、自転車、海沿いの家、犬、パリ、ロンドンのウェイトローズ(スーパー)
PHOTO :
Getty Images
EDIT :
谷 花生