現在、最も先進的な技術と装備を持っているラグジュアリーセダンの一台であるメルセデス・ベンツ S450が、さらに進化した。

 進化はエンジンに関する改変によってもたらされた。具体的には、「V型から直列配置に戻された新型6気筒エンジン」、「48V(ボルト)まで高められた電気システム」、「ISG(Integrated Starter Generator)の搭載」「電動スーパーチャージャーの搭載」などである。モータリングライターの金子浩久氏が、パワーユニットの最新事情をリポートする。

マイルドハイブリッド化で加速がさらに滑らかに!

S450は標準モデルの「S450」と充実装備の「S450エクスクルーシブ」、そして全長を13㎝伸ばして後席の空間を広げた「S450ロング」(写真)が選べる。
S450は標準モデルの「S450」と充実装備の「S450エクスクルーシブ」、そして全長を13㎝伸ばして後席の空間を広げた「S450ロング」(写真)が選べる。
こちらが新たに導入された直列6気筒エンジン「M256」。左右で3気筒ずつのV型よりも全長が長くなるところを、ベルトレスその他の革新的技術を用いることで、コンパクトに収めた。
こちらが新たに導入された直列6気筒エンジン「M256」。左右で3気筒ずつのV型よりも全長が長くなるところを、ベルトレスその他の革新的技術を用いることで、コンパクトに収めた。
量産高級車の最高峰に君臨するSクラスは、2013年に現行型へモデルチェンジ。昨年、安全・快適性を高め、車内のデジタル化も推し進めた改良が施された。
量産高級車の最高峰に君臨するSクラスは、2013年に現行型へモデルチェンジ。昨年、安全・快適性を高め、車内のデジタル化も推し進めた改良が施された。

 以前のS450も最上級の洗練された高性能を持っていたから、改変による進化具合を体感できるのはごくわずかだ。劇的に変わったわけではないが、加速の滑らかさが違っていた。特に、高速道路の上り勾配を走り続け、自分の前のスペースが空いた時に加速を付け加えるような時などに本領を発揮する。

 加えて、アイドリングストップ時のエンジン再始動の静けさと振動の少なさは特筆モノだった。もちろん、燃費も向上している。装備も至れり尽くせりで、足りないものなどなにもない。

 メルセデス・ベンツ・ジャパンの担当者は、今回行われた改変は「すべてガソリンエンジンのさらなる効率化のため」と言っていた。

「パワートレインの電動化」は現代のクルマに課せられた大きな課題だが、100パーセント電気で走るEV(電気自動車)や電気の司る領域の広いストロングハイブリッドカーへすぐにでも移行することだけが電動化のメリットを享受する方法ではない。

 このS450のように、パワートレインの電動化はガソリンエンジンに電気が働く役割を少しずつ増やしていくことで進んでいくのだろう。このS450も「マイルドハイブリッドカー」と呼ぶことができるからだ。

 ちょっと前まで、一方にガソリンあるいはディーゼルの純然たる内燃機関があり、もう一方に純然たるEVあるいはストロングハイブリッドカーなどが存在しているという構図だった。

 そこから、双方が歩み寄るように開発が行われ、ふたつが融合し始めた例のひとつがこのS450であり、「内燃機関のさらなる進化」の姿なのだろう。

 S450に施された今回の改変はそれぞれ多岐に渡りながらも、最終的には電動化を軸とした優れたパワートレインの構築に寄与していた。

 すべてを正確に理解することが困難なほどそのシステム体系は複雑だが、仮にユーザーとなったとしても一切その必要がないくらいS450に見事に溶け込んでいた。

 よくある「クルマの動力源にふさわしいのは電気なのか? それとも内燃エンジンなのか?」という単純な二元論を嘲笑うかのように周到に開発され、高い完成度を持っている。今後のパワートレイン開発の動向を明確に指し示すものとしてとても印象的だった。

 高価なクルマだけれども、運転支援デバイスやコネクティビティなどにおいても最先端レベルの装備がなされており、その価値は十分にある。

〈メルセデス・ベンツ S450(標準モデル)〉
全長×全幅×全高:5,125×1,899×1,493㎜
車両重量:1,970〜2,050kg
排気量:2,999cc
エンジン:直列6気筒DOHCターボ
最高出力:367PS/5,500〜6,100rpm
最大トルク:500Nm/1,600〜4,000rpm
駆動方式:2WD
トランスミッション:9AT
価格:1,147万円(税込み)
■問い合わせ先
メルセデスコール
TEL:0120-190-610 
https://www.mercedes-benz.co.jp/

この記事の執筆者
1961年東京生まれ。新車の試乗のみならず、一台のクルマに乗り続けることで得られる心の豊かさ、旅を共にすることの素晴らしさを情感溢れる文章で伝える。ファッションへの造詣も深い。主な著書に「ユーラシア横断1万5000km 練馬ナンバーで目指した西の果て」、「10年10万kmストーリー」などがある。