魚たちが軽やかに舞う神秘の水中世界を表現
日の光に煌めく波を「ヴィトレイユ ミステリーセット」で表現したクリップ(ブローチ)。それは、表からも裏からも土台の見えない高難度のミステリーセットで、透明度の高い宝石に用いられる。
ブルーとバイオレットのグラデーションで描かれた海を、ダイヤモンドの輝きをまとった魚たちが舞うように泳ぐ。その美しい情景は、まさに夢のよう。
不朽の冒険小説『宝島』が新作ハイジュエリーコレクションの着想源に!
インスピレーション源となった名作小説『宝島』の魅力とは?
世界中の人々に愛され、読み継がれる不朽の海洋冒険小説『宝島』。それは、1881年から2年にわたりイギリスの児童向けの雑誌『ヤング・フォークス』に連載され、'83年に単行本として出版されました。著者であるスコットランド生まれの小説家ロバート・ルイス・スティーヴンソンは、この作品が初の成功作となり、世界に広くその名を知られるようになります。
スティーヴンソンは、この作品を義理の息子のために描いた宝の地図に基づいて執筆。1日に1章ずつ書いては家族に読み聞かせました。そのときの子供の反応を見た彼は、早い時期から作品の成功を確信していたといいます。
『宝島』は世界中で翻訳本が出版され、1930年代から4回も映像化されてきました。なぜ、こんなにも長きにわたり、人々の心をとらえることができたのでしょう。
その理由は、「宝探し」というたったひとつの目的を中心に展開されるわかりやすいストーリーと、子供にも理解できる単純な文体、そして魅力的な登場人物にあるといわれています。また、やがて英雄となる少年が悪に勝利して帰還する物語は、国や時代を超えて人々に愛される永遠不滅のストーリーにほかなりません。南洋諸島というエキゾチックな物語の舞台も、想像力をかき立てる一助となっています。
“ヴァン クリーフ&アーペル”がハイジュエリーで紡ぐ物語
パリの名門ハイジュエリーメゾン“ヴァン クリーフ&アーペル”は、そんな冒険小説の金字塔『宝島』にインスピレーションを得た新作ハイジュエリーコレクションを発表しました。
本コレクションのためにメゾンは独自の解釈を加えた物語を創作。『ヴァン クリーフ&アーペルが語る〈宝島〉』と題した壮大なコレクションは、そのオリジナルストーリーに基づいて全3章で構成されています。1章は大海原への船出、2章は海と南洋諸島の自然に捧げられたオマージュ、そして3章はついにクライマックスとなる宝探しへ。
コレクションの作品の題材に選ばれたのは、小説『宝島』に登場する帆船や島、宝の地図、ユニークな海賊たちなど。虹色の貝殻や海中で遊ぶ魚、南洋の花々も意匠化され、コレクションに豊かな彩を添えています。
誰もがかつてときめいた冒険の物語が、ハイジュエリーによって綴られる前代未聞のコレクション。それは、初めて物語を手にしたときの感動と歓びを呼び覚ましてくれることでしょう。
“Yes, sir; Skeleton Island they calls it.”
「はい、船長。その島は骸骨島と呼ばれています」
──ロバート・ルイス・スティーヴンソン作『宝島』より
全3章の物語を伝える情景が変化するクリップ
全3章からなる物語を付け替え可能な3種(帆船、太陽、宝箱)のモチーフで表現した、遊び心溢れるクリップ。ヤシの葉を彩るのは、エメラルドのトラディショナル ミステリーセット。彫金を施した木の幹、ゴールドビーズが形づくる島、ダイヤモンドで描く波…。想像の世界がサヴォアフェールによって心ときめくジュエリーに!
“Bravo!The ship’s company complete!”
「ブラボー!これで乗組員が揃ったぞ!」
“We sail tomorrow!”
「明日、出航だ!」
──ロバート・ルイス・スティーヴンソン作『宝島』より
風をはらんで大海原を進む帆船にオマージュを捧げて
小説『宝島』に登場する帆船「ヒスパニオラ号」にオマージュを捧げた、躍動感に満ちたデザイン。風をはらんでふくらむ船の帆は、縦と横のラインの相互作用によって強調され、サイズを変化させたダイヤモンドをセットすることで立体的かつダイナミックな印象に。幅広の板を組み合わせる当時の木造帆船の構造までもが、精緻なエングレービングの技巧で再現されている。
“But one man of her crew alive, What put to sea with seventy-five.”
「船出をしたのは75人、生き残ったのはただひとり」
──ロバート・ルイス・スティーヴンソン作『宝島』より
海賊の個性を際立たせる遊び心と精巧な技術
物語の人気キャラクターのひとり、海賊ロング・ジョン・シルヴァーを彷彿させるクリップ。ドラマティックなポーズもさることながら、衣服の素材感、羽飾りの軽やかさまでもが、実にリアルに表現されている。その細部にわたる完成度の高さは、精密なグリーンワックス彫刻によるもの。ゴールドには彫金と鏡面仕上げが施されて、豊かな表情に。
Tall tree, Spy-glass shoulder,
bearing a point to the N. of N.N.E.Skeleton Island E.S.E.and by E. Ten feet.
望遠鏡山の肩に高い木、
北北東より1度北の方角
骸骨島を東南東微東10フィート
──ロバート・ルイス・スティーヴンソン作『宝島』より
創造力をかき立てる宝の隠し場所を印した地図
タッセル付きの紐で括(くく)られた宝の地図。小説のなかでは、封に収められているが、本コレクションでは誰もが子供時代に想像した地図を“ヴァン クリーフ&アーペル”が再現。架空の地図の内側には、エングレービングによってトルマリン岬、パール諸島、サファイア島などの機知に富んだ地名が刻まれている。そのなかで1石輝くルビーの位置が財宝の隠し場所。
右/モダンな花々に彩られた絢爛たるインドの宝物
『ヴァン クリーフ&アーペルが語る〈宝島〉』における最初の宝は、無色透明の「タイプⅡa」ダイヤモンドが輝くリング。インドの宝物にインスピレーションを得た絢爛たるデザインで、ピジョンブラッドの最高位のルビーが使われている。その丸みを帯びた表面のなめらかな質感は、バフトップ仕上げによるもの。
左/貝殻のモチーフが連なるロココ調の優美なデザイン
曲線で構成された立体的な貝殻のモチーフがリズミカルに連なる、18世紀に流行したロココ芸術様式の特徴を擁すブレスレット。バフトップ仕上げを施したルビーは、トラディショナル ミステリーセットによって完全に土台の構造を隠し、優美で有機的な美しさに。その鮮明な色彩をダイヤモンドがより際立たせる。
“Bulk of treasure here.”
宝の大半はここに
──ロバート・ルイス・スティーヴンソン作『宝島』より
左/4大宝石が華麗に彩る海賊の“宝箱”が着想源に
海賊の宝箱に着想を得たリングを彩るのは、4大宝石のダイヤモンド、サファイア、ルビー、エメラルド。そのボリュームと装飾デザインが、比類なき華やかさをもたらす。ロイヤルブルーのサファイアは貴重なビルマ産。オープンワークの構造によって光を取り込み、鮮明な色彩がより際立つ。
右/王家の宝にふさわしい王冠を想起させるリング
リングの中央で圧倒的な存在感を放つクッションカットのサファイアは、約17カラットもの大きさ。柔らかなブルーが特徴のマダガスカル産で、透明度の高さも魅力。周囲のルビーとエメラルドは、中心のサファイアに合わせたカラーとクオリティの石が選ばれ、完璧な調和を描く。
右/オリエンタルな美を宿す8通りにも変化する宝物
想像上の宝物をオリエンタル風にアレンジしたネックレス。トランスフォーマブルな仕様で、なんと8通りに着用できる。ペンダントトップもその下のフリンジも取り外すことができ、長さもチョーカーからロングネックレスまで段階的に変化。最高品質のパールとダイヤモンドが、アイディア溢れるデザインに永遠の価値を与えて。
左/ついに宝箱を発見!宝探しの物語は最終章へ
3種の交換可能なモチーフが付いた、全3章からなる物語を象徴するクリップ。これは、鮮明なプレシャスストーンが煌めく宝箱のモチーフをセットした状態。
卓越したサヴォアフェールが生み出す想像を超えたクリエイション
デザイナー、宝石鑑定家、職人とコレクション制作の航海へ
“ヴァン クリーフ&アーペル”は優秀な乗組員(デザイナー、宝石鑑定家、宝飾職人など)を従えて、新作ハイジュエリーコレクションを制作するための航海へ。壮大なストーリーを構成する作品は、メゾンに伝わるサヴォアフェールと乗組員たちの斬新なアイディア、世界中から集められたユニークで希少な宝石によって生み出されました。
1933年に特許を取得したミステリーセットをはじめメゾン伝統の宝飾技巧が、作品ひとつひとつのクオリティを高め、物語のモチーフをハイジュエリーコレクションにふさわしいものへと昇華させています。デザインは表からは見えない部分にも徹底してこだわり、所有者だけが秘密の共有者に…。そうしたデザインにちりばめられた遊び心も、ハイジュエリーコレクションならではのものだといえるでしょう。
専門分野を極めた職人たちがさらなる高みを目指して…
ジェムセッティング、金細工、ワックス彫刻、鋳造、研磨など、それぞれが専門分野の技術を極めた“ヴァン クリーフ&アーペル”のアトリエの職人たち。彼らは新たなハイジュエリーコレクションを制作するたびに、その技術をさらに進化させてきました。作品によっては従来の手法では対応が難しく、デザイン実現のために技術開発から手掛けたことも…。
今回のコレクションでは、金属工芸の高度な技術にも注目が集まっています。例えば、精密機器の製作に使われるロストワックス鋳造やエングレービングなどの精巧な金工技が、物語の重要なモチーフに命を吹き込みました。
メゾンのハイジュエリーアトリエが総力をあげて挑んだクリエイションの旅は、想像を超えたコレクションを完成させて無事に帰還。しかし、息つく間もなく、新たな船出の準備がすでに始められようとしています。
※文中の表記は、WG=ホワイトゴールド、YG=イエローゴールド、RG=ローズゴールドを表します。
問い合わせ先
- PHOTO :
- 武田正彦
- EDIT&WRITING :
- 福田詞子(英国宝石学協会 FGA)
- 画像編集 :
- 宇佐美政郁(CASK)
- コーディネート :
- 鈴木春恵