ジョン・ガリアーノの栄光と転落…。彼の人間性に鋭く踏み込んだドキュメンタリー

2011年、ヘイトクライムにより自身の華麗なるキャリアをすべて捨てることとなった、世界的ファッションデザイナーのジョン・ガリアーノ。クリエイティビティを仕事にした者の極限の世界を鮮やかに描きながら、燃え尽きた原因に迫るべくガリアーノの人間性にも鋭く斬り込んだ衝撃作について、映画ライターの坂口さゆりさんにご案内いただきました。

Navigator:坂口さゆりさん
映画ライター
生命保険会社のOLを経て、映画ライターに。『Precious』ほか『朝日新聞』『週刊誌AERA』などでも執筆中。映画をはじめ、芸能関係の人物インタビューを中心に手掛ける。著書に『バラバの妻として』(NHK出版)ほかがある。

今月のオススメ『ジョン・ガリアーノ 世界一愚かな天才デザイナー』

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名門ファッションメゾンのデザイナーとして、キャリア絶頂期にあったジョン・ガリアーノの逮捕は衝撃だった。あれから13年。当時について、自ら「すべてを話す」と語ったのが本作だ。人生を破滅させた暴言の背景には、いったい何があったのか―。観る者が知りたいその1点のために、カメラは貴重なアーカイブ映像をはじめ、精神科医や業界関係者、事件の当事者たちのコメントを交えながら、人間ガリアーノを丁寧に掘り起こしていく。

正直に言えば、本作を見るまで彼のデビュー前のことをほとんど知らなかった。ファッション好きは、スペイン人のおしゃれな母親の影響だったこと、姉のプロムのドレスをつくるほど少年期から才能の片鱗を見せていたこと。ファッションの名門セントラル・セント・マーチンズに入学するや才能を開花させていったことも。卒業後は順風満帆なデザイナー人生が待っていたのかと思えばそれも違った。アバンギャルドなファッションは評価されながらも「売れない服」として認知され、不遇の時代が続いた。金策に追われながらも自身を信じ続けた彼は、やがてトップメゾンのデザイナーを歴任し、時代を切り開いていく。

時代の寵児となった彼が、必死にもがき続ける姿は痛々しい。だが、差別発言は問題外だ。被害者は今も彼を許していないし、私自身、反省するガリアーノの言葉を聞いてもモヤモヤが残る。それでも本作が心をとらえて離さないのは、天才でも闇に堕ちてしまう「人間」の複雑さが伝わってくるからだろう。(ライター・坂口さゆり)

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(C)2023 KGB Films JG Ltd

Information『ジョン・ガリアーノ 世界一愚かな天才デザイナー』

一般市民に差別的暴言を吐き、有罪となったジョン・ガリアーノ。これによりトップデザイナーとしてのキャリアを喪失。その後、’14年にメゾン・マルタン・マルジェラのクリエイティブ・ディレクターに復帰した彼が、事件から13年経った今すべてを語りだす。9月20日より新宿ピカデリーほか、全国にて公開。

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EDIT :
宮田 典子(Precious)